第28話 異常個体 Ⅴ







ガルム兄さんと猛牙豚オーク1on1いっきうちが続く!


地面が割れる!

衝撃が走る!

叫声が響く!


互いの武器が一瞬で何度も交錯する!


高速の攻防。

応酬。


巨躯が石斧を振るう度に剣で弾く!

拳が振るわれる度に盾で受け流す!


互いが交わる度に爆発音が響いた!


オークを相手するガルム兄さんに後退の文字はない。

どれだけ凶刃を受けても勇猛果敢に前進し続ける。


防ぐ!

防ぐ!!

防ぐ!!!



『ブモォォォ!!!!!』



オークが怒声を上げた!

大口を開いてガルム兄さんに迫った。

ガルム兄さんは横っ飛びして『噛みつき』を躱した!

噛みつきが空を切り、オークが前傾姿勢になった。


「ーーーセルジオ、足ががら空きだ!狙えっ!」


「ああ!ーーーどうだっ!!??」


セルジオ兄さんがオークの背後に回った。

剣身を輝かせた。


オークの太股に1筋の斬り傷が入った!

血が吹き出た。


「……岩石をも貫く強槍を。『アクアアロー』。」


シュリ姉さんの『アクアアロー』がオークの目を襲った!

セルジオ兄さんの撤退をサポートしたんだ。

オークが怯んでいる間にセルジオ兄さんがオークから離れた。


「ーーーふんっ!」


さらにガルム兄さんが狼狽するオークの腹を斬った。


『ーーーブモォォォォ!!??』


オークの腹から血が湧いた。

ガルム兄さんの身体を真っ赤に染めた。

石斧の横薙ぎをガルム兄さんが受け止めた。



ガルム兄さんの予想通り。

激戦は10分以上続いていた。

長期戦となっていた。

長期戦を経て、オークの全身には『幾つもの裂傷』が生まれていた。

セルジオ兄さんとガルム兄さんの剣による傷だ。


オークが動く毎に裂傷から鮮血が吹き出す。

オークの足下には小さな血の池が生まれている。


とはいえ、猛牙豚オークの耐久力が出血にも怯まない。

オークの動きは鈍らない。


人1人分にも及ぶ大量の血を吹き出してもオークはガルム兄さんとの激闘を続けている。





「……セルジオ兄貴、うめぇな…」


タケルが戦場を駆けるセルジオ兄さんを見て呟いた。


セルジオ兄さんはオークの隙を見逃さない。

隙を突いてオークに1太刀加え、撤退を繰り返している。

オークの裂傷の殆どはセルジオ兄さんが与えたものだ。

LV1の力では深傷を付けられない。

それでもセルジオ兄さんは浅い傷を数十も与えている。

浅い傷からも血が吹き出ている。

オークの体力を確実に奪っている。


「そうですね。セルジオ兄さんは家族うちの中で1番、巧いです」


セルジオ兄さんはーーー戦闘に有利な魔法を持っていない。


セルジオ兄さんの魔法はーーー『潜水』。

息を止めても、10分以上行動できるようになる魔法だ。

漁師には重宝される魔法のようだ。


でもーーー怪物モンスターとの戦闘には役立たない。

探索者にとってーーー魔法は切り札だ。

僕も……最近まで『無魔法』だったから、役立つ魔法を持たない苦悩を理解できる。

仲間の足を引っ張っているのでは、という劣等感。罪悪感。


セルジオ兄さんは必死な努力でガルム兄さんとシュリ姉さんとの差を埋めた。

セルジオ兄さんは疾駆している。

オークの間隙を突いて背中を裂いた。


やっぱりーーーセルジオ兄さんは強い。

例えーーー役立つ魔法を持っていなくても。

僕たちよりも圧倒的に……巧くてーーー強い。


「……そんなの前から分かってるっつうの…。想像以上だってことだよ……」


……タケルが顔を歪めて呟いた。


シュリ姉さんは、高所に攻撃できる『遠距離攻撃魔法』の特性を活かしてオークの顔を攻撃している。

オークを怯ませ、ガルム兄さんの窮地を何度も救っている。

足下へも攻撃してオークの体勢を崩す。


初級階層に大型怪物モンスターはいない。

……それなのにここまで大型怪物との戦いに慣れている。

……きっと『門番』との戦闘を想定して訓練していたんだろう…。


「……こんくらい強くなんねぇと、『門番』は突破できねぇってことか…。いいねぇ…。いいねぇ…。いいじゃねぇか…。ほんとに燃えてくんぜ……」


タケルが獰猛に唸った。



「ーーーお!?やっと倒れやがった!」


タケルの声にオークを見る。


ーーーオークが片膝をついていた!


出血により体力を奪われていたんだろう!

肩を大きく上下させている!


