第六話 夢
◆◇◆◇◆◇◆◇
青年は自室に戻り、床に着くことにした。
結局、向井と若林の二人の重なりの輪郭は消えるどころかより明瞭さを増し、向井に対する印象を
向井の発する一音一音が、彼を
いつしか青年の発言は、次第に吃りを伴うようになり、言葉の頭に「あ、」や「え、」といった難発が生じた。
発する音は次第に強さを無くし、ただの口籠もりと化そうとしていたので、青年は恐ろしくなって逃げ帰ったのだった。
ろくに歯も磨かず、着替えず、青年は横になった。激情の1日による精神的な疲労を泡沫の如き夢想の世界で癒したかった。
青年が眼を閉じると、古びた窓から朝日が
薄ら寒い秋の日差しだけが消耗した彼を捉えていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
青年は、地下鉄の車内に一人佇んでいた。
吊り革にも頼らず、僅かな振動の流れに身を任せ、誰もいない車内から暗がりと明るみを交互する景色をただ眺めていた。
列車は一度も止まらず、所々に位置する駅々を無機質に通り過ぎている。
青年は、これを夢であると確信していた。理性よりも感覚的な根拠である。
しかし、彼はこの夢から醒めようとは思わなかった。
心地が良いものではなかったが、特段不快な類の夢でもなく、あるのは一切の理解を捨てた「楽」のみである。
過ぎ去る眺めを、安全な車内から望むことは、ただただ楽だった。
どれほどの時が経ったか、それとも瞬間だったか、列車は駅に停まった。
列車の自動ドアが開き、そこからとびきりの光が
青年は芯からの恐怖を感じた。
と共に、この光からの逃避のための思考を張り巡らせた。駅のホームは雑踏にまみれ、その全てが顔の無い監守のようだった。
———怖い、怖い、怖い。ありとあらゆる光と人が私を捕らえようとしている。私はあそこでは過ごせない。あそこは、同情と蔑みに満ち満ちている。早く扉を閉めてくれ。私はまだ
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