第7話 キミたちと過ごす最後の青春
リゼリアを装備しながら荷物をまとめていると不意に扉がノックされた。
せつなや文香の場合、非常に面倒なこととなるため離れるように視線を向けると、察したのか大人しく離れてベッドに腰かけた。
(こういう時、頭がいいと楽だよなぁ。新色ちゃんならこうはいかない)
などと失礼極まりない思考を行いつつ扉を開けると、そこには金髪の少年がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。
「こんにちは奈倉殿」
「これはこれは、ギゼルさんじゃないですか。どうされました?」
「今少しお時間よろしいか……と、言いに来たのですが、お邪魔でしたかな?」
扉の前に立っていた少年ギゼル・レブナントは、千司の後方でベッドに腰掛け足をプラプラ揺らすリゼリアを見ると苦笑を浮かべて見せた。お邪魔でしたかと言いつつも、その実帰るつもりなどないのだろう。
「いえ、問題ありませんよ」
勤めて爽やかな笑みを浮かべながら応対していると、ベッドから飛び起きたリゼリアがキョトンとした表情を浮かべた。
「あれっ、ギゼルじゃねぇか!」
「こんにちは、リゼリア殿。少しお邪魔しても構いませんか?」
「おう、もちろんだっ!」
白い歯を見せ快活な笑みを見せるリゼリアに、千司とギゼルは目を見合わせて同時に苦笑するのだった。
§
備え付けの椅子をギゼルに与え、千司はリゼリアと並んでベッドに座る。流石にリゼリアも空気を読んだのか、その距離は人一人分ほど空いていた。
(やっぱり新色ちゃんじゃこうはいかないね)
とかなんとか考えていると、こほんと咳払い一つ入れてギゼルが口火を切った。
「実は先ほど家の迎えが到着いたしまして、荷物も事前にまとめていた為本日一足先に帰ることとなりました。つきましてはお別れの挨拶にと思いまして」
「これはこれはご丁寧に。しかしそれは寂しくなりますね」
「そうですね。短い間でしたが仲良くさせていただきましたから。……はは、こう感傷に浸るのは貴族としてあまりよろしくは無いのですが、私もまだまだ若輩者ということですね。学友との別れは寂しく感じます」
「ギゼルさん……」
千司は寂しさを『偽装』してそれっぽく相槌を打つ。
自らの感情を『偽装』しないと、あまりに興味がなさ過ぎて今後に支障が生まれるからだ。ギゼルは優秀な駒だった。情報を奪い、学内での立場安定に協力させ、襲撃の際も隠れ蓑になってくれた。
が、それももう終わり。
学園なら彼の地位も使いようがあったが、学外に出れば精々いいところのお坊ちゃんという評価でしかない。
(それに、レブナント家は『ロベルタの遺産』を所有してないしな~)
所有してたらまた違った使い道もあったのだが、と内心肩を落としつつ、しかしそんなことはおくびにも出さずに、千司は思考を切り替えた。
「奈倉殿には本当にお世話になりました。授業にしろ、先日の襲撃にしろ。奈倉殿の発想と行動力にはいつも驚かされておりました」
「そんな、私などまだまだ。ただ目の前のことにがむしゃらに取り組んでいただけですよ」
「またご謙遜を。……私も奈倉殿を見習って貴族として頑張りつつ、貴方のその力が存分に発揮され、勇者として躍進されていくことを影ながら応援したいと思います」
「ありがとうございます。お互いに頑張りましょう」
「ですね」
そう言って、千司はギゼルと握手を交わす。
「……それにしても、まさかあなた方ふたりがそうなるとは。想像していませんでしたね」
ふと、ギゼルは千司とリゼリアを交互に見やりぼそりと呟いた。
「ギゼルさん的にはやはり嫌悪感が先立ちますか?」
「いえ、別段私は敬虔なへリスト教徒という訳でもございませんので。まぁ、第一騎士団のセレン団長辺りに知られたならば数時間の説教が待っていそうですが」
「……彼女、その筋では有名なんですか?」
