第15話 英雄の目覚め Ⅴ







真昼。

3日振りの太陽が僕たちの身体を照らしていた。


6階層への階段を見つけた後、僕たちは予定より半日早く地上へ帰還した。

予定以上のスピードで地上へ戻れたのは僕が『魔力の鎧まほう』に目覚めて、戦闘の安定感がグッと増したからだ。

ただ、僕の魔法は魔力消費が激しいみたいで常時発動すると10分ほどで魔力が尽きてしまうことが分かった。だから、ここぞという場面で発動する切り札として魔法を使うことで安定した戦闘を繰り返し迷宮を駆け上がることができた。


5階層からの帰還途中も苦戦すること無く、すんなりと迷宮探索、計3日間で地上へ帰還できた。




ギルドへ帰還報告を届けた後。僕とユリアは『買取屋』に来ていた。

当然シルフィーさんと仲の悪いタケルは先に孤児院に帰らせている。

タケルには3人全員無事である、と家族みんなへの伝言を託した。

なるべく早く家族みんなを安心させたかったからだ。


今日は幸運にも『買取屋』には誰も並んでいなくて、時間をかけずに買取手続きを済ませられそうだった。

僕とユリアはちょっとした幸運に喜びつつ暖簾を潜り、『買取屋』の中に入る。

入った瞬間、カウンター奥で退屈そうに椅子にもたれ掛るシルフィーさんと目が合った。


「お、坊主やん。坊主がいるということはーーーユリアたんっ!おひさ~~~!!!」


「こんにちは、シルフィーさん」


「……こんにちは…」


「うんうんっ!!!ユリアたんこんにちは~!!!」


シルフィーさんが僕を無視してユリアに対して大きく手を振った。

ユリアはどうもシルフィーさんに対して苦手意識をもっているらしく、僕の背に隠れている。


「つれないユリアたんもかわええな~!ほんまかわええな~~~!!!」


ピョコピョコ。

狐耳を動かしながら手をワキワキさせて、シルフィーさんが涎を垂らした。


「それよりもーーー買取りお願いします。今回は5階層まで攻略してきました」


僕はユリアを背後に隠しながらリュックから魔石用、素材用の麻袋を1つずつ取り出しカウンターに置く。


「ーーーお、やっと5階層行ったんだ~。やっとガルム君が許可だしたんだね~。まあ坊主の実力があれば『ホブゴブ』とも戦えるだろうしね~。ガルム君が心配性すぎたね~」


兄さんたちも『買取屋』で魔石を売却しているのでシルフィーさんとは知り合いだ。

僕の師匠がガルム兄さんということも知っている。

シルフィーさんはカウンターの麻袋を作業台に移して、工具箱から虫眼鏡を取り出した。


「今回は5階層攻略が目的だったので、5階層の怪物からの素材は少ないんですが」


「ふぅ~ん。そうなんだ~」


シルフィーさんが麻袋から取り出した魔石を観察するのを止めて、僕の顔を見つめた。



「ーーー坊主、なんかあったか~?」



「?」


シルフィーさんが椅子にもたれ掛って、僕に尋ねてきた。


「な~んか雰囲気変わった気がしてね~。いつもの幸薄げな坊主じゃなくて、自信満々って感じ?まさかLVでもあがったかい?」


ーーー!!!


