第4話 孤児の不条理 Ⅳ








思わぬ『家族』へのお土産パンを手に、僕とユリアは『家』の近くまで帰ってきた。

僕らの家は迷宮都市の最外周部にある。

最も土地代の安い地域だ。

迷宮のある中心街から1時間半ほど乗合馬車に揺られれば帰ってこれる。

馬車を降りてからさらに10分ほど歩き、路地を曲がって、さらに進むとやっと家が見えてきた。


古ぼけて所々ひび割れがあり、日光で茶色に変色した建物。

大きな傷には板が打ち付けられていて、そんな延命の痕跡がいくつもある。

普通の人なら別の家に引っ越すだろうレベルの侘しさがある。


ここが僕たちの家ーーー『マリア第7孤児院』だ。


孤児院というのは、幼くして両親を亡くした孤児が保護される施設だ。

0歳~15歳までの子供が孤児院で成長し、15歳になると同時に卒院して自立する。侯爵りょうしゅ様の厚意によって運営を許可されている保護施設。


僕が今日まで暮らしてきた、マリア第7孤児院はごく最近15年前に設立された孤児院だ。孤児院で暮らしている孤児の数は僕も含めて37人。

下は4歳から上は僕とユリアとタケルの14歳まで。迷宮によって・・・・・・探索者の両親を失った多くの|孤児(こども)が…一緒に支えあって貧しいながらも暮らしている。






「ーーーあっ!アレン兄ちゃんとユリア姉ちゃんだ!!!」


孤児院の正門の前まで辿り着くと、玄関で遊んでいた妹の1人、リリィが僕とユリアに気づいた。


「マザー!兄ちゃんたちが帰ってきた~!」


同時に弟のシュンが家の中に向かって叫ぶ。

すると家の中から弟妹たちが飛び出してきた。

どんどん飛び出してくる。たぶん全員出てきたな…。全員元気が有り余っているみたいだ。


『ーーー兄ちゃん、姉ちゃんお帰りッ!!!』


年少組が勢いよく抱きついてきた。

年長組はそんな年少組を微笑ましそうに眺めている。



「ただいま、皆。今戻りました」

「……ただいま…」



僕とユリアは微笑みながら弟妹を抱きしめ返し、暖かく呟く。

4日振りの再会だ。

久しぶりに感じる弟妹の温もりに目を閉じる。


「ーーーふふふ。お帰りなさい、アレン、ユリア」


すると、家の中から暖かい声が聞こえてきた。

声の主が草履を履きながら顔を出した。

白い長髪に安物の使い古した麻の服を着込み、胸にはエプロンを着けている。

30代にも関わらず皺一つない顔は包み込むような優しい笑顔を浮かべ、温もりを感じさせる。


マザー。

僕たちの母さんだ。



「ただいま帰りました。マザー」

「……ただいま、マザー…」

「二人が無事で何よりだわ。あら、タケルは一緒じゃないの?」



マザーが穏やかな顔を浮かべたまま首を傾げた。


「?まだ帰っていませんか?先に家に帰らせたつもりなんですが」


まさかまだ串屋で食べているのか?