「シュリッ!やれ!!!」


ガルム兄さんの声が響いた。


「ーーーな、なんだあれ!超でけぇ!?」


シュリ姉さんを見る。


シュリ姉さんの頭上にーーーオークの巨躯にも及ぶ巨大な『水の矢』が浮かんでいた!



「……魔力全放出。特大魔刃まじん。『アクアアロー』。」



ーーードォォォォォン!!!



『ーーーブモォォォォォォォォ!?』


オークが高速の大質量アクアアローを受け、吹き飛ばされた!

『く』の字に折れて吹き飛ばされた!



ーーーバァァァン!


オークの巨躯が壁に叩きつけられた!

オークの身体が衝撃に跳ねた!

口から血の塊を吹き出した!


ズリズリ……。


ーーーオークが脱力して地面に転がったっ!!!



「ーーーすげぇっ!おい!これ決まったんじゃねぇか!!??」


タケルが興奮して叫んだ。

僕も同意しようと歓喜の声を上げようとすると。


「……シュリ姉…ッ…!?」


ユリアの悲鳴を聞いてシュリ姉さんを見る。


シュリ姉さんは尻餅をついていた。

肩を上下させ荒い呼吸を繰り返している。


「……魔力切れ。問題ない。」


シュリ姉さんが僕たちに手の平を向けた。

今にも駆け出しそうなユリアを落ち着かせた。

ユリアもシュリ姉さんの様子に安心したようだ。



「ーーーやった、のか?」


セルジオ兄さんが訝しげに『猛牙豚オーク』を見据えながら呟いた……。


オークは微動だにしない。

倒れ伏してから息もしていない。

ただ傷口から血を流し続けている。


「…………………」




ガルム兄さんは……無言で猛牙豚オークを睨み続けていた……。












ーーーガルムは、微動だにしない猛牙豚オークを観察し続ける。


オークは壁に身体を預けている。

顔を俯かせ、口から血を垂らしている。

傷口からも血を垂れ流している。


「………………」


……死んでいるように見えるが…。


隣のセルジオがーーー1歩オークに近づいた。



ーーーピクリ。

ーーーオークの小指が動いたっ!!!



「ーーーいやっ!まだだセルジオ!!!気抜くな!!!」


『ブモォォォォォォ!!!!!』


ーーーオークの大咆吼ハウルが響いた!


俺はあまりの爆音に顔を顰める!

セルジオは剣を手放し、耳を抑えてしまっていた。


「シュリ!自分で立てるな!?アレンのところまで下がれ!アレン!万一の時はシュリも守れ!」


俺が叫ぶと視界の端でアレンが凹みから飛び出したのが見えた。

アレンはシュリを連れて凹みに隠れてくれた。


「……とんだタフだな…。早く死んで欲しいものだ」


セルジオが剣を構え、呟いた。


……猛牙豚オークは大牙から涎を垂らしている。

全身から血をドバドバ垂れ流している。

今にも骸を晒しそうなほど満身創痍なのに…目を赤く充血させ激怒し殺意を俺に向けている……。


……俺もオークに応じるように盾と片手剣を構える。


「だがあいつももう瀕死だ。見ろ。四つん這いから立ち上がれないらしい」


シュリの『アクアアロー』が随分効いたらしい。

オークは四つん這い状態でなんとか立ち上がろうと足掻いている。


「そのようだな。だがーーー瀕死の怪物モンスターこそ恐ろしい。そうだろ?」


マザーの教え・・・・・は守らねばならん。慎重に、かつ男らしく大胆に、だ」


「……ああ」



セルジオの返事を聞いて、慎重に藻掻くオークに近づく。

盾を構え、セルジオを連れて前進する。


数歩進んだ時。


『ーーーブモォォォ!』


「ーーーな!?」


ーーー突然、オークが『石斧』を投げてきた!


グルングルン!

回転しながら石斧が迫る!


「ーーー『鉄壁』!」


後ろにセルジオがいる!

躱すわけにはいかない!


盾を構え、石斧の衝撃に備える!


「ーーーグゥ!」


勢いに後退を余儀なくされる!


ザザァァァ!

地面を踏みしめる!

足跡を残して後退する。

俺の踏み込みに耐えきれず地面が割れた!


「ーーー大丈夫かガルム!?」


ーーーやっと石斧を押さえ込めたッ。

ズシンッ!

受け止めていた大質量の石斧が重力に従って地面に落ちた。


「ーーー問題ない。少し腕が痺れたくらいだ」


俺は盾を握っていた手を開いて、腕の具合を確かめた。

……少し痙攣しているが、問題ない。


「それにしても石斧ぶきを手放すとは……。怪物モンスターの知性ではこの程度か?」


「油断するなセルジオ。中層の怪物を舐めてかかれるほど俺たちは強くない。ーーーあいつ、何している……?」




ーーー俺はオークを見た。


ーーーオークは四肢を地面につけていた。

ーーー頭を下げて腰を上げ、唸っていた。



ーーーな、何をしている・・・?



