第23話 新たな仲間、エリィ

 握手して名乗るエリィに、千司は出来るだけ爽やかな笑みを浮かべて返した。


「エリィか。いい名前だな」

「そういうナクラはこの辺りじゃあまり聞かない名前」

「まぁな、出身は遠い国だ。エリィは王都出身なのか?」

「ううん、近くにある村」

「冒険者歴は?」

「一年ちょっとだけど……なに?」


 千司の問いに警戒心を多分に含んだ視線を向けてくるエリィ。

 そんな彼女に千司は一瞬言い淀む演技をしつつ、苦笑を浮かべて告げた。


「その、もしよかったらなんだが、冒険者について色々と教えてもらえないだろうか?」

「……そう言えば、今日登録したばかりって言ってたっけ」

「あぁ、先ほどの換金然り、依頼内容の難易度然り、知らないことが多くて困っているんだ」

「だから教えて欲しい、と。ナクラ一人?」

「いや、あそこにいる紺色の髪の女性も仲間だ」


 そう言って後方でジト目を向けてきていたセレンを指さす千司。

 エリィはちらりと彼女を睥睨した後、顎に手を当てて逡巡。


「俺たち二人とも腕には自信があるんだが、何分知識がなくてな。そこで先輩であるエリィに手ほどきを願えないかと思ったんだ。もちろん、報酬は支払う。……どうだろうか?」


 声色、表情、細かな仕草に至るまで、千司はそれとなく不安の色を表層ににじませて見せる。表情は柔らかく、彼女の庇護欲を刺激するように……媚びる。


 すると、エリィは小さくため息を吐いた。


「少し、考えさせて。……因みに次に依頼を受けるのはいつ?」

「一応明日の朝で予定している」

「……わかった。もし明日の朝来て私が居なかったら、その時は諦めて別の人を当たってくれる?」

「あぁ、ありがとう。いい返事を期待しておくよ」


 千司は、まるで誰かを想起させるような無邪気な少年の笑みを浮かべ、感謝を述べる。


 エリィは一瞬息を飲んだ後、瞑目。

 小さく息を吐くと「それじゃあ」と言って併設された酒場へと向かって行った。



  §



 エリィと別れた千司はセレンを連れてギルドを後に。

 宿屋に戻ってライカと合流すると、三人で夕食に向かった。


 案内されたのはいたって平凡な食堂。


 特別綺麗という訳ではないが、不衛生でもない。


 一応は酒場と言う扱いらしいが、料理がおいしく人気なのだとか。

 千司は酒を飲まないし、セレンも仕事中、二人が飲まないのなら自分も結構ですとライカも断わり、結果酒場で酒を頼まない迷惑客の完成である。


「とりあえずおすすめを三人分」

「はいにゃ!」


 酒を頼まない三人に対し、しかし店員の猫耳を生やした獣人の少女は怪訝な顔も見せずに注文を取ってキッチンへと向かった。


「『にゃ』ってなんでしょうか?」

「さぁな。私も王都の流行りには疎いからな」


 店員を見送った後、コソコソと言葉を交わすライカとセレン。


(『にゃ』って、以前俺が賭博場を開いていた時に、店員の娼婦に使わせていた語尾だよなぁ)


 ライカやセレンの反応を見るに、猫耳の獣人が『にゃ』という語尾を使う訳でもなさそうなので、もしかすれば店の関係者が賭場を訪れたことがあったのかもしれない。


 そんなことを考えていると「おまたせにゃ~」といってテーブルに料理が並べられた。肉に魚にスープにパン。どれも美味しそうである。


 「いただきます」と言って料理に口を付け、思わず感嘆の息をこぼす。


(何の肉かはわからんが……うまいな)


 料理に舌鼓を打っていると、ふと対面で食事をしていたセレンがジト目を向けてくるのに気が付いた。視線が交差すると、彼女は口の中の物を飲み込んでから告げた。


「それで、先ほどギルドで話しかけていた少女をどうするつもりだ?」

「どうする、とは?」

「教えを乞いたいなどと言っていたが……手を出すつもりかと聞いている」


 その言葉に隣のライカが噴き出した。

 千司はそっと拭く物を手渡しつつ答える。


「まさか、そんなつもりはありませんよ。聞いていた通り、彼女には冒険者のあれこれを教えてもらおうと考えています」

「ライカが居るだろう?」

「ライカも知識はありますが、それでも現職の冒険者には劣るでしょう。加えて、ライカのステータスでは戦場に連れて行くのに不安が残ります。なので、戦闘もできる冒険者を仲間にしたいと考えておりました」

