Ⅴ 引き受けた仕事にはきっちりとしたケジメを

 娼館に出る吸血鬼ヴァムピール退治の件は解決したが、俺にはもう一つ、やり遂げなくちゃならねえ仕事がある……そう、ホナソンに頼まれた荷物の方だ。


 あれからまた数日後の朝、エルドラニアの護送船団が到着したという一報を聞き、すぐさま港に向かった俺は無事にホナソン宛の荷物を受け取ることができた。


 巨大な木の箱で、ちょうど〝棺桶〟を入れるのにぴったりな大きさだ。


 そいつをホナソンが手配しておいた輸送業者に頼んで、ヤツが借りているという屋敷に運んでもらい、俺もその馬車に同乗して一緒にそこへ向かった。


 山の手…というか山の端の窪地にある、瀟洒な豪邸ではあるが、ヤツら・・・が好みそうな日当たりの悪い物件だ。


 業者を帰してから箱の蓋をさっそく開けてみると、ホナソンの話通り、やっぱり中身は棺桶だった。それも、艶のある黒檀でできた超高級なやつだ。


 もちろん今もこの中では、その〝伯爵〟と呼ばれる吸血鬼ヴァムピールがすやすやと気持ちよく眠ってるんだろう……。


「伯爵さま〜! お屋敷に着きましたよ〜! お目覚めくださ〜い!」


 俺は安置した棺の前に立ち、ちょっとホナソンの声色を真似しながら大声でそう呼びかける……。


 すると、ドンっ…! と激しい音を立てて棺桶の蓋が勢いよく吹き飛び、中からはまさに貴族然りとした黒尽くめの衣装を纏う、どこかカリスマ性を感じさせる若い紳士が威風堂々と姿を現した。


 ただし、姿を現した場所は薄暗い屋敷の内部じゃねえ……真昼間の、敷地内でも唯一日当たりのいい・・・・・・・中庭のど真ん中だ。


 そう……俺が棺桶を安置したのは、あえてそんな日当たり良好・・・・・・な場所だったのだ。


「ようやく到着したか。長い船旅、退屈だったぞ……なっ!?」


 すっかり油断していた伯爵は、まさかのその状況に眼を皿のようにして見開く。


「…う、ウアァァァァ〜っ! ヒギィィィィィ〜っ…!」


 そして、やはりホナソンと同じようにシューシューと全身から白い湯気を上げ、断末魔の叫びとともにあっさりと、眩しい太陽の光に焼かれて灰燼に帰した。


 さすがに不死身のバケモノといえど、南国の強い日差しには敵わなかったらしい。


「どうやら、この新天地の風土は馴染まなかったようですな、伯爵さま? ……にしても、報酬は前金だけになっちまったな。これじゃあ儲けがハーフボイルドだぜ……」


 灰色の三角帽トリコーンのつばを大仰に上げ、ようやく本来の使い方・・・・・・に戻った彼の棺桶に慇懃なお辞儀をすると、俺は少々不満げな心持ちとともに踵を返してその場を後にした。


            (Le Bagage Du Nosferatu ~不死者の船荷~ 了)

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Le Bagage du Nosferatu ~不死者の船荷~ 平中なごん @HiranakaNagon

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