「えぇ、それはもう。彼女自身の信仰心が強いのもありますが教会側もかなり優遇しているそうで——と、流石にこれは言い過ぎですね。忘れてください。とにかく、私としては英雄色を好むとも言いますし、嫌悪感は特に。ただ、少し意外だっただけです」
「それに関しては私も同様ですね。どうやら先の一件で懐かれてしまったようで」
ちらりと視線を向けると、不服そうな顔で肩を組むようにしなだれかかってくるリゼリア。ギゼルの前なので色っぽい雰囲気は出していないが、押し付けられる胸の感触に変わりはない。
「ペットみたいに言うなよなぁ、勇者ぁ~」
「はいはい」
千司が勤めて冷静に言葉を返すと、対面に座っていたギゼルが苦笑いを浮かべた。
「ふふっ、どうやらよくお似合いのようだ」
「……よろしいので?」
「? ……あぁ! もしや私がリゼリア殿に好意を寄せていたと思われておりましたか!?」
「いえ、そういう意味ではなく……そうなのですか?」
「くくっ、冗談ですよ。魅力的な女性ではありますが私には既に婚約者もおりますので。奈倉殿がおっしゃっりたいのは王国貴族として、の話ですよね?」
千司は無言で首肯を返す。
何しろ、千司とリゼリアがくっつくとなればそれ即ち勇者の血が帝国に渡ることを意味するのだから。王国貴族としては看過できない話だろう。
「まぁ、本来なら止める立場にあるのは事実です。王国貴族や王族が他の者より圧倒的強者である所以は勇者の血を取り込んでいるから。他国に流れるなど言語道断でしょう」
「……」
「……しかし、一友人としてはこの結果もまぁ、悪くはない、と感じております」
「ギゼルさん……」
何て
千司が帝国の人間ならば、生まれてきた子供を使ってさらに大量に
しかしそんな千司の考えなど知らないギゼルは照れたように頬を掻く。
「おっと、少しばかりクサい台詞を口にしてしまいましたね。忘れてください」
「貴方がそう仰るのであれば——」
「忘れねぇよ」
千司の言葉を遮るようにリゼリアが口を挟んだ。
驚いて視線を向けると、そこにあるのはいつもの快活な笑みではなくどこまでも真剣な表情。彼女は千司とギゼルを見つめながら続けた。
「忘れねぇよ、それも大事な思い出だ」
「リゼリア殿……ふふっ、それもそうですね」
「ですね、いつか懐かしむ青春の一ページかもしれません」
「おや、奈倉殿が一番らしくない台詞を口にしましたね」
「お恥ずかしい。忘れてください」
「忘れませんよ、それも大事な思い出です」
「それ私にもダメージ入ってるんだが?」
赤面した顔を手で覆いながら苦言を呈すリゼリアに千司とギゼルは噴き出す。少しいじけた様子のリゼリアは不満を表すように千司に肘を叩き込み、ギゼルの足をゲシゲシと蹴り付けた。
らしくないその姿にギゼルは更に笑い……一通り笑い終えると、目尻の涙を拭ってから、こほんと咳払い。口元に笑みを湛えたまま椅子から立ち上がった。
「それでは、そろそろ時間ですので私はこの辺で。お二人のおかげで魔法学園最後の思い出が楽しいものとなりました。ありがとうございます」
「いえ、私も楽しかったです」
「私もだ。ギゼルのことは千司の次に好きだぞ」
「それは光栄ですね。もし、お二人がレブナントの領地にいらっしゃることがあれば、是非屋敷を訪れてください。歓迎いたします」
「えぇ、機会があれば」
「美味い料理出してくれよ~!」
「分かっていますよ。……それでは。さようなら」
そう言って、ギゼルは背中を向けて扉を潜り、一歩踏み出す。
ゆっくりと閉まる扉の隙間から覗く、遠のいて行く少年の背中。
途端に、千司の胸中に寂しさが生まれた。
(……感傷、ねぇ)
ギゼルは駒である。駒であるが、別に嫌いな人間ではなかった。
優秀でありツーカーで動いてくれる。嫌う要素などどこにもない。
故に、こうしていざ別れの瞬間になる寂しいと感じた。