串屋は立ち食い屋だ。

そんな長居できるとは思っていなかったんだが…。


「まだ帰ってきてないわ。どうしたのかしら?」


マザーの顔が心配そうに曇る。


そのとき。


「ーーーは~はっはっはっ!」


後ろからタケルの高笑いが聞こえた。

振り返ると、そこには仁王立ちで不敵な笑みを浮かべるタケルが立っていた。



「タケル、今までどこに行っていたんですか?串屋に寄るにしても時間かかりすぎです」

「ーーーはっはっは!それは、こういうことだっ!!!」



タケルが後ろ手に持っていた何かを見せた。

それは持ち帰り用の葉っぱに包まれたーーー香ばしい匂いを漂わせる『大量の焼き鳥串』だった。

もちろん食いしん坊の弟妹がその匂いを見逃すはずもない。


『あ~、タケル兄ちゃんが焼き鳥持ってるっ!ずるい~!!!』


一斉に皆でタケルに駆け寄る。

僕とユリアを囲んでいた弟妹も肉の魔力には逆らえなかったようだ。

すぐにタケルは年少組に囲まれた。


「はっはっは!ほしいかガキどもっ!ほしければひざまずけ、俺様をあがめろっ!!!」


調子に乗ったタケルが叫ぶ。


「マザー、あがめろってなにー?」


タケルを囲んでいた弟の1人、ソウがマザーに尋ねた。

マザーは眉を顰めて、困ったように呟いた。



「…タケル、意地悪しないで皆にあげてください」

「えっ……う、うっす、マザー」



いつもは利かん坊なタケルだが、マザーにだけは弱い。

タケルはマザーの指摘に狼狽えて、すぐに肉串を弟妹きょうだいに配り始めた。


『ーーーうめぇ~!ちょーうめぇ!!!』


至る所から喜声が上がる。



「はっはっはっ!!!俺様をあがめろ~!奉れっガキ共っ!!!」

「……僕から借りた金で買っておいて都合よすぎですよ、タケル」



皆の笑顔に僕も笑顔になる。

隣のマザーも暖かい笑みを浮かべていた。

……タケルもたまにはいいことをする。

タケルはマザーの前まで移動してマザーに串を差し出した。


「マザー、マザーの分も買っておいたぜ」


マザーは串を受け取ろうとして、その手をすぐに引っ込めた。

マザーの視線を追うとそこには物欲しそうに串を眺める弟、リキがいた。



「……ありがとうタケル。でも私はいいですから。リキにあげてください」

「いや、そりゃあーーー」



タケルが焦るように口を巻くし立ててしゃべる。


「ーーーやったぁ!!兄ちゃん兄ちゃん!それ俺のだって!!!」


気づけばリキがタケルの腕にしがみつき、串に手を伸ばしていた。


「ばっか!お前食もう食っただろ!殴られてぇのか!ちょっとは遠慮しろやっ!!!」


リキを身体から離そうと必死に抵抗する。



「タケルの口から遠慮という言葉が出るとは、驚きです」

「クソッ!アレン!お前もリキ離すの手伝えっ!クソがッ!こんなちっこいのにどこからこんな力出てやがるっ!」



タケルが力一杯リキを引き剥がすが、リキも踏ん張って離れない。


『タケル兄ちゃん、おもしろ~い!』


皆が笑っている。

それにつられてマザーも笑った。



「ふふふ、さぁ皆!早くお家に入りましょう!お腹すいてる子もすぐに美味しいご飯できますからもう少し我慢してくださいね」

『は~い!』



パンパンッ!

マザーが手を打ち家族全員に合図した。

皆競うように家の中に入っていく。




「マザー、少しいいですか」


家族全員が家の中に入ったのを見てマザーも家の中に入ろうとするが呼び止める。



「?どうしました、アレン?」

「ーーー今回の探索の稼ぎ分・・・です。納めてください」



僕は腰の布袋の一つを取り出し、マザーに向ける。

マザーはその袋を見た瞬間、顔を歪めた。


………マザーがこのお金を受け取りたくないのは知っている。

………このお金は僕たち3人が命を懸けて迷宮探索をして稼いだお金だ。

だからこそマザーは受け取りたがらない。

子供からお金を搾取しているようだから。


………でも、このお金がないと弟妹きょうだいたちが食べていけない・・・・・・・


マザーは複雑な表情を浮かべ、布袋を受け取った。



「………いつもありがとう、アレン。……どうお礼を言っていいか」

「礼なんて言わないでください。僕たちがこれまでマザーにかけた負担を考えればこのくらい……」



ーーー本当に少なすぎる。

僕は8年間マザーに育てられた。ユリアとタケルは13年間。

その間にどれだけマザーに負担をかけたか……。想像もつかない……。


「……今回の探索で9銀貨稼げました。4分の1の2銀貨3銅板2万3千円入っています。……これだけしか稼げないことがなさけないです…。本当はガルム兄さんたちのようにもっと稼がなければならないのに……」


