第2話 ことり
朝まだき、しんみりとしめやかに、とんとんと。
ひかりがさしこみ、さしいだす。
まだちょっとご機嫌斜め、空模様は予感だけ。
黒鍵の旋律が染み出だす。
向かう先に、それとも途中に待ち受けているのでしょうか、警戒モードにしたい気分です。
さわさわさわ…という穏やかさが漂ってきたんですけど。
側からみれば若干忍び足だったに違いありません、知らない間に通り過ぎたこどもに声を掛けられました!
ここは街中の、人気のない道の只中。
これから畑のお手伝いに行くんです。
季節の変わり目だから大忙しなんです。
背中のオシャレリュックには完璧…に近いといいなのツールがぎっしり!
ふふふ…今日の花は違いますよ、キレがいいんです、朝はむにゃむにゃではありません!
だからみんなの衆目を集めてお昼ごはんに真っ先にお気に入りのデザートスイーツをもらうんです…!
それなのに、それなのに
空を指しながら
「なぜあおいと青いのだ?」
わたしの袖をしっかり引っ張り、さも当然のように聞いてきたのです。
???
とーとろじー?
ほわい?
はっと、ニュアンスが違っていることに気が付きました。
「…限定や特定しなければ分けられないから?」
ほう?
年相応の反応には見えません。
心の中ではビクついています。
どこからどうみても可愛らしい、整った顔立ちの、花より美人!な子なんです。長い髪の女の子でした。白い服でかためています。爽やかな着こなしだけど、かしこまっていて、礼儀に沿っている、なんだか不思議な服装。
なんだか癖っ毛だねえ。
「お前は知りたがりだな」
当たりです。
にこやかーに接しながらも心の中ではヒヤヒヤー。
ええい、大変なのです、ありきたり、そのまんまでいかせてもらいます。
「わかんないことが多いです。だからしりたい。でもいっぱいはいらないんです。何かに到達するかもしれないけれど、それは残しておきたいんです」
それは逃してしまう態度ですけど、1番を目指すのがそんなにスゴいとは思えない。こっそりのっそり構えていらればじゅうぶんに事足りるのでは、と控えめに言わせてもらいます。
いいんですよ、そんなに尖んなくとも、個性だ個性だ言わなくても。
花はもう花なんですから。
なんだかどこかで聞いた答えに落ち着いてしまいました。これはお決まり型ですねっっと突っ込んでおきます。
でも見失った時の最適取り戻し法だと1人メモしておきます。
この間…わずか0.1びょ…
「ずいぶん考えていたな」
あちゃー
すみません、です💦
ことり、とそれだけ名乗ってくれました。
くっくるくう。
かーかーかー。
こーこけこぅ…?
そう会話もしたような、しなかったような。
とにかくその小さなお口から繰り出されるつむぎだしが、パンチが効いているというか、多様、多重なのです。
それなのに、わたしのような態度を崩さない。
小さな頃のわたしじゃないでしょうね??
まじまじと見つめちゃっていると、キュるるるる…、「さもしいのう」
えっ?えっ?えっ?
スカートのポッケに手を突っ込むと、ありました、一粒のミルクキャラメルが。
ジィーッとされるのもなんだかなんで、はいっ、とぎゅっと握らせてあげます。
じいぃっと。まじまじと。ことりちゃん。
「あのっ、噛まずにゆっくりなめて
ぱっくんっ。
あっ。
ごっく
!!!
詰まらせた。
あわあわあわあわあわわあわああいあいあ
はっ、パニクってる場合じゃありません、みてられない…みず!
みないんじゃありません、水です!
はしります!
確かすぐそこに、コモンのコモンの、お水飲み場が。
考えなしなものだから、手で受けて持ってっちゃいましたよ、もう。
ずいぶん苦しそう、うううと痙攣ぎみ。
飲んで、ゆっくり、しっかりね
背中を撫でさすったのと、とんとんしたのが効いたのか、ふぃーっと一気に楽になりました。
「ごほごほっ、…すまない」
なんとか身を持ち直しながら、こう尋ねてきたんです。
「それで、誰に、何にお礼を言えばいいのか?」
直接助けたのは花かもしれません。
水のおかげもあるでしょう。
ことりちゃん自身が頑張ったのもあるのかも。
そうですね。
「わたしが代表して受けておきます」
ふむ。
「助けてくださって有り難うございました」
その日は別れ道までことりちゃんとあれこれおしゃべりしながら、コモンについてもやりとりしました。
「誰のものでもあり、誰のものでもない。お前は分けてもらっているという。ではあまねくありしは、かえっていくのか?」
スマートグラスには頼りませんよ。
どうこたえたかは、ご想像にお任せします。
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