が、それはそれ、これはこれ。
(どうにかして、感動の再会をしてみたいものだな)
寂しいのなら会いに行けばいい。
その表情はきっと、絶望に塗れて居るだろうから。
「……なんだか、寂しいな勇者」
「そうだな」
リゼリアの言葉に首肯を返しながら、千司はいい案はないかと思考を巡らせる。どうすればより面白くなるのか。勇者以外を殺す必要などどこにもないが、すでに千司にとってはどうでもいい事であった。
§
同日の昼。
リゼリアに邪魔されつつも何とか荷造りを終えて昼食を摂った千司が学内を一人で散歩していた。
因みにリゼリアは先に帰ると言ってナチュラルに千司のコテージへと帰宅。
おそらく夜も泊る腹積もりなのだろう。
明日でお別れとなる学園を散策していると、ふと猫屋敷を見かけた。
彼女の隣には金級勇者である友人が二人。
一人は艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、前髪をぱっつんに切り揃えたお嬢様のような少女、
もう一人はショートヘアーの良く似合う日焼けした元陸上部、
両者ともにスタイルが良く、猫屋敷の隣に並んでいても違和感はない。
強いて浮いている人間を上げるとすれば、そんな彼女たちに囲まれている一人のオタクぐらいだろうか。
「辻本は荷造り終わったの?」
「いえ、まだあと少し」
どこか居心地の悪そうな辻本に話しかけるのは猫屋敷。
「あれ、いつものござるは~?
「べ、別にあれは忍者ではなかったのですが……」
次いで忍者のように印を結んで溌剌とした笑みを見せる斎藤。
「そうだったんだ。私も忍者だと思ってた」
「まぁ、特にこだわっていたわけではありませんが」
最後に黒髪を揺らして淡々と告げる二階堂。
そんな彼女らを見て、千司は内心でほくそ笑む。
(ふむ。……猫屋敷には改めて頼もうかと考えていたが、どうやら自主的に動いてくれたようだなぁ)
それは以前、岸本と富田のあらぬ噂が学内に流布された際のこと。
辻本も一緒になって貶められ精神的に弱った居るところを『励まして欲しい』と千司は猫屋敷に頼んでいた。
その後すぐに襲撃となり、もしかしたら忘れているかもしれないと考えていたが、どうやらそうではなかったらしい。
岸本と富田の二人が死に(猫屋敷たちは不破、渡辺同様に行方不明と思っている)、先日とは比べ物にならないほど弱っている辻本。
つけ込むならばこれ以上の好機はない。
思考を巡らせていると、ふと二階堂と目があった。
「あれ、奈倉くんだ」
「偶然だな」
適当に会話を合わせつつ、千司は目の前の四人を観察。
二階堂は平時と変わった様子はないが、斎藤は何処か無理をしている様子。おそらく先の襲撃の恐怖を未だに引き摺っているのだろう。
(あっちもこっちも弱ってて、いや~大変だなぁ)
内心歓喜しつつ視線を辻本へ。
彼もまだ落ち込んだまま。
そして最後に猫屋敷へと目を向けると——彼女はジトっとした視線を向けてきた。
「……奈倉くん」
「どうした?」
不意に会話を遮って千司の名を呼ぶ猫屋敷。
彼女は逡巡したのち、大きくため息を吐いて告げた。
「……本当にいいの?」
おそらくそれは、辻本を励ますにあたり猫屋敷に彼氏が居る事を隠して接しろと千司が命令したことに対する最終確認。
猫屋敷も馬鹿ではない。
千司の告げた『隠して接しろ』が、つまり『色恋』を交えてでも励ませ、という意味なのは正確に理解しているのだろう。
故に彼女は千司を睨みつけている。
が、しかし千司は迷うことなく即答。
「あぁ、頼む」
「……わかった」
最終的に猫屋敷はしぶしぶと言った様子で首肯を返した物の、千司を軽蔑した目で睨みつけるのだった。
「ど、どうしたのですか?」
「別に。それより荷造りまだなら手伝うよ」
困惑する辻本たちを連れて、猫屋敷はさっさと去っていった。
(さて、面白い具合に転がってくれよぉ~?)
