第11話 ロベルタとの協力関係
「なるほど、なんとなくですが貴女の強さの所以がわかった気がします」
「うむ、
ふんす、と自信満々に無い胸を張ってみせるロベルタ。
しかし、そうなると新たに聞いておかなければならないことがある。
「それじゃあどうやって封印解除後に全人類を殺戮する予定だったのでしょうか? 封印が解かれたら自動的に貴女の元にロベ――心優しいやや子の皆様が集まるのでしょうか」
一瞬『ロベルタの遺産』と言いかけて止める。彼女がその呼び名を知らない可能性が充分にあるし、それにどこに地雷があるかわからない。呼び名一つで彼女の逆鱗に触れてしまう可能性も充分に考えられた。
慎重に慎重を重ねて、ロベルタに配慮の姿勢を見せる千司に対し、当の本人はぽかんとしたアホ面を浮かべていた。
「む? ……むむむっ?」
「えっと……」
「どうしよう、考えてなかったのじゃ……っ!」
うっかりしていた、と嘆く彼女に千司は閉口。
内心でロベルタに対する警戒レベルを大いに引き下る。
(……こいつ、想定していたよりアホなのか? まぁ、それでも魔法に関する知識は多そうだし、それになによりロベルタの遺産さえあれば、かなりの戦力になるのは間違いない。何しろ、彼女には全人類の三分の一を殺した
「ぬあーっ! 盲点だったのじゃ! どうするのじゃ!? とにかく魔力が回復するのを待って……って、それでも妾は後衛じゃから弱いのじゃ~!!」
ついには(><;)みたいな顔で頭を抱えてしまったロベルタ。
そんな彼女を睥睨しつつ、千司はあらかじめ用意していた作戦をいくつか修正してから、彼女を仲間に引き入れるための言葉を紡いだ。
「それでは、私と手を組みませんか?」
「むむっ? 手を組む?」
「はい、私が貴女の子供たちを探して連れて参ります。そして、貴女の力が完全復活するまでの間、私が貴女の子供たちに変わって、貴女の身をお守りします」
「……でも、妾は全人類を殺戮したいから、お前のことも殺す予定じゃぞ?」
「では、その順番を最後に回して頂ければそれで構いません。その代わり、貴女の中にある魔法に関する知識をお借りしたい」
「ふむ……確かに妾は魔法に関してそれなりに明るいが……何故じゃ? 何故必要なのじゃ? 妾は馬鹿だからわかりやすく伝えるのじゃ」
純粋な疑問をぶつけてきた彼女に、千司は素直に答える。
「魔王を討伐するためです」
「……ほう」
「私は、今代の勇者です」
「……勇者が、妾を解き放とうというのか?」
ロベルタの目が今までに無いほど鋭くなるが、千司はその敵意を右から左へと華麗に流して、飄々と告げた。
「私は、貴女をここに匿った男――ロバートと
「同じ、とは?」
「こういうことです」
そう言って、手のひらに『偽装』で黒い靄を生み出す。
「……なるほどのう。そう言えば、召喚された勇者の中には『裏切り者』なる存在が居ると、まだ勇者パーティーに居た頃に聞いたことがあったのじゃが……ロバートが、そして汝がそうだと?」
「えぇ、我々『裏切り者』の目的は魔王が殺される前に勇者を殺すこと。ただ、場合によってはその後に魔王と事を構える可能性もありますので、その際に力になって頂きたいのです」
「……ううむ」
千司の話を聞いて、ロベルタの眉間にしわが寄る。
どうしたのかと眺めていると、彼女は難しい顔のまま――。
「話がごちゃごちゃして難しいのじゃ。とにかくお前は妾と同じようにたくさん殺したい奴がいる、と考えてよいのかのう?」
「……えぇまぁ、そんな感じです。勇者を皆殺しにするにせよ、魔王と戦うにせよ、貴女の戦闘力は魅力的です。故に、力を貸して欲しい。私からの要望は以上です。返答は出来れば早めに――」
「わかったのじゃ。力を貸してやるのじゃ」
数日ほど悩むかと思われたが、返ってきたのは相も変わらず人を疑わない純粋な答え。
「……よろしいので?」
「うむ。だってそうすれば汝はやや子たちを探してくれて、その間、妾を守ってくれるのじゃろう? なら、後はどうでもいいのじゃ~!! それに馬鹿でも力を貸して欲しいと言うことは、きっとお前は頭がいいのじゃ!! 難しいことは全部丸投げするのじゃ~!!」