「それが彼女だと?」

「えぇ、先ほど見た限り一人で活動されているようでしたし、何より彼女はギルドで少し浮いていました。今朝登録する際に知りましたが、冒険者の方々は勇者、および騎士を毛嫌いしている傾向にあります。故に、孤立している彼女は都合が良いと考えました。……相談もせずに申し訳ありません」


 千司の言葉にセレンは考え込む。

 そして数秒の後、小首を傾げた。


「良く分からんが、色々と都合がよかったという事でいいか?」

「……はい。まぁ、まだ提案を受け入れてもらえたわけではありませんので、あくまでも候補の一人ではありますが」

「随分と可愛らしい候補だな」

「偶然ですよ」


 鋭い視線が向けられる。

 千司は無視して肉を頬張る。


「ふん、貴公の周りにはよくよく可愛らしい者が集まる物だな。あの少女然り、隣の執事然り」

「目の前の護衛もそうですよ」


 瞬間、目を細めて千司を睥睨するセレン。


「口説いているのか?」

「まさか、客観的な事実を口にしているだけです。ライカはどう思う?」

「え、そ、そうですね。確かにセレン様は大変お美しい方だと思います」


 照れたように頬を染めながら告げるライカ。

 そんなお前が一番かわいいよ、との言葉はぐっと飲み込み、千司は「ほらね」とセレンに視線を送る。


「むぅ……そうか」


 二人から褒められて満更ではなかったのか、セレンは口をへの字に曲げつつも、照れたように頬を掻き、話題から逃げるように料理を口に運ぶのだった。


 食事を終えた千司たちは宿屋へ戻り、男女別々に部屋へ。


「今日は疲れたな」

「そうですね……何故同じベッドに?」

「疲れたからなぁ、癒してもらいたいんだよ」

「……余計に疲れるのでは?」

「まぁまぁ、細かいことは気にするな」

「細かくはな——ん、んむっ」


 そうしてライカをベッドに押し倒す千司。隣の部屋のセレンに聞かれないよう、必死に声を押し殺す彼に興奮しつつ、二人の夜は更けていくのであった。



  §



 翌朝、宿で朝食を済ませた千司はセレンを連れて冒険者ギルドへ向かった。本日よりライカはお留守番。昨夜激しくし過ぎた——という訳ではなく、戦力的な問題。


 代わりに彼には冒険者やモンスターに関する情報を集めてもらう手筈となった。


 ギルドの扉を開けると、依頼の張り出された掲示板の近くに青色の三角帽子をかぶった魔女っ娘を発見。片手を挙げて近付くと、向こうも気付いた様子でトテトテと歩いてきた。


「おはようエリィ。来てくれたという事は、昨日の頼みを受けてもらえるという認識で良いだろうか?」

「うん、大丈夫。もともと予定もなかったし……それに、人が死ぬのは嫌だから」


 聴こえるか聞こえないかの声量でぼそりと呟いたエリィの言葉に、千司は聞こえなかったふりをして首を傾げた。


「すまん、何か言ったか?」

「んーん、なんでもない。それよりそっちの人を紹介して」

「あぁ、彼女は——」

「初めまして。私は第——新人冒険者のセレンだ。よろしく頼む」


 第一騎士団と言いかけたセレンに、しかしエリィは特に気にした様子も見せずに淡々と返した。


「よろしく、私はエリィ・エヴァンソン。ソロで活動している冒険者で、見ての通り魔法使い。ランクは一応金級」


 その言葉に千司は少し驚く。

 以前メアリー・スーとして会っていた時、彼女はまだ銀級だったからだ。


「金級……上から二番目だったか。若いのに凄いな」

「魔法の才能に恵まれただけ」

「ふむ、何はともあれ魔法を使うのなら相性がいい。私も彼も基本的には剣で戦うからな」

「確かに、それなら戦いやすい。……っと、そろそろ何の依頼受けるか決めよ。早くしないと選択肢がなくなるから」

「だな」


 首肯を返して掲示板に張り出された依頼を確認。

 すると頭に疑問符を浮かべたエリィが小首を傾げた。


「そう言えば、こっちの依頼でよかったの? ダンジョンに行って稼ぐって方法もあるけど」