『ブモォォォォォォ!!!!!!』




ーーー足の筋肉が肥大した!



ーーー『突進』か!!!???



ーーーブオンッという風切り音ッ!


ーーーオークが瞬く間に俺たちとの距離を詰めた。



「ーーーセ、セルジオォォォ!!!」



セルジオを抱えて『猛牙豚オーク』の突進から必死に逃れる!


「ーーーグウッ!」


なんとか横転して紙一重で突進を躱せた!



ーーー突進による爆風が俺を襲った!


突進により捲れ上がった岩石が俺の身体を打ち付ける!

あまりの風圧に苦悶が漏れた。


「ーーーな、なにが起きたのだガルム!?」


ゴロゴロ。

横転がやっと止まると、セルジオが驚嘆を上げた。


盾で視界が遮られていたセルジオは状況が飲み込めていないようだ。



「ーーー猛牙豚オークの『猪突猛進とっしん』だ…ッ…!」



……居酒屋で中層を攻略するDランク探索者の話を盗み聞きしたことがある。

……十分な助走を得たオークの『猪突猛進とっしん』は、Dランク探索者でも楽には止められないと……。


「……危なかったな…」


セルジオが…オークの突進の『跡』を見ながら呟いた。

俺も、さっきまで俺たちがいた場所を見る。


ーーー直線状の深いクレータが生まれていた。


……猪突猛進とっしんの衝撃波で地面が捲れ上がったんだ…。凄まじい破壊力だ…。


……もし回避が間に合っていなかったら……。


「……そうだな」


最悪の結末を想像し…ゴクリと唾を飲み込む……。




「ーーーだが、オークもあれが最後の足掻きだったらしい。見ろ」


俺はオークに視線を向けながらセルジオに言う。


ーーーオークは身体を支えきれず、地面に倒れ伏していた。


地面に四肢を投げて、大の字で寝ていた。


『ブ、ブモォォォ・・・』


オークが覇気のない声で鳴いている。

何度も立ち上がろうと藻掻くが、ズシンッ!と倒れ伏す……。

……今度こそ本当に、満身創痍らしい。


「……ガルム、言うまでも無いだろうが油断するなよ」


俺が1歩踏み出すと、セルジオに肩を叩かれた。


「もちろんだ。……セルジオ、ついてきてくれ」


セルジオを連れて、慎重に近づく。

一歩一歩……。油断せず。盾を構えて。



『フゴォォォ、フゴォ、フゴォ・・・フゴォォォ!』


オークが俺たちが近づいていることに気づいた。

身体を引きずりながら必死に俺たちから離れようとしている…。


「……ガルム、さっきの突進で両足の腱が切れたようだ。右腕も筋が切れている」


「……だが左腕は使える。安易に近づいたら握りつぶされるだろう。背後から仕留めるぞ」


俺たちは……這いずりながら逃げる『猛牙豚オーク』に背後から迫る。


『ブモォォォ!ブモォォォ!!』


「ーーー終わりだ」


俺はセルジオの剣を借りて、思い切り跳躍する。

オークの肩に飛び乗る。



ーーー『猛牙豚オーク』の首に一閃する。



ゴロリッ、と首が地面に落ちた。


ーーーブシャァァ!!!

切断面から大量の血が吹き出た。


『ブモブモブモォォォ!!!』


首を切断されたオークは断末魔を残しーーーついに動きを止めた。






「……やった、よな?今度こそ…」


血の海の上でセルジオが呟いた。


「……そうだ。俺たちの勝利だ…」


俺はセルジオに笑いかける。


そして拳を握り、振り上げる!

凹みに隠れるアレンたちを向いて叫ぶ!



「ーーー男らしい、俺たちの完全勝利だっ!!!」


「うぉぉぉ!!!やったな!ガルム!?」


ーーーセルジオが抱きついてきた!


「ーーー兄貴ぃぃぃ!!!」


「ーーーガルム兄さん!」


タケルとアレンが駆け寄ってきていた!

その後ろからシュリとユリアも向かってきている!




俺たちは『猛牙豚オーク』の骸を背に、激戦の勝利を祝った!!!





ーーー猛牙豚オーク《LV2の怪物モンスター》を倒せた…ッ!


ーーーこれならlv2相当の強さという『門番』も……確実に倒せるッ!

ーーー『門番』を殺してーーーDランク探索者になれる!!!


ーーー『夢』を叶える一歩を踏み出せる!!!!!


ーーーアレンと共に『全ての孤児を救う』夢への1歩を!!!!!





ーーー俺は拳を握り、『門番』に勝つ確証を強めた!!!!!!








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