第27話 異常個体 Ⅳ








「ーーーアレン!タケル!お前たちは手を出すな!ーーーユリア!もし誰かが重傷を負ったときだけ回復してくれ!それ以外は待機していてくれ!」



ズシンズシンッ!


猛牙豚オークは口から涎を垂らしながら。

棍棒を振り上げながら。

叫声を上げながら僕たちに迫ってきている!

猶予はーーーもうない!


「ーーー分かりました!」


僕はガルム兄さんの指示に頷く。


「ユリア、タケル、下がりましょう!」


僕は硬直する2人を連れて通路の凹みに向かう。


「……うん…!」


「ーーークソッ!俺様も戦いてぇぜ!」


タケルは愚痴を漏らしながらも着いてきてくれた。

3人で凹みに隠れる。


顔を出してガルム兄さんたちの戦闘を覗う。






「来いッ!豚ッ!!!相手はーーー俺だッ!!!!!」


ガルム兄さんが吠えた。

盾と剣を構えて、オークを睨みつけた。


ギロリッ。


『ブモォォォ!!!』


オークの形相が変わった。

怒りを滲ませて、ガルム兄さんを睨んだ。

ガルム兄さんが『ヘイト集中』を発動させたのだろう。


ガルム兄さんと3mの巨躯のオークのーーー1騎打ちが始まる。



『ブモォォォォォ!!!!!』


オークが手に持つ石斧を振りかぶった。

突進の勢いも乗った上段斬りが兄さんに迫った。


「ーーーこの身を家族かぞくを守護する肉壁と化す、『鉄壁』ッ発動ッ!!!」


赤い魔力が放出され、ガルム兄さんの躯に吸収された。

『鉄壁』が発動した。


「ーーー来いッ!!!男らしく受け止めてやる!!!!!」


ガルム兄さんは盾を真上に構えて、石斧に備えたっ。


ーーーガシャァァァン!!!!!


盾と石斧の衝突音が通路中に響いた!

衝撃でガルム兄さんの立つーーー地面が割れた!


その衝撃は数十m離れた僕たちの所まで届いた。

風圧で僕の前髪も掻き上げられた。


「ーーー兄貴!?」


ガルム兄さんが石斧に押し込まれて膝を着いたっ!?

上段からの石斧に押し込まれてどんどんガルム兄さんの身体が折れていく!!!

身体が縮み、地面に近づいていく!!!


「ーーークッ!」


兄さんの声から苦悶が漏れた!


「ーーー兄さん!!!」


僕もつい声を漏らす!

オークに気づかれないように静かにすべきなのは分かっているっ。

でも我慢できなかったっ。


兄さんを助けるために一歩踏み出そうとしたときーーーガルム兄さんの目が僕を捉えた。

兄さんはーーー笑った。



「ーーー大丈夫だぁぁぁ!!!!!」



雄叫びと共に徐々に石斧が持ち上げられていく!

盾が上がり、ガルム兄さんの身体が起き上がっていく!


「確かに強力だ…。これまで経験したことない程の重い一撃だった!だが!!!俺の男らしく鍛え上げられた躯に、この程度の1撃っ!ーーーー効かんっ!!!!」


さらに石斧が持ち上げられていく。


ーーーオークが石斧を両手で掴み、兄さんを押し込み始めた!


オークの全力とガルム兄さんの全力が拮抗する!

さらに激しく凹む地面!

石斧と盾の間に火花が散った!



「ーーーおぉぉぉぉぉ!!!」


『ーーーフゴォォォォ!!!』



兄さんとオークの鍔迫り合い!拮抗!


そのときーーーオークの背後にセルジオ兄さんが回った!


「ーーー隙だらけだっ!!!」


セルジオ兄さんがオークの足の腱に剣を振るった!


ガキンッ!

剣と体躯が接触したとは思えない金属音が響いた!


「ーーーなっ!?堅い!刃が通らない!」


『ブモォ!?』


オークが背後のセルジオ兄さんに気づいた。

ガルム兄さんとの鍔迫り合いを止めた。

セルジオ兄さんを叩き潰そうと手を振るう!

危ない!!!


「……岩石をも貫く強槍を。『アクアアロー』。」


『ブゴォォォォォ!!!!』


5本の『水の矢』がオークの顔に当たった!

オークはセルジオ兄さんへの攻撃を止め、手で顔を守った!

狼狽えながら後退した。

オークが狼狽する間にセルジオ兄さんが撤退できた!