「あぁ、できれば外で戦いたい」

「因みに昨日はどんな依頼を?」

「オークの討伐だ」


 さらっと言ってのけた千司に、目を丸くするエリィ。


「二人だけで?」

「今日は連れてきてないが荷物持ち含めて三人だ。まぁ、戦ったのは俺たち二人だが」

「……へぇ、腕に自信があるのは本当なんだ。因みになんでオークを?」


 その問いに、千司とセレンは顔を見合わせてから声を揃えて答えた。


「「でかくて見つけやすそうだったから」」

「……なるほど。冒険者の知識ってつまりはそういう……ならこれなんかどう?」


 そう言って彼女が手にしたのはゴブリン討伐の依頼。


 ダンジョンの一階層にも生息していた雑魚中の雑魚である。召喚されて間もない頃、ダンジョンへ腕試しに向かった千司が鼻歌交じりに無双した相手だ。


 千司の真の目的が別にあるとは言え、『安全に戦闘訓練ができるかどうかの調査』と言う名目で来ている千司にとって、弱すぎる相手を調査しても意味はない。


 セレンも同じ気持ちなのか口をへの字に曲げて難色を示す。


「貴公、ゴブリンは少し弱すぎるのではないかと私は思うのだが」

「貴公……? ま、まぁ、確かにそれぞれの個体自体は強くないし、ダンジョンに出てくるゴブリンなんかは初心者にとって格好の獲物でしかない」

「ならば——」

「でも、森に潜むゴブリンは一味違う」


 エリィの意味深な言葉に、千司とセレンはしぶしぶ了承。

 ゴブリン討伐の依頼を受け、ギルドを後にするのだった。



  §



 向かったのは昨日訪れたのとは別の方角にある森である。


 片道約三時間ほどの距離を歩きつつ、その道すがら千司たちは各々の戦闘方法や使う武器、ステータスを開示、戦闘時の動きを決めていく。


 基本はセレンが最前線で戦い、エリィが魔法で援護。

 千司はいつでもエリィのカバーに入れる位置で構えることとなった。


 そうこうしている内に森に到着。セレンを先頭に入って行くと、エリィはこの森に潜むゴブリンについて説明を始めた。


「この森に生息するゴブリンは、その大半が遺跡・・から追いやられた個体と言われてる」

「遺跡?」

「そう、この先に二日ほど進んだところに遺跡と呼ばれる廃都市がある。それなりに大きいけど、多種多様なモンスターが生息していて危険。でも基本的に外に出てくることは少なくて、精々弱いモンスターが追いやられて森に逃げ込む程度」

「ゴブリンがその一種だと」


 こくりと首肯を返すエリィに、セレンは首をかしげる。


「つまりは雑魚と言う認識で構わないのだろう?」

「確かに。戦闘力は高くない。けどその代わり――」


 ふと、ガサッと右側の草むらが揺れる。


 警戒しつつ視線を向けた瞬間、音とは別方向。

 直上から錆びた短剣を手にしたゴブリンが降って来た。


「おっ、と」


 僅かに驚きつつも千司は落下中のゴブリンの首を掴むと、そのまま近くの木の幹に投げつけた。首の骨が折れて絶命するゴブリン。


「大丈夫か?」

「……ありがと。でもつまりはこういう事。森に潜むゴブリンは、頭を使って攻撃を仕掛けてくる。だから、僅かな痕跡も見逃してはダメ」


 そう語るエリィの手には短剣が握られていた。どうやら木の上にゴブリンが潜んでいたことに気付いていたらしい。


「どうやって気付いた?」

「よく見ると木に爪の痕があるから、真新しい傷を見つけたら上を警戒しとくといい」


 千司が確認すると、ゴブリンが襲ってきた木のすぐ近くの木に、爪の後を発見。この木を使って上に昇り、別の木に移動して潜んでいたのだろう。


「因みに草むらが揺れたのは?」

「仲間がいるか、石か何かを投擲したか。この状況で出てこないところを見るに、後者だと思う。ゴブリンは弱いけど、頭は悪くない。奇襲のために策を講じるし、簡易的な物だけど罠だって張る。加えてこの森の中、小柄なゴブリンは見つけにくい。そういうのを知るのも、冒険者の知識だと考えた」