「……ありがとうございます」
ロベルタの言葉に、千司は『本当に大丈夫なのだろうか』と内心で複雑な感情を抱きつつ、素直に頭を下げるのだった。
§
「……では、私がこの地を離れる際に貴女の封印を解除、『偽装』を使って一緒に連れて行こうと思います。ですので……また七日ほどお待たせしてしまうのですが、よろしいでしょうか」
話がまとまったので、千司は早速今後の予定をロベルタに話す。
魔法学園行きが決まった際、出発日時も騎士たちから告げられていた。それが七日後。千司たちは七日後に馬車で出発し、三日かけて魔法学園へと向かう予定となっている。
「よろしいのじゃ!」
黒い靄を右手で操る千司に、ロベルタは元気よく返事。
「……そう言えば、何故貴女はこの
黒い靄を視認できる人間にであったのはこれが初めてだが、もし何らかの方法で他にも認識できる人間が現れた場合は気をつけなければならない。
「それは妾が
(……だめだ、さーっぱりわかんね)
「ええと、他に目視できる魔眼持ちの人は居るのでしょうか」
「居ないとは言い切れんが、妾の知る限りでは見たことがないのじゃ。魔眼を得る条件は複数存在するが最低条件としてエルフ或いは長寿の種族でなければならぬし、そういった種族はあまり表に出たがらぬ。故、通常気にする必要はないのじゃ」
「なるほど、わかりました」
あとで魔眼の取得条件を詳しく聞いておこう、と決意する千司。
少なくともその条件から外れている人物なら、警戒する必要が無いからだ。
「そう言えば、汝は勇者と言っていたのう」
「はい」
「今の世もランクによって分けているのかのう? 白金級だとか金級だとか」
「えぇ、ございますよ。むしろそんな昔から使われていた物なのですね」
「そうじゃのう。……それで今代のランク分けはどうなっているのじゃ? まさか白金級が召喚されていたりするのかのう……?」
「召喚……されておりますが。何かまずいのでしょうか」
千司の返事を受け、ロベルタの顔が歪む。
面倒だと言わんばかりに大きくため息を吐く。
「じゃあ面倒じゃのう……やや子たちの力を借りて、他にも幾人か協力者を得なければ魔王を倒すのは骨が折れそうなのじゃ」
「……待ってください、もしかして召喚される勇者のランクと魔王の強さは比例しているのですか?」
ロベルタの言葉に千司は背中に冷や汗を流しながら尋ねる。
まさかそんなと現実逃避したくなる千司だったが、しかし魔法に明るい彼女は淡々と己の知る事実のみを口にした。
「当然なのじゃ。あの魔法は魔王に対抗する戦力をこの世界に召喚する為の物なのじゃ。故に、白金級が居るというのはそれだけ魔王も強いと言うことなのじゃ!」
「……三人」
「む?」
「白金級、三人召喚されてるんですが……」
「……」
「…………な、何か言ってくださいよ」
「ま、まぁ、妾が手を貸すから安心するのじゃ。魔族も妾の敵に違いない。この世界の知的生命体は全て皆殺しにするのじゃ……」
「なんかさっきより覇気が無くないですか?」
「き、気のせいなのじゃ! そ、それよりも!」
ばつが悪くなったのか無理矢理話題を変更するロベルタ。
そんな彼女をジト目で見つめつつ、千司はため息を吐く。
魔王が強いことは最悪であるが、この段階で知ることが出来たのは僥倖だった。だが、そうとなれば彼女の他にも強力な異世界人を仲間にする必要がある。
やはり順当に考えればリニュとライザ・アシュートか。
アリアも優秀だが、強さという点では彼女たちが抜きん出ていると行っていいだろう。
閑話休題。
話題を変えたロベルタはしばらく悩んだ末、取り繕うように告げた。
「そうじゃ、今度こそ名前を教えるのじゃ! やはり名前を教えて貰った方が呼びやすくて妾は好きなのじゃ」
そう言えば結局今に至るまで名乗ることを拒否していた。
当然彼女に名前を教えることに抵抗感はある。例えば彼女が王国側の人間に捕まったりした場合に、『裏切り者』として千司の名前が挙がってしまう。