孤児37人を養うためにかかる費用は膨大だ。

育ち盛りの弟妹たちの食費だけで……毎月7銀板(70万円・・・・)ほどかかる。

迷宮都市を治める侯爵様からの孤児院への支援もあるが、その額は4銀板(40万円)ほどだ。

3銀板(30万円)以上孤児院の自力で稼がなくてはならない。

さらに当然だが、食費以外にも衣服などの生活費も必要だ。もっと多く稼がないといけない。


……2銀貨(2万円)程度じゃ到底足りない。


「いえ!十分ですっ!!……本当にありがとう…」


……マザーが僕の肩を叩いて慰めてくれる。

だけど、それが尚更に自分の実力の無さを露呈しているようで情けなくなる……。


「……すいません」


僕は、自分の頼りなさを誤魔化すように……マザーに謝罪した…。






「ーーーマザー、アレン兄ちゃん、早く中入ってよ!いただきますできないよ~!」


家の中からリリィの声が響いてきた。


「ーーーあら、ごめんなさい!すぐ戻るわ、もうちょっと待って!」


マザーが顔を上げてすぐに返事をした。

そして僕と向かい合った。



「いま頂いているお金だけでも十分に助かっています。決して無理せず、必要ならば自分たちのためにお金を使ってください。……お金のことは、昔のように私がなんとかしますから…」