……さすが元Dランク探索者LV2

僕は『鑑定』の魔法を発現させた『LV2の観察眼』に驚愕しつつ口を開く。



「……実は…今回の探索中に『魔法』に目覚めました」



「ーーー!!へぇ~!あの『無魔法』だったアレン君が魔法に目覚めたか~!無魔法の魔法。それは私も興味があるね~。どんな魔法だったんだい?」


シルフィーさんは目を見開き、カウンターに身を乗り出して僕に尋ねてきた。

その表情は子供が面白い玩具を見つけた時のような、あどけない笑みだった。


「……防御魔法みたいでした。ガルム兄さんの『鉄壁』のような」


シルフィーさんは僕たちが孤児だと知りつつ売却を受け付けてくれている。

僕が恩のあるシルフィーさんに嘘をつけるはずもなかった。


「へぇ~。『魔法名』はまだ分かってないんだよね?」


「はい。まだ力量球を見ていないので」


人が持つ魔法の『正式名称』はーーー『力量球』でしか分からない。

力量球は個人が持つようなものじゃないから、元から買取とついでにシルフィー買取屋で『力量球』を使わせて貰おうと思っていた。

態々口にしなくても僕の思いは伝わったみたいで、シルフィーさんがニヤリと笑った。


「で、ここで見るつもりだったと~。嬉しいね~。分かったよ~。ちょいっと待ってな~」


シルフィーさんは棚から力量球を取り出し、カウンターに置いた。


「ここでやりな~。私にも見せてみ~。貸出料だよ~」


「はい。じゃあーーー」


ユリアも僕の背から一歩前にでて、力量球を覗き込んだ。



僕はカウンター上の力量球に手を翳す。


魔力を放出し、力量球に吸い込ませる。

力量球内の僕の魔力が白く発光しーーー『共通文字』を形取った。




*****



LV 1

魔法 『※※※※』



*****





空欄だった魔法の欄がーーー埋まっていた。


怪物の大群パレード戦で目覚めた『魔力の鎧あれ』はーーーやっぱり『魔法』だったんだ。

……『僕の魔法・・・・』だったんだ。……僕は『無魔法・・・』なんかじゃなかったんだ…。


自分が無魔法じゃなかったことにひどく安堵する。

……どれだけ言い繕っても、魔法は探索者の切り札だ…。

魔法があるのとないのとでは成長速度に差が生まれる。


優秀な魔法を持っていればーーー『夢』を叶えるまでの道のりも短くて済む。


魔法に目覚めて安堵する一方。

魔法の欄に浮かぶ文字はーーー酷くぼやけていて読めなかった。


「ーーーん~!?なんじゃこりゃ~?無魔法の次は『読めない魔法』か~い?」


シルフィーさんが力量球を覗き込みながら呟いた。


「あたしも読めない魔法なんてのも聞いたことないよ~。無魔法だった時といい、坊主の魔法はほんとにシャイだね~?」


シルフィーさんは顔を上げ首を傾げた。


「ーーーま、!魔法に目覚めたようにいつか読めるようになるでしょ~。それより査定に入ろ~か~。今日も適正価格で買い取ってあげるよ~」


シルフィーさんは作業台に身体を向け、麻袋から魔石と素材を取り出しながら査定作業に入った。


「……ユリア、お願いしてください…」


僕はなるべく高額買取りのために『切り札』を使う。


「……なるべく高く、お願いします…」


ユリアが僕の背からヒョコリと顔を出し、呟いた。


ーーーシルフィーさんが飛び跳ねたっ!?




「ーーーう~ひょ~!!!わ~た~しはぁ~このために生きて~るぅぅぅ!!!!!」








銀板10万円

3日間の探索にしては過去最高の買取金額だった。

5階層からの魔石は4階層の魔石より多く魔力を含んでいるらしい。

魔石自体の買取額がやや高かくなったため、高額買取りになったようだ。

迷宮はより下層の方が儲かる。

その至言は確かだった。


怪物の大群パレードとの戦闘で、無理に扱った僕の剣と盾に歪み生じた。

修復にお金が必要だった。

それを考えるとここでの予想以上の買取は心から嬉しい。



僕とユリアは笑顔で『買取屋』を出て、孤児院に向かった。











「ーーーあっ!!!アレン兄ちゃんたち帰ってきたぁ!!!マザー!ガルム兄ちゃん!」


孤児院の門を潜るなり、門の近くで遊んでいた弟のジルに見つかった。

ジルが孤児院の中に駆け込み、マザーとガルム兄さんを連れてきた。


「……お帰りなさい、アレン、ユリア」


「ただいま帰りました。マザー」


「……ただいま、マザー…」


マザーは昼ご飯を作っていたのか、エプロンを下げていた。

マザーがユリアを抱きしめた。


「タケルから話は聞いている。怪物の大群パレードと遭遇したらしいな。よく無事に帰ってきた。それに『タンク』として、よく2人を守ったっ!!!」


ガルム兄さんが力強く僕の肩に手を添えた。


「はい。戦闘中に『魔法』に目覚めることができて2人を守れました」


「俺の魔法に似た防御魔法らしいじゃないか。後で見せてくれ」


そう言い、ガルム兄さんは踵を返した。


「ーーー孤児院の中なかに入るぞ。家族みんな、アレンの話を聞きたがっている」



玄関を通って、居間に着く。

そこには家族全員が集まっていた。


ーーー一斉に口を開いた。



『ーーーお帰り!アレン兄ちゃん、ユリアお姉ちゃん!』



「ーーーただいま戻りました、皆」







僕は怪物の大群パレードとの戦闘を思い出しながら誓う。


1度は死を覚悟したーーーあの死闘を思い出しながら誓う。



この家族の笑顔えがおを必ず守ると。


夢を叶えて……孤児の笑顔も・・・・・・守ってみせると…。




僕は年少組のハグに身体を埋めながらーーー必ず守ると。


ーーーそう、誓った。










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