別段恋愛関係に発展しなくてもいい。
友情。親愛。仲間意識。片思い。
何でもいい。
強い繋がりとはそれだけで弱点であり、何よりその関係が破綻したときを想像するだけで思わず口角が上がってしまうほどに楽しいものなのだ。
そんなことを想いつつ千司は一度伸び。
最後に海でも見てからコテージに戻ってリゼリアといちゃつこう。
などと考えていると、背後から声を掛けられた。
振り向けば、そこには漆黒のドレスを身に纏った王女が一人。
「こんにちは、奈倉様」
「これはこれは、ライザ王女。こんにちは。どうかされましたか?」
「えぇ、実はこちらをお渡ししておきたいと思いまして」
そう言って手渡されたのはどこか見覚えのある巾着。
中を開けると、案の定避妊薬が数粒入っていた。
「……ほう」
「奈倉様はお年頃ですし、何より死の危険が迫るとそういう欲求が高まるとも聞きます。ですが、王国と帝国の情勢を鑑みて、この点だけはご配慮願えたらとお願いに参った次第でございます」
その口ぶりからするに相手も知っているのだろう。
「気付かれていたのですか」
「そうですね。彼女——リゼリアさんでしたか? はよく態度に出る方のようですし。魔法学園に来てすぐ見た時の彼女と、その翌日では奈倉様に向ける視線が明らかに変わっておりました」
「そうですか。……まぁ、流れと言いますか」
「関係を持ってしまったものは仕方ありません。ですが、雪代様や天音様、海端様のことも考えて少しは節操を持っていただくようお願いいたしますね」
「気を付けます」
千司の言葉にライザはにっこりと圧の感じる笑みを浮かべ、踵を返して去っていった。
すっかり避妊薬配給係と化した王女様を見送りつつ、千司はリゼリアの待つコテージに帰還するのであった。
§
その日の夜。
無事避妊薬(それも王女印の純正品)を入手した千司は、気兼ねなくリゼリアとの子作りに励む。
「あはっ♡ 出来たっ、絶対子供出来た!」
一回戦が終わり一息ついたところで嬉しそうにお腹を擦るリゼリア。
「それは良かった。元気な子が生まれると良いな」
と言いつつ、千司は紅茶に避妊薬をイン。
千司が子供を作りたくない理由はいくつかあるが、一番大きいのがライザから目を付けられるという点。少なくとも二人目は防ごうと堂々と監視を付けられるだろう。
他にもせつなや文香、新色——そしてリニュの好感度調整に影響が出る。
と言っても、前者三人は依存レベルが高水準で推移しているため問題ないかもしれないが。しかしリニュは別。まだ攻略途中である。
特に強い現地人を求める千司にとって彼女の確保は絶対のため、必然リゼリアとのこともはあり得ない。
(……そう言えば、今日はリニュと会わなかったな)
話はせずとも一日に一度は姿を見ていたので珍しい。
そんなことを考えていると千司の首にリゼリアの腕が回された。
「勇者ぁ?」
「いや、何でもないよ」
「そうか……んっ♡」
甘えた視線に応えるように、千司はリゼリアの唇を奪うのだった。
§
翌朝、朝食を済ますといよいよ王都へ向けて出発となる。
そこには勇者の姿だけでなく、何人か魔法学園の生徒の姿も。
王都方面に家のある者たちである。
中には何人か見覚えのある生徒もいた。
(こりゃ結構な大所帯になるな。……田中の隣に居るのはウィリアムか? まぁ、オーウェンの息子だしおかしくはないか)
などと考えているとちょんちょんと肩を叩かれる。
「奈倉さん」
「ん? あぁレーナか。見送りに来てくれたのか? 松原なら——」
「いえ、そうではなく……正直な話、私の実家はそこまで裕福な貴族ではないので、一時的におにぃ……兄のもとに身を寄せようかと」
「本当か? なら、松原も喜ぶよ」