「…………………」



………昔。

ガルム兄さんたちも僕たちも幼く、僕たちの探索者として稼ぎも無かった当時。

マザーは野菜作りや織物をして、僕たちのためにお金を稼ぎ……それでも足りなければ借金をした…。

それでも毎日のように食う物に困って……1日1食が当たり前だった…。


それが今では・・・・、僕たちの探索者としての稼ぎも含めて、孤児院の全員が貧しいながらも1日3食食べられるようになった。


………昔に戻って・・・・・弟妹たちに飢えを感じさせたくなんかない…ッ…。


「今戻りますよ~!今日のご飯はアレンたちの帰還祝いでお肉です。沢山食べてお兄ちゃん、お姉ちゃんのように立派に大きくなってくださいね!」


マザーが小走りで孤児院の中に戻った。


1人残された僕は静けさを取り戻した正門でーーーギュッ!と拳を強く握ったっ……。














孤児院の居間には4つのテーブルが並んでいる。

1つのテーブルにつき、10人が座れる。

このテーブルに座り、全員で食事を食べるのが孤児院の鉄則だ。


「皆、ゴルゴナに祈りを捧げましょう」


マザーが両手を組み、目を閉じた。



「日々の糧を、仕事を、幸せをありがとうございます。いただきます」

『いただきます!』



食事の挨拶を終えて全員がフォークとスプーンを持った。



「うまい!うま~い!」

「美味しい!久しぶりのお肉だぁ!」

「スープにもお肉が入ってる!やったぁ!」



今日の夕食はパンとコンソメスープとマッシュポテト、ウインナーだ。

…どれも美味しい。

使われている野菜とジャガイモは孤児院の畑で取れた新鮮な物だ。

スープの中の野菜は噛む度に仄かな甘みを感じさせるし、歯ごたえもシャキシャキとしていて噛み応えがある。

スープの屑肉は…少し臭みがあるが十分に食べられる。

使われているコンソメが肉の臭みを消していて、美味しく食べられる。

ーーー探索疲れを感じずにあっという間に全て食べきってしまった。


それは皆同じようで、僕が食べ終わる頃には弟妹ほとんどが食べ終えていた。



最後にユリアがスープを飲み干したのを見て、マザーが口を開いた。



「皆食べ終わりましたか?」

『は~い!』

「それでは食器を片付けてしまいましょう!皆手伝ってくださいね」



マザーが立ち上がり、率先して食器を片付けようとしていた。

ーーー僕はそれを止める。


「マザー、その前に少し時間をもらってもいいですか?」


僕は卒院を間近に控えてーーーこの場で弟妹たちに『孤児の残酷な現実を伝える』ことを決めていた。

僕はタケルとユリアに視線を向ける。

2人には予め弟妹にそれを伝えることを相談してある。2人とも納得してくれた。

……不足の事態ではサポートしてくれることになっている。



「明後日、僕たちはこの孤児院を卒院します。卒院してからの身の振り方を皆の前で話しておこうかと思いました。……マザーだけにでなく皆に・・です」

「……そういう、ことですか…」



マザーは僕の意図に気づいたようで眉を顰め迷う素振りを見せたが、頷いてくれた。



「……はい、皆に教えてあげてください…」



「皆に聞いてほしい話があります。真剣な話です。僕たち孤児に関する・・・・・・悲惨な事実・・・・・についてです」



僕は立ち上がって、4つのテーブル全てに聞こえるように声を張り上げ、話を続ける。


「僕とユリアとタケルは卒院後も、今まで通り探索者として活動します。それは僕たちが夢の多い探索者に憧れを抱いた、という理由もありますが、大きな理由は孤児ぼくたち探索者・・・以外になれない・・・・・・・からです」


見渡して確認すると皆真剣に僕の話を聞いてくれていた。






孤児ぼくたちが探索者にしかなれない理由は、孤児ぼくたちコネ・・がないからです。僕たち孤児こじは親がいないから就職に際してコネがありません。そして勉強する余裕がないから学もありません。だから当然……学とコネの必要な商会や役人に採用されることはありません。なら自分で露天商を開いたり、農家になって稼ぐのは?……元手となるお金がないので不可能です。残る選択肢は安いお金で扱き使われる日雇い労働者か、命の危険はあれど夢の多い探索者しかありません」


「ーーー僕には1つのがあります。それは迷宮都市の・・・・・孤児を救うこと・・・・・・・。大きな探索者クランを作って、孤児が不自由なく探索者になれるように支援する組織を整えることです。知識や装備品などの探索者になるために必要なものをお金のない孤児にも与えられるような環境を作っておくことです」


「まだ小さいリリィやシュンは分からなくてもいいですが、年長組は今からでも探索者になる準備をしてください。恐らく年長組は探索者になるしか道はないと思います。探索者にいざなる時に後悔しないために訓練にもっと身入れてください。訓練を半端な気持ちでやっていると迷宮ダンジョン簡単に・・・殺されます。ーーーこれは事実です」







……真剣に話をした甲斐があった…。

話をする前とは……年長組の顔つきが違う。

次回からの訓練では、皆いつもより真剣に取り組んでくれるだろう…。


「ーーー年長組は状況を再確認できたみたいですね。無理矢理ですが発破をかけた甲斐がありました」







僕が年長組への忠告に手応えを感じて満足しているとーーー不意に背中に衝撃を感じた。

それも2度。振り返って確認すると年少組のリリィとシュンが抱きついてきていた。

その顔は……くしゃくしゃに歪んでいた。


(……皆真剣に話を聞いていたから、怖かったのかな?)


「どうしました?2人とも」


僕はなるべく安心させるように笑顔を浮かべて今にも泣き出しそうなに訊2人に尋ねる。


「………おにいちゃん、お家から出ていくの…?」


そっちの話ですか…。

リリィとシュンは今年で4歳。まだ家族が家から出て行くという感覚が理解できないんだろう……。

僕は屈んでリリィとシュンの頭を撫でる。



「はい。僕とユリアとタケルは明後日の誕生日で孤児院いえを出ます。それが孤児院いえの決まりですから」

「………いやぁ…このまま、お家にいてよぉ。……いつもみたいにおままごとしようよぉ…」

「俺もいやだよ兄ちゃん!もっと孤児院うちにいてくれよ!探索者になるための稽古つけてくれよっ!!!」



2人とも顔を歪めて今にも泣き出しそうだ。



「……すいません。でも15歳になったら孤児院を出る決まりなんです。自立できるようになった子が独り立ちしないと新しい子・・・・が孤児院に入ってこれない。ガルム兄さんたちの時と同じです」

