第13話 英雄の目覚め Ⅲ
ーーー
『魔光石』の光が凶暴な怪物の目を照らす。
20体以上の
その食欲を剥き出しにしているっ。
圧迫感……。
肺を鷲掴みにされたかのように息がしづらいっ。
心臓の早鐘が鳴り響く…。
先行する『ホブゴブリン』との距離ーーー残り30m。
「ーーーふぅぅぅ・・・」
深呼吸し、盾と剣を構える。
肺の圧迫感が無くなる。
でも依然心臓は素早く脈打っている。
けれどこの早鐘は恐怖由来のものじゃない。
ーーー高揚感だ。
死闘を前にして僕は不思議と恐怖を抱いていなかった。
奇妙なほど冷静な頭で目の前の怪物群の動きを分析する。
先行する『ホブゴブリン』の後ろには『ゴブリン』と『ウルフ』が2番手に迫っている。
さらに後ろには種々の怪物。
これまで探索した1~4階層の怪物全てが網羅されている。
目前の怪物共は僕に『ヘイト』を向けている。
だけど奥の怪物の中には僕じゃなく、タケルやユリアに視線を向ける奴がいたっ。
ーーー許さないっ。
ーーーお前たちの
「ーーーこの身は
僕は全身から魔力を放出し、身に纏うっ!
『ヘイト集中』を行使するっ!!!
ーーーギラリッ…!
狙い通り『ヘイト集中』が効果を示した。
ーーー全ての
『ーーーォォォォォォ!!!』
目の前の大群の先頭に位置するホブゴブリンも吠えたっ!
そしてーーーその剛力を以て棍棒を上段に振りあげたっ!!!
「ーーー来いっ!!!」
盾を持ち上げて棍棒の軌跡に合わせる!
ガシャァン!
盾と棍棒の衝突音が響いた。
「ーーークッ!」
予想以上の衝撃が身体を貫く!
ーーーこれが『ホブゴブリン』の一撃か!
|ホブゴブリン(この)の圧力ッ……確かに強力だッ…!。
これまで受けたどの
でもこの程度ーーーガルム兄さんの一撃に比べれば軽すぎるっ!!!
「ーーー確かに重いですがッ、この程度ならッ!!!」
僕は盾に力を込めて、棍棒を弾き返す。
『ホブゴブリン』は棍棒を跳ねられ、無防備な腹を晒した!
まずはーーー1体っ!!!
僕は右手の剣を振るおうとする。
だがーーーホブゴブリンの背から迫っているウルフを見て軌道を変えるッ!!!
ウルフの犬歯を剣で弾く!
さらにゴブリンの棍棒が迫ったっ!
盾を間に合わせ、受け流す。
次にコボルトが骨の棍棒を横に薙いできた!?
身体を屈めて躱すっ!
攻撃を弾いても仕留める前に後ろから次の
圧倒的な物量にーーー防戦を強いられるっ!?
でもーーー僕は
すぐに後ろの『ホブゴブリン』を仕留めたタケルとユリアが来てくれる。
それまでーーー耐えれればいいッ!
「ーーーやらせない!!!」
僕は『ヘイト集中』にさらに魔力を込める。
盾と剣を振るい、あらゆる攻撃から身を守る。
『ワイルドボア』の突進を躱す。
『ハニーベア』の爪切りを受け止める。
『ホブゴブリン』の一撃を受け流し、同士討ちさせる。
後退はしない。
衝撃に1歩下がったら1歩前進する。
後ろの仲間を守り、無傷で生かす。
ーーーそれが『タンク』の仕事だから!
「ーーーまだまだっ!!!」
戦闘にーーー没入する。
戦闘が続いて徐々に集中力が増していく。
視界が開けた。
広い視野で怪物共の動きを観察する。
予備動作を見つけ、予め盾を構える。
足を動かし、常に怪物に囲まれない。
ーーー目を凝らせっ!
ーーーこんなところで死ぬわけにはいかないだろう!