「なるほど。確かにいい経験になりそうだ」


 それは本心だった。

 事実、薄暗い森の中ではゴブリンは見つけにくいし、罠もあるとなれば厄介極まりない。戦闘経験という意味ではかなり有用だろう。


(これだとむしろダンジョンのゴブリンが可哀想だなぁ。罠を作る道具はないし、隠れられる場所もないただの雑魚。まぁ、その雑魚に襲われて死にかけてた奴も居たが……)


「ならよかった。……でも驚いた。ナクラがここまで強いとは思わなかったから」

「ありがとう。でも、セレンの方が強いぞ」


 と、そう言って前を歩くセレンに視線を向ける。

 彼女はエリィの説明を受け、周囲の木々を警戒。


 真新しい爪痕を発見するとその木を見上げ——背中側から奇襲を受ける。


「うおっ、何故後ろから! 貴公! 嘘を吐いたのか!?」

「……ゴブリンは俊敏、木の上も簡単に移動する。むしろ、傷をつけた木で待ち伏せする方が少ない」

「なるほど……くっ、こんなところに罠がッ、くそ、こっちも……わぎゃ!」


 奇襲に驚いたセレンは蔦を使って作られた見え見えの罠に足を取られ、それを引きちぎったかと思えば今度は別の罠に。最終的にすべて力ずくで破壊すると、最初に襲って来たゴブリンを拳一発で肉塊へと変えた。


「……確かに強いね」

「……だろ」


 服を泥だらけにし、髪に蜘蛛の巣を引っかけたセレンを見て千司は(ほんとに馬鹿なんだなぁ)と辛らつ極まりないことを思うのだった。


 それからもゴブリンの罠にことごとく引っかかるセレンを連れて、千司たちはゴブリンを討伐していく。


 全身を泥だらけにしつつも、しかし一切傷を負わないセレンを見るに、流石は第一騎士団騎士団長と言ったところか。


(いや、オーウェンならそれこそ汚れ一つないだろうな)


 戦闘力はあるが頭の弱いセレンにとって、ゴブリンは相性が悪いらしい。


 そんな彼女をしり目に千司はエリィから罠の見つけ方や敵が隠れやすい場所などを聞き、冷静に処理していく。


(最初はどうかと思ったが、戦闘経験という意味ではかなり有用だな。何よりゴブリン本体は勇者にとって雑魚以外の何物でもないし、下級勇者に実践を覚えさせるにはちょうどいい。……あとは)


 千司はゴブリンの討伐証明である右耳を切断していたエリィに話しかける。


「それにしても、エリィはすごいな。冒険者になって一年ちょっとだと言っていたが、これほどとは」

「……一応、冒険者になる前から、ゴブリン討伐はしてたから」

「というと?」

「……王都から三日ほど歩いたとこに、私の生まれた村がある。その近くにもゴブリンは生息していて、家畜や女の人が襲われることがあった。そして、私にはたまたま魔法の才能があったから、子供のころから狩人のおじさんと森に入って戦ってた」

「それはすごいなぁ。怖くなかったのか?」

「怖くなかった、と言えば嘘になる。……でも、泥だらけの私をいっつもイルが褒めて……っ! な、何でもない」


 どこか懐かしそうに相貌を崩して、とある少年の名前を口にしたエリィ。

 しかしどこか悔しそうに唇を噛み締めると、何かを振り払うように頭を振って誤魔化した。


 そんな彼女を見て、千司はしみじみと思う。


(よほどイルくんと仲が良かったんだなぁ~)


 と。


 エリィとイル然り、せつなと夕凪飛鷹然り。幼馴染には恋愛関係とは別種の『幼馴染』という名の強い絆があるのだろう、などと両者を嬉々として殺害した千司は考えつつ、優しい声でエリィに寄り添った。