「………………」



2人とも……僕のズボンに顔を埋めて無言になった。



「……別にもう会えなくなるわけではありません。住む場所が変わるだけで毎週孤児院いえに顔を出しますから。稽古にも参加します。だから安心してください」

「………………」



それでも……2人とも僕から離れなかった。


「……リリィ、シュン。アレンが困っていますから離してあげてください…」


マザーが近づいてきて屈んでリリィとシュンに話しかけた。


「………いやぁ…」


マザーも困り果てた顔になる。

2人がマザーの言うことを聞かないのは珍しい。

そこに少しの喜びを感じて、つい微笑んでしまう。



「あらあら。……しょうがないですね。アレン、もうちょっと我慢してください…。疲れたら離れるでしょうから」

「……はい」


「ふふふ、2人とも可愛い我儘ですね……。そういえば、私も最近アレンとハグしていなかったからリリィとシュンが羨ましいわ……。ん~ーーー私も仲間に入ってしまいましょうっ!!!」



ーーー!?

マザーが急に抱きついてきたっ!?

暖かい向日葵のような心地よい匂いに包まれる。



突然の出来事にーーー息が止まった。



……それにしても。

マザーにハグされるなんて何年ぶりだろう…。


「ん~、……懐かしいわねアレンのこの暖かい匂い…。こんなに大きくなって……」


マザーがクネクネと動いて、さらに密着してしまう。

肩に顔が置かれた。

マザーの柔らかい胸の感触を背中に感じるっ!?


その時ーーー衝撃の光景マザーズハグにフリーズしていたタケルが勢いよく立ち上がったっ!



「ーーーはぁ!?!?なにやってんすかマザー!!??早くっアレンから離れてくださいよ!恥ずかしい!!!」

「ーーーあら、タケルも入りたいの?いいわよ、タケルもおいで」



タケルがマザーに引っ張られてハグに巻き込まれたっ!?



「ーーーいや、、、いやいやいや!!!入りたいわけないじゃないっすか!!アレンみたいにそんな恥ずかしいことーーーおっふ!!!」

「ふふふ、そんな遠慮しないで。ユリアも!」



ユリアの手も引っ張られてハグに入ったっ。


マザーに包み込まれる形で、僕たち3人はマザーの腕の中に入った。

ギュウギュウ詰め。

マザーが強く僕たち3人をハグしているっ。



「ふふふ。ほんと懐かしくて…。あんな小さかったあなたたちがこんなに大きくなって…。いつの間にかアレンには背も抜かれて…。逞しく立派になって…。体だけじゃなくて心も…。弟妹たちの将来のことまで気遣えるようになって…。夢のある立派な子に育って……」

「マザー……」



マザーが……僕の肩に顔を埋めた。

肩に埋まったマザーの口から独白が漏れていく…。

心なしか……肩が湿っている・・・・・気がした…。



「……懐かしいわ…。……全て懐かしい…」

「………………」



嗚咽の混じった呟きが、僕の肩から漏れ続けた…。



「………マザーッ……クソッ…!!!俺ぜってぇ夢叶えっから!!!世界一の探索

者になってガキ共に楽させてやっからッ!!!」

「……マザー…これまで、ありがとう、ございましたッ……」


「……マザー、今までご迷惑おかけしました。僕たち、マザーのおかげでこんな立派になりました。全部マザーのおかげです…」



これまでマザーのお陰で生きてこられた。




これからはーーー僕たちがマザーを助ける番だ。

ーーー孤児院かぞくを守る番だ。




「……サイ、ミミ。明後日からはあなたたちが孤児院の中の最年長です。弟妹みんなの面倒をしっかりみて、守ってください。…分かりましたね?」


僕はマザーから視線を外し、こちらを見つめるサイとミミに視線を向けて告げる。


『はい!』


いい返事です。




胸の中で嗚咽を漏らすマザーをきつく抱きしめ、幾度目になるか分からない、家族を守る決心を心に深く刻みこんだ。











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