閑話 タケルの外食









(ーーーアレンから聞いたことがあんだが、俺様の住むマリア迷宮都市は『食の都』と呼ばれてるらしい…)



タケル様はパーティの休養日を利用して、最近兄貴たちから紹介された『ラウンチ通り』に1人で来ていた。


時刻はちょうど昼。

昼飯よこせと腹がわめいている。

超~腹ぺこだッ!

正直今ならなんでもうまく食える自信がある。

だがッ!だからこそ!慎重にならなくちゃならねぇ!


ーーー外食。

店屋で飯を食うなんて贅沢は、金のねぇ俺様にとっちゃ1月に1度の特別行事だ!

だからこそ今日は極限まで腹を減らしてラウンチ通りまでやってきた。


ここで、空腹に負けて適当な店に寄ってすませちゃ俺様の名折れッ!



ーーーぜってぇ1番うまい店に入ってやるッ!



俺様は『ラウンチ通り』の店を見回した。

色んな種類の店がありやがる。



迷宮都市がなんで『食の都』って呼ばれてるのかって言うと。

迷宮都市には国中から、億万長者を夢見る若者がたくさん集まる。

そいつらを狙って商人も色んなところから集まるんだと。

そうして集まった商人の中には、食いもんを使って金稼ぎたいって思う奴らもいて。

そんな奴らが国中から集まるから迷宮都市にいるだけで国中の食いもん全てを迷宮都市の中で食べられるんだとか。

だからアレン曰く、迷宮都市は『食の都』とも呼ばれるんだと。


まあ…あのアレンから聞いたことだから信用できるかはわかんねぇ。


話半分に俺も聞いてたし。

むしろほぼあいつの話なんて聞いてなかったし。


どうせアレンは間違った話を鵜呑みにしてるだけで、国中の食べもんなんてないんだろうけど。


だって、俺様のいる『ユフィー王国』っていったら世界で3番目に大きな国だぜ?

そんな国の飯をたった1つの街で食い切れるかよ。


まあ、アレンの話が間違いだったとこで俺に問題はねぇ。


そんなことねぇだろうけど万が一!

万が一っ!!!本当だったらっ!ーーーまぁいいことじゃねぇか…。



俺様の生きている間にやってやるリストに新しく『迷宮都市の全ての店の飯を食う』の項目ができるだけだ!



『ラウンチ通り』は俺様と同じように昼飯を食いに来た探索者であふれかえっていた。


わぁわぁ、騒ぐ探索者どもの声で耳が痛い。

探索者の声で呼び込みの声が聞こえないくらいだ。


もうちょい静かに飯食えねぇのかよ?


飯は静かに食うもんだろう!

俺様はいっつも静かに飯に真剣に向き合ってるぜ!?


ーーって俺はいつも騒いで食ってるやろ!!!


……1人でボケて突っ込むのは難しいぜ…。


「チャーハンいかがですか!?」


人の流れに逆らって『ラウンチ通り』を進んでると、俺様の耳が「チャーハン」という単語を捕まえた。


チャーハン……。悪くねぇ…。悪くねぇが……。




ーーー今の俺様にチャーハンは物足りねぇ!!!




俺様はチャーハンの誘惑を振り切り、さらに通りを進む。


すると。


「スペアリブいかがですかぁぁぁ!?」


スペアリブぅぅぅ!!!???


俺様は声の聞こえた店を見る。

店の中では客がうまそうにスペアリブに噛みついていた。


鼻をスンッと、鳴らすとスペアリブの食欲をさそる『甘い』香りが…。




ーーーはっ!?一瞬意識を失っていた!?




俺様の意識を持っていくなんて、スペアリブめっ…なんてできるやつだ…。


これは…決まりか……?


俺様は誘われるようにスペアリブ店に体を向け、一歩踏みだそうとした。




ーーーそのとき。

風向きが変わった!




俺様の鼻をくすぐるスペアリブとは違うーーー『甘辛い』匂いっ!!!


なんだこの匂いは!?俺様の嗅いだことのない、匂いだと!?


俺はすぐに姿勢を反転させ、匂いをたどり、匂いの元の出店にたどり着いた!


すごい行列だ!?

20人以上並んでる!

さすが俺様がみこんだ料理を出している店だぜ!


俺は出店の看板を見た。



ーーー『黒牛亭』っ!!!



「な、なんだってぇぇぇ!?」


こんな偶然あるか!?


『ラウンチ通り』に数ある店の中で一番うまそうな匂いに誘われてきたら、偶然最近兄貴に紹介されたばかりの店だと!?


な、なんだ!?

兄貴の陰謀か!?


それとも俺はなんかの『魔法』で操られてたり!?


驚天動地の俺は、とにかくっ、匂いの正体を探ろうと出店を覗いた。

出店を回しているのは、|ガルム兄さんと決起会をした時に店にいた爺ッ!あのときの寡黙な店主だ!間違いねぇ!


やっぱりこの出店は『黒牛亭』が出してる出店なのか!?


前、夜に兄貴たちと『黒牛亭』に来たときは、こんな出店なかった。

たぶん昼の時だけ出店を出しているんだろう。


俺様は出店で一番スペースを取っている鉄板をチラリとのぞき込んだ。


ーーーんっ!?ただのステーキじゃねぇか!?

特に変哲のねぇステーキが焼かれるだけじゃねぇかよッ!?

ただのステーキに俺様が|誘(いざな)われたのか!?(ステーキなんて高級品滅多にくえねぇんだとけど……)


俺はふぅ~と息を吐き……を店主に向ける。



ーーーけっ!……匂い倒れだな…。


肩をすくめて立ち去ろうとする俺様。

俺様の軽蔑した目線を受けた店主がーーー突然、バババッと動き始めた!


鉄板の側にあった壺からハケを取り出し、何かをステーキに塗り始めた!



ーーーその瞬間!!!

ーーー叩きつけられる匂いの爆弾!!!




ーーーま、負けたっ……!




俺様は言い知れぬ敗北感を感じつつ、そそくさと黒牛亭の大行列に並んだ……。


……数分後。


「……『味噌ステーキ』。1銅板1000円


俺は店主から『み、…???』とやらが載った皿とフォークを受け取り、1銅板を払う……。


肉汁滴る、茶色くソースの塗られたステーキ……。


俺様はフォークを使い、ステーキを口に運んだ……。





ーーー俺様はその日から…『味噌ステーキ中毒』になった。










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