「……そうか。だが、その経験のおかげで今俺たちは助かっている。ありがとう、エリィ」

「別に、いい」

「それにしても、子供のエリィが戦うとはな……その狩人以外の大人はどうしていたんだ?」

「元々人の少ない村だし、私は近所のおじさんたちよりステータスが高かったから」

「なるほどね」


 千司は適当に返事をしつつ、思考。


(……人の少ない村、ねぇ)


「おい、話は終わったか? 終わったのならあちらのゴブリンの耳を集めて来てくれ」


 考え込んでいると鼻に泥をつけ、髪に蜘蛛の巣を巻き付けたセレンが低い声で命令してきた。


「……わかりました」


 千司は小さくうなずくとセレンの髪に付いた蜘蛛の巣を取り、鼻の泥を拭ってから、死体を損壊できない彼女に代わりゴブリンの耳を回収し始める。


 依頼内容が三十匹以上の討伐であり、今回収しているので合計三十六個目の耳。


 太陽も頂点を過ぎて、王都に帰る時間を考えると、そろそろ森を後にするのが正解だろう。


 いそいそと、ゴブリンの耳を回収していると、後方から二人の会話が聞こえて来た。


「……ところで、二人は恋人同士なの?」

「違う。あんな最低男、願い下げだ」


 エリィの問いにセレンは即答。

 その声は照れ隠しなどではなく、紛れもない本心である。


「最低?」

「そうだ、あいつは女と見れば……いや、顔さえよければ誰彼構わず手を出す最低な男だ。加えてそれを恥じることも無く、仕方がないとまで言ってのける。貴公も気を付けたまえ」

「優しそうに見えるけど」

「見えるだけだ。全くもって不純、不道徳の塊。へリスト教徒である私にとってあれは敵以外の何物でもない」

「そこまで……」

「あぁ、貴公は大変可愛らしい容姿をしている故、くれぐれもかどわかされぬように注意を——」

「ちょっと? さすがに酷くありません?」


 エリィに忠告するセレンに、千司は口をへの字に曲げて抗議。


「事実だろうが」

「事実なの?」


 純粋無垢な視線で見つめて来るエリィに、千司は顔を逸らて討伐証明の耳が入った袋を掲げて答えた。


「まぁ、そんなことより依頼は達成したしそろそろ帰ろう。暗くなるといけないからな」


 爽やかな笑みを浮かべて答える千司。

 セレンとエリィは顔を見合わせて頷く。


「ほらな」

「ほんとだ」


 二人との心の距離が少しばかり開いた気がした。



  §



 森を出たところの草原にて遅めの昼食を済ませてから、千司たちは王都へと向かう。


 走れば数分とかからない距離ではあるが、極力目立つ行動は避けたい。勇者や騎士だとばれると面倒事になるのは目に見えているからだ。エリィにもステータスを開示した際に、他の冒険者には漏らさないよう忠告してある。


 その際「そんなことするわけないし、する相手も居ない」と淡々と告げられた。


 やはり彼女はギルド内で浮いているらしい。


 三人並んで三時間の帰路を歩き、王都のすぐそばまで帰ってきたところで、ふと前方に一人の男を発見した。


 別に王都の外に人が居ないわけでは無いが、それでも基本は複数人で行動している。ソロの冒険者か、と思っていると男は千司たちを見つけて手を挙げた。


「おーい! 少しいいかー?」


 千司たちは顔を見合わせた後、警戒しつつ近付いた。


 男は見た所三十前後といった年齢で、身の丈ほどの巨大な盾を背中に担ぎ、腰には直剣、重そうな鎧を身に纏い、されど一切疲れた様子も見せていない。


 頭部が寂しいお年頃なのか、バーコードとなった髪を揺らし、重そうな鞄を手にした男は快活な笑みを浮かべて口を開いた。


「アンタら王都の冒険者か?」

「そうだが、どうかしたのか?」

「いやぁ、実は俺も冒険者なんだけどよぉ、王都に来るのは初めてで……よかったら冒険者ギルドまで案内してくれねぇかと思ってなぁ~」

「それなら俺たちも丁度ギルドへ向かう所だ。一緒に行こう」

「ほんとか!? わひゃ~、助かった~」


 へらっと嬉しそうに笑う男は、千司に向かって右手を差し出して名乗る。


「俺の名前はロイアー。よろしくなぁ~」

「あぁ、よろしく」


 そうして、千司はロイアーと握手を交わすのだった。

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