「ーーーそこだっ!」
一撃食らえば、姿勢を崩す。
そして無数の怪物に囲まれ殺される未来は容易に想像できる。
だから一撃も食らわない!
一瞬も油断しない!
疲れを感じても意識して忘れる。
考えるな。動け!
一瞬の硬直で死ぬ。
「ーーー夢を叶えるんだ!皆を救うんだ!こんなところで死んでたまるか!!!」
吠えて自分を鼓舞する!
『キルラビット』の首への噛みつきを剣で受け流す。
その陰に隠れて奇襲を試みる『ビッグラット』もシールドバッシュで吹き飛ばした。
このままーーータケルとユリアが戻ってくるまで耐えきる!!!
そのとき。
視界の隅にいた数体の
見つめる先は僕の後ろ。
ーーーホブゴブリンと戦闘しているタケルとユリアのいる方だ!
「ーーーっ!?どうして!?」
僕の『ヘイト集中』はまだ機能しているはずだ!
全身に纏う魔力は絶えていない!
ーーーなのにどうしてタケルの方を見る!?
僕は『ホブゴブリン』の一撃を受け流すときにチラリと2人の方を見る。
2人は『ホブゴブリン』と戦っていた。
タケルは勇猛果敢にホブゴブリンに剣を振るっていた。
ユリアはなんとかホブゴブリンの注意を引き、時間を稼いでいた。
そして2人の足下にはーーー1体の『ホブゴブリン』の死体があった。
腰から一刀両断されて2つに別れたその肉塊はーーー大きな血の池を作っていた。
ーーー
血に誘われた怪物がーーータケルとユリアの元へ駆けだした!
「ーーーさせないっ!!!」
僕は『ヘイト稼ぎ』に、より多くの魔力を割く!
身体から魔力が漏れていき、微かな虚脱感を感じる。
この虚脱感は……『魔力切れ』が近づいている証拠だ…。
僕は普段よりも多くの魔力を纏い、
ーーーでも。
「ーーー!?まだ駄目なのか!?」
駆ける怪物はその歩みを止めなかった!
一瞥もくれない!
猛スピードで返り血に染まるタケルに迫る!
「ーーークソ!」
ーーーもう後先考えない!
『ヘイト稼ぎ』に魔力を込めすぎると
『狂乱状態』になった怪物は捨て身の攻撃をしてくる。
ーーー20体の怪物の捨て身の攻撃に僕が耐えられるか…。
……耐えきる自信は無い。
ーーーでも2人を守るためには、これしかない!!!
僕は温存していた魔力も『ヘイト稼ぎ』に注ぎ込む!
もっと!
ーーーもっと魔力をっ!!!
ーーー
ーーー『これまで纏ったことがないほどの量』の魔力が身体を覆った。
するとーーーやっとタケルに向かう怪物が歩みを止めた。
そして振り返った。
ーーーギョロッ!!!
その目は血走り、一心に僕を見つめていたっ。
僕に攻撃を繰り返していた怪物共もその目に怪しい色を滲ませたっ。
『ギャァァァァァァァァ!!!!!!』
『
『狂乱状態』の怪物共は互いを押しのけ、地面に押し倒し無理矢理にでも僕に迫ったっ!
『キルラビット』の右足への噛みつき。
全速で駆け回り、一直線に僕に迫った。
足を下げ、躱そうとしても執拗に追いかけてきたっ!
『キルラビット』の相手をしている内に『ワイルドボア』の突進も迫る。
『ワイルドボア』の突進を盾で受け流したっ!!!
受け流した瞬間ーーー普段以上にのしかかる衝撃に一瞬硬直する。
その状態でーーー『キルラビット』が跳躍して僕の首に迫ってきたっ!?
ーーークソッ!
なんとか剣を間に合わせて弾く!
ーーー盾も剣も振りきった状態。
ーーーにもかかわらず狂乱する『ホブゴブリン』の棍棒の振り下ろしが頭に迫ってきたっ!
「ーーーおぉぉぉぉぉ!!!!!」
身体を捻り、紙一重で躱すっ!!!