「……堅い。一撃。無理。」


オークの顔はアクアアローを受けても痣が付いた程度だ。

牙を煌めかせ、ブルンと顔を振るった。

目を擦っている。



「さすがは『中層の怪物モンスター』といったところか…。LV2の怪物モンスターは伊達ではないな……」


ガルム兄さんは呟きながら割れた地面から抜け出した。


「……セルジオ、柔らかそうな腹を狙え。シュリはこのまま顔を狙って牽制してくれ」


ガルム兄さんは指示を出しつつ盾を構えた。


「ーーー来るぞッ!」


『ブモォォォ!!』


回復したオークがガルム兄さんに再度突進した。

ガルム兄さんは横転して突進を避けた。

避けつつ剣を振るい、足を切り裂いた。

オークは傷を気にせず、ガルム兄さんに石斧を振り下ろした。


「ーーーさっきは正面から受けたが、受け流せば余裕だぁ!!!」


ガルム兄さんは直下する石斧を受け流した。

ズドン!

ガルム兄さんの真横に石斧が落ちた。


『ブモォォォォォ!!!!!』


オークが激怒し、何度も石斧を振り下ろした!

ズドン!ズドン!ズドン!!!

兄さんは冷静に全ての石斧を受け流した!


「ーーー知恵は回らないようだな!『ホブゴブリン』と同じタイプか!」


ガルム兄さんが叫んだ。

盾と剣を振り回し、豪速の連撃を受け流し続けている。


ーーー目にも止まらぬオークの連撃を受け流し続ける!


激戦の衝撃で粉塵が舞う!

暴風が遠い僕たちの元まで届く!


金属同士の接触で火花が舞い散った。



ーーーLV2級同士の高速の戦い。


ーーーあれが……ガルム兄さんの全力ッ!!!







「……す、すげぇ。あれがLV2か…」


隣のタケルが呆然と呟いた。

タケルは口を半開きにしながらガルム兄さんの動きに見惚れていた。

……僕もガルム兄さんのあまりの強さに驚いている。

……ガルム兄さんは僕との模擬戦でも全然、本気を出していなかったんだ…。


「……アレンてめぇ、ガルム兄貴の動き真似できっか…?」


タケルが激戦を見据えながらふと呟いた。


「……出来ません。あんな素早い動き…」


……『魔装』を使っても、絶対に無理だ…。

さっきからガルム兄さんの動きの機敏さがどんどんと増している。

どんどんと加速している。

上昇したLVに慣れていくように。

LV2の身体に慣れていくように。


「俺様もLV2になったらあんな動き出来んのか……?」


タケルの呟きが空気中に漂った……。





オークの踏み込みでガルム兄さんの足場の地面が砕けた!?


「ーーーなに!?」


ガルム兄さんの口から驚愕が漏れた!

ガルム兄さんが足を踏み外し、体勢を崩した!

身体が折れた。


「ーーー兄貴!?」


タケルの声が響いた。


『ブモォォォォォ!!!!!』


オークが思い切り石斧を振りかぶった。


「ーーークッ!」


ガルム兄さんは体勢を崩しながらも盾を構えた。


「……岩石をも貫く強槍を。『アクアアロー』。」


『ーーーブモォォォ!?』


『水の矢』がオークの顔を襲った!

オークは怯んだ。

石斧の挙動が狂った。

ーーーガルム兄さんの真横、紙一重の位置に石斧が振り下ろされていた!

再度シュリ姉さんが兄さんのピンチを救ってくれた!


「ーーー助かったぞ、シュリ!」


「ーーーこれならどうだっ!!!」


セルジオ兄さんが隙を見せたオークの脇腹に剣を突き刺した。

容易く突き刺さった。

でっぷり膨らむ腹に剣が飲み込まれた。


「ーーーぬ、抜けん!?」


剣が引き抜けないみたいだ。

セルジオ兄さんの驚愕が響いた。

オークが腹に力を込めているようだ。


オークの眼光がセルジオに向けられた!

セルジオ兄さんに向けて拳が振り上げられた!



「ーーーお前の相手は俺だぁぁぁ!!!」


ーーーガルム兄さんが剣を煌めかせた。



剣がオークの腹に振り抜かれた!

真一文字の傷が腹に刻まれた!


オークはLV2のガルム兄さんの膂力を不意打ちで受け、大きく後退した。


筋肉が弛緩したようだ。

セルジオ兄さんが剣を回収し撤退できた。


「セルジオ、突きはなしだ。浅くでも、切りつけ続けろ。血を流させて失血死を狙うぞ」


「……分かった。…lv1の私では、あいつの防御を突破しきれないようだ…」


「シュリは目を狙って、セルジオをサポートしてくれ!セルジオが反撃を気にせず、攻撃できるようにしたい!」


「……了解。」


オークはガルム兄さんにつけられた一文字の深傷を睨んでいる。

傷からは血が噴き出している。


『ブモォォォ』


オークは腹に力を込めて傷口を圧迫した。

ーーー出血量が減った。

……傷を気遣う知恵はあるみたいだ。




「……長期戦になるようだ。セルジオ、シュリ、気を引き締めろッ!1歩でも間違えればーーー死ぬぞッ!!!」



『ブモォォォォォ!!!!!』




オークは大牙を怪しく煌めかせながらーーーガルム兄さんに突進したッ!!!






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