第十九話 墓
自殺未遂から一週間の後、青年は郊外の閑散としたあぜ道をひっそりと歩いていた。夕の日が右方の田に映えて、鮮烈な赤が彼を包む。道は不規則な凹凸を
音はその閑散さとは対照に溢れていて、越冬を過ぎた蛙の声や葉を茂らせた木々の掠れで、人の淋しさを優しく抱くかのような印象を与える。
絵に描いたような美しい道だ。青年は歩を進めながら、思う。しかし、感覚はそうではなかった。美しい道なの「だろう」という一つの理解だけがあって、特段目を奪われたり、心を揺さぶられるような感覚はなかった。ただただ、そうなの「だろう」という理解だけが彼の頭に浮遊していた。
伊達の死も、彼にとっては同じ具合だった。青年は未だに、伊達の死を感覚していない。現象としての理解とそれに直面した感覚があまりにも乖離していた。思考の文字列だけが酷くこびりつくのみで、いささか機械のような処理の仕方をしていたのだ。
春の涼しげな風にあてられ、青年はふと
退院してすぐ、青年は此方へ向かった。家にも帰らず、大した飯も食わず、バスと徒歩でここまで来たのだ。
この丘の上に伊達一郎の墓がある。これが遺品を譲ろうとしない伊達の父から得た唯一の伊達についての情報だった。遺品を譲ることを半ば諦めた時から、此処へ向かうことは強く心に刻んでいた。
青年は黙々と墓へと歩みを進める。その源は決して畏敬や礼儀ではない。そんなもので伊達の墓を参ることは返って失礼とさえ思えた。そうではなく、青年を動かしたのは、死の実感への希求だった。
死で繋がれた間柄だからこそ、死した彼への感情は死と繋がれてなければならぬと思っていた。死の実感を求めるからこそ、青年は彼の墓へ参ることができるのだと。
◆◇◆◇◆◇◆◇
日は徐々に田園へと消え、辺りはその暗さを深くする。そうして、光が仄かな灯火となろうとする頃、青年は丘へと着いた。ここから、丘波に綴られた石階段を登らなければならない。
少し登ると、桜か梅かの並木があった。といっても、それぞれの木々に宿っているのは蕾ばかりで、その美しさを潜めている。しかし、そのうちのたった一枝、満開とは言わずとも咲き誇った花々があった。薄く赤を帯びた白の可憐な花弁が四つ、
青年はそれを枝ごと折り、伊達への手向けへと持った。黒さを増す空に負けず、不思議なほど強い色を持つ花々である。青年はそれを見つめ、伊達の死がこうであったら、否、こうであるべきだったと切に思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
丘の上は中央に鎮座する大樹に象徴される、静けさと厳格さを纏った空間だった。大樹は丘の上と思えないほど根を強く張り、幹を太く、葉を快活に茂らせている。
その大樹の根の領域から少し離れたところに、伊達の墓があった。墓は彼の家柄にも関わらず、ひっそりとした洋風の造りである。地に埋め込まれた墓石には「伊達一郎」の文字が刻まれている。しかし、それだけだった。
青年はその四文字を認めたが、やはり実感は湧かなかった。その代わり、憐みに似た儚さだけが彼を襲う。彼の死への憐れみというより、その死の扱いへの憐みだった。
彼は右手に持つ枝を墓に置いた。手を合わせはしなかった。伊達に語ることも、黙祷もなかった。ただただ黙々と可憐な
そうして青年はしばし目を
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