髪の毛数本が棍棒に巻き取られた。
棍棒の突起が眼前を掠めた。あと数ミリずれただけで目が潰れていただろう。
でもーーー怪物共の3連撃をなんとか躱せたっ!!!
これでーーー!!!
でも
「ーーーあ、、、」
身体を捻った先にはーーー棍棒を振りかぶるもう1体の『ホブゴブリン』。
その軌跡は僕の『頭』を狙っていたっ…。
ーーー体勢は完全に崩れている…。
ーーー今更回避行動はできない…。
ーーーこの一撃は…躱せない。
ーーー盾も剣も間に合わない……。
ーーー防ぐ手段は…ない……。
ーーー残り数cm……。
ーーー僕の命は…残り数cm……。
ーーー思うのはついさっき頭を潰されて死んだ
ーーー僕もあんな風に死ぬのか…?
ーーー死ぬのか……こんなところで?
ーーーまだ何もできてない…。
ーーー弟妹にお別れも言えてない…。
ーーーマザーへ何も返せていない…。
ーーーガルム兄さんとの『夢』も叶えられていない…。
ーーーこんなところで……死ぬのか?
ーーー『夢』への一歩を踏み出せたばかりなのに…。
ーーー『迷宮都市の全ての孤児を救う』と兄さんに誓ったばかりなのに…。
ーーー孤児に対する理不尽を……兄さんと一緒に打破すると誓ったばかりなのに……。
ーーーまだ何もできていないっっっ!!!
ーーーそれにっ。
ーーー僕が死んだらタケルとユリアはどうなるっ!!??
目前には僕目掛けて駆ける|怪物共の大群。
後ろのタケルとユリアは今なおホブゴブリンと戦っている。
僕が今死ねばーーー2人が大群に蹂躙されるのは容易に想像できるっ!
ーーー諦められないっ!!!
ーーー諦めてたまるかっ!!!!!
ーーー棍棒との距離が残り数cmでも諦めないっ!!!
なんとか頭からずらしてーーーせめて肩にっ!!!!!
だがーーー現実は無情で不条理だ。
『ホブゴブリン』の棍棒は僕の脳天にーーー直撃したっ…………。
「ーーークッ!?」
ーーー僕はホブゴブリンの棍棒を頭に食らい、吹き飛ばされた!
ーーー頭が痛む!!!
ーーー頭が痛むッ!!??
『ホブゴブリン』の一撃を頭に食らったんだぞ!
ーーー痛い程度ですむはずがない!!!
僕は脳天への一撃を受けて吹き飛ばされたんだぞっ!?
僕は…直撃を受けた頭を触る。
そして、直撃を食らった側頭部を確認する。
ーーー頭の形は正常だ…。
ーーー陥没していない…。
直撃を食らった部分から額に流れる血を拭って考える。
ーーーどうして?
ーーーどうして僕は生きている…?
あんな強力な一撃を食らったのに…運良く助かった……?
あり得ない現実に僕は呆ける。
どうして、と呟こうとする……。
だけどーーー『狂乱状態』の怪物共が考える時間を与えてくれるはずもなかった!
「ーーー!?」
気づかぬ内に右方から迫っていた『キルラビット』が僕の首を狙って跳ねた!
ギラリッ!
『キルラビット』の鋭い牙が輝いた。
回避はーーー間に合わない!
首を噛み千切られたら、今度こそ死ぬ!
僕は腕を持ち上げて、迫る『キルラビット』の口に持って行くっ!
腕なら負傷した後も、戦える。
ーーー腕くらい、くれてやるっ!
僕は鋭い痛みを予感して、歯を食いしばる!
「ーーーっく!」
キルラビットが腕にかみついたっ!!!
「ーーー!?」
ーーー予想していた痛みを感じないっ・・・?
僕は驚愕して腕に噛みつきながら唸る『キルラビット』を見た。
キルラビットの牙がーーー無防備な
『キルラビット』の牙はーーーまるで『
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