■ ウリングラス・ナングス ガイド ■

【ウリングラス・ナングス】


 ナングスは、海岸沿いに広がる国だ。大洋に面した海岸に、森が広がっている。その森に覆われた海岸沿いの地域をウリングラス・ナングスと呼ぶ。

 ウリングラスというのは、彼らの言葉で「ラース暮らすウーリ」という意味だ。ナングスというのは、彼らが自分たちを指すときに使う言葉だが、これは元々は「動物」や「植物」に対しての「人」という意味であるらしい。

 つまりは、彼らが彼ら自身について名乗る「ナングス」や「森に暮らすウリングラスナングス」という呼称が、そのまま国や地域の名前となっている。


 ウリングラス・ナングスの森は、陸地と、海岸線、それから浅瀬にも広がっている。水辺の木々の根は、上下に大きくうねり、海面に出ようとする。その海面から出たところから新しい幹が立ち上がり、それが森になっている。

 ウリングラス・ナングスの人々は、湿って泥が多く根の凹凸おうとつで歩きにくい地面や、海面での行き来のために、根っこから根っこへと板を渡してそこを道にしている。

 森の中では舟での移動は行われない。それは、海面下で複雑に絡んだ根が舟底につっかえてしまうためだ。


 家は木の上に作る。

 木の枝と、蝋を塗った布で編まれた家は、大きな鳥の巣のようだ。中は簡素だが、水が入り込むこともなく、落ち着いて過ごしやすい。

 ウリングラス・ナングスの人たちにとって、家は個人の所有物ではないらしい。家で休む必要がある時は、誰でも手近な空いている家に入る。そこに置かれている食べ物や道具は、その時に家にいる人が自由に使う。

 家を使った後は、自分が持っている食べ物や道具を置いていくこともある。それらは、次にその家を使う人が自分のもののように使うことになる。

 家の手入れも、その時に近くにいる人たちが協力して行う。といっても、得手不得手はあるようで、家の手入れが上手なものが、あちこちの家の手入れに呼ばれるようなことも起こる。




【ダングラとデリクケ】


 ナングスは、湿度が高くじっとりと暑い日の多い地域だ。ダーンも多い。そのため、ウリングラス・ナングスの言葉には、雨に関する語彙がとても多い。

 例えば、ダングラというのは、朝方や夕方に降る激しい雨のことを指している。

 激しい雨ダングラの前兆があると、誰もが家に避難をする。家は個人所有のものではないが、ここでもやはり、どの家に入るかは気にしない。誰もが雨から逃れることを優先して、手近な家に駆け込む。

 この雨宿りをデリクケと呼ぶ。

 雨宿りデリクケでは、たまたまそこに集まった人どうし、食べ物を持っている人はそれをその場の皆に分かち合い、共に過ごす。そうやってお喋りをしたり、時には歌ったりして過ごすことになる。




【マティワニ】


 マティワニというのは、ウリングラス・ナングスで見かけることのできる木の葉だ。

 ウリングラス・ナングスの森の中では、石を叩き合わせたような高く澄んだ音が響いてくる。これは、マティワニの出す音だ。

 マティワニも、元は通常のマティだ。その葉の表面に結晶のようなものが付着する。これは、海から吸い上げた何かを排出しているのではないかと言われている。

 結晶は非常に濃い青い色をしている。海の色を思わせる色だ。結晶は徐々に葉を覆い、やがて葉の形をした石のようになる。その色は透き通り、日に透かせば葉脈が確認できる。こうやって結晶化したものをマティワニと呼ぶ。

 マティワニは、やがて重くなって落葉する。落葉すると音も鳴らなくなるため、その音は結晶化と関連しているのではないかと考えられている。


 この地域に残る伝承では、この森の木々は、ナガと呼ばれる大きな海の生き物がもたらしたものだと語られている。

 今は森に住むウリングラス・人たちナングスだけれど、かつては海の外からやってきたのだと言う。海の外にある島で暮らしていた。けれどある時、暮らしていた島が沈んでしまった。

 その沈む島から逃げ出した人たちナングスが辿り着き、住み着いたのが今のラースがある辺りだ。その時にはまだラースはなく、ただの海岸だった。

 何かを食べようと思ったナングスが釣りをしていたら、ある時とても大きな生き物が釣れた。それがナガだ。

 ナガは、自分を釣り上げたナングスに自分を食べないように言った。代わりにクランを一枚渡して、それを海岸に埋めるようにと教えた。それでナングスは、ナガを放して言われた通りにナガのクランを海岸に埋めた。

 すると、突然空が曇り、激しい雨ダングラが降り出した。

 激しい雨ダングラの後、クランを埋めた場所から木が生えてきた。その木は陸地を覆い、ラースとなってトホグ・アスを実らせた。そのナングスはナガにとても感謝をして、そして誰にでもトホグ・アスを分け与えた。

 やがてまた、別のナングスがナガを捕まえた。そのナングスは、俺にもクランをくれ、さもなければお前を食うぞと言って脅した。ナガはナングスにクランを渡した。

 そのクランを埋めると、激しい雨ダングラの後に、根が広がって海の中を覆った。広がった根からは、たくさんの木が生えてきて、ラースは海の中にも広がった。

 そして、次にナガを捕まえたナングスは、何も言わずにナガを殺そうとした。ナガを殺して、そのクランを全て奪おうと思ったためだ。ナガは傷付けられて怒り、そのナングスを殺してしまった。


 こうして、外からやってきたナングスたちは森に住むウリングラスナングスになったのだと言う。

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