「はい。なので今後とも、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
差し出されたレーナの手を、千司は優しく握り返すのだった。
「では、先に馬車に乗っています」
「あぁ」
馬車に乗り込むレーナを横目に見ていると、荷物を持ったせつなや文香、新色も到着。他の勇者や生徒たちも続々と到着していた。
「なんか、長いようで短かったね」
魔法学園に残る生徒や先生にに別れを告げる勇者たちを横目に、せつなが呟く。
「……だな」
「色々と大変だったし、結局最後は散々だったけど……でも、何だかんだで日本に居た頃に戻ったみたいで、楽しかった」
「そうだな。第二の母校ってやつだ」
「そうかも」
くすくすと笑うせつな。
と、その時。
「ゆうしゃあ!」
見送りに来た生徒の人ごみから飛び出して、リゼリアが抱き着いてきた。
既に朝のうちに別れの挨拶は済ませ、レーナが来る前にも改めて告げたというのに、彼女は目に涙を浮かべながらぎゅっと抱きしめてくる。
「……千司?」
「あー、悪い。学園で特に仲良くしてたクラスメイトで——」
言うと、せつなは千司とリゼリアを交互に見て……大きくため息。
「馬車で待ってるから」
と告げて背を向けた。
あとでたっぷり甘やかすとしよう。
内心せつなに感謝しつつ、千司はリゼリアを見やる。
「大丈夫か?」
「……やっぱ、離れたくない」
「別に、今生の別れじゃないだろう?」
「このまま順当にいけば、魔王を倒して、帰ってしまう。そうなれば、私はもう勇者に会えない」
実際魔王を倒した後に猶予があるのかは分からないが、リゼリアは帝国の人間。
会うことは難しいだろう。
というか千司の場合勇者皆殺しに成功した場合、裏切り者として指名手配。
失敗した場合は死んでいるのでどちらにしろ会うのは不可能である。
「あぁ、可能性はあるな」
「やだ……っ、そんなの……寂しい……。もっと話したい。もっといろんな場所に一緒に行きたい。もっと一緒に生きていきたい」
「……結婚はしなくてもいいんじゃなかったのか?」
それは初めてリゼリアと関係を持った夜のこと。
——『勇者に恋人がいるのは知っている。それも二人も。他にも手を出していそうな女が居るのも知っている。だから、別にその中に入れろだとか結婚しろだとかは言わない。……私はただ、勇者とのつながりが欲しいんだ』
と、彼女は言った。
しかしリゼリアは首を横に振る。
「……嘘に、決まってる。……私は、勇者を——奈倉千司のことを、愛している」
「リゼリア……」
まっすぐに愛を囁いたリゼリアを、千司は強く抱きしめ返した。
流石にこの場でキスすることは出来ない。
好感度調整的な意味で。
代わりに千司は優しい笑みを浮かべて周りに気付かれない程度に彼女のお腹を擦り、耳元で囁いた。
「俺も愛している。けれど、もう会えないのなら——俺の代わりにこの子に愛を注いでやってくれ」
「千司……」
「ちゃんと、孕んでくれたんだろう?」
「……あぁ、もちろんだ」
「じゃあ、後は頼んだぞ」
最後に彼女を強く抱きしめてから、千司は馬車に乗り込む。
「それでは時間です。出発してください!」
ライザの声を皮切りに、先頭から馬車が動き始めた。
しばらくして千司の乗る馬車も動き出し——。
「じゃあな、奈倉千司! 生き残れよ!!」
「あぁ! そっちも元気で!」
涙を流しながらも満面の笑みを浮かべて手を振るリゼリアに、千司も手を振って返すのだった。
(まぁ、子供は出来てないんだけどね)
はっきり言って、最低最悪のクソ野郎である。
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