(が、もう顔をさらした時点で一緒か)
小さくため息を吐いてから、千司は自らの名を口にした。
「私は奈倉千司と申します。以後、よろしくお願いしますね。ロベルタさん」
「うむ! よろしくなのじゃセンジ! それと堅苦しい言葉遣いは要らぬ! 妾のことはロベルタと呼ぶといいのじゃ! 何しろ我々は協力者なのじゃからな!」
「……そうか? それじゃあ遠慮などしないが、本当に構わないんだな?」
「うむうむ、そっちの方が馬鹿っぽくて話しやすいのじゃ! かたっくるしい話し方は理解するのに時間がかかるから嫌いなのじゃ!」
「そうかい」
ニコニコと満面の笑みを浮かべるロベルタに、千司もまた笑みを返す。
こうしてロベルタは『裏切り者:奈倉千司』を知る、唯一の人間になったのだった。
(さて、こちらは順調。あとは……)
思考しながら、夜は更けていく。
§
それからの一週間、訓練は少しだけ変化を見せた。
具体的には午前中が座学、午後からはいつも通りの日中訓練である。
仮にも魔法学園に入学させるのだから、最低限の知識は付けて貰わなければ困るという考えなのだろう。勉強は魔法の基礎と、この世界の大まかな歴史、そして簡単な数学である。
曲がりなりにも千司たちはそれなりの偏差値の学生である。加えて受験を控えた高校三年生。異世界人的にはかなり難解な問題でも、誰一人苦戦することなく解いていった。
「これが知識チートでござるか……気持ちいいでござる。メイドさんたちの羨望のまなざしが、嬉しい出ござる」
とは、辻本の言。特に下級勇者は召喚されてから基本的に下に見られ続けてきたので嬉しかったのだろう。
他にも魔法学園へ行くにあたり、向こうの校則やその他学校設備等に関する資料を渡されたのでそちらにも目を通し、引っ越しの準備やらなんやらとしていたら、あっという間に時間は過ぎていった。
もちろんその間も千司は昼は勇者、夜はメアリー・スーとドミトリーに変装して王都で暗躍を続けた。
そして出発の三日前。
『リースの黄昏』にジョン・エルドリッチの使者が現れた。
話を聞くに、丁度一ヶ月後に幹部会が開かれるので出席されたし、とのこと。
場所は王都ではなく国を跨いだ先の『帝国』にあるレップランドという――ラクシャーナ・ファミリーが拠点としている街。
地図を確認すれば王都からは離れているが、魔法学園からはそこまでの距離ではない。アリアには同日レップランドへ向い、そこの冒険者ギルドで待ち合わせるように依頼しつつ、千司はエルドリッチの使者に了承の旨を伝えた。
因みに、千司が居ない間の『リースの黄昏』に関してはエルドリッチの部下が影武者として働く手はずになっている。
また、王都の冒険者ギルドにも「他の街に調べ物があるため、しばらく帰れない」と告げてある。ここで離れるのは痛いが、すでに冒険者の中には対騎士感情がかなり浸透している。
「騎士には注意しろよ」
とだけ伝えてしばしの別れとなった。
そうして迎えた出発前日。
最後の日中訓練を終え、あとは夜の間にロベルタの封印を解いて、小柄な彼女を千司の荷物に紛れ込ませてから、細かい物音などを『偽装』で誤魔化しつつ連れ出すのみ。
彼女を運ぶ鞄の準備をしていると、唐突に部屋がノックされた。
「奈倉様、よろしいでしょうか」
「あぁ、構わない」
扉の外から聞こえてきたのはすでに聞き慣れた声。
ゆっくり扉が開かれた扉に目をやると、そこに居たのはくすんだ紺色の髪を揺らす執事服の美少年、ライカ。
(相変わらず顔がいいな)
彼の手には二本の瓶が握られていた。
ラベルを見るに、片方は魔法酒で、もう一方は千司が愛飲していたジュース。
冷静に状況を分析する千司に対し、ライカは僅かに緊張した面持ちで千司を見据えると、二、三度深呼吸してから、おもむろに両手の瓶を掲げた。
「あの、飲みながらお話ししませんか」
「もちろん、構わないよ」
そう言って千司はライカを部屋に招き入れ、自然な動きで彼をベッドに座らせた。
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