第116話 ぐちゃぐちゃの感情(あとがきにお知らせあり)
「な、何もしていないよ……」
「嘘。何か隠しているでしょ? 本当はやっぱりエロ本とか持っているんじゃない?」
そう言って、雨音姉さんが俺の背中を覗き込もうとする。
まずい。このままだと俺が雨音姉さんの日記を見ていたことがバレてしまう。
俺は窓際へと後退する。雨音姉さんは一歩踏み込んで、俺に近づいた。
に、逃げ場がない……。
雨音姉さんの端正な顔立ちがぐいっと近づけられる。
改めて見ても、俺の従姉はとても美人だと思う。
顔はアイドルのように整っていて、スタイルも抜群で大人な雰囲気で……。しかも頭もすごく良いし、悪戯好きだけど本当はとても優しい性格だ。
そんな雨音姉さんが、俺のことを好きでいてくれる。
あの日記の雨音姉さんの思いと、目の前の雨音姉さんが重なり、俺は動揺した。
「なに赤くなっているの? やっぱりエッチな本なんでしょう?」
くすっと笑って、雨音姉さんが俺に手を伸ばそうとする。てっきり、俺は手に持っている本を無理やり奪われるのかと思って、身構えた。
一応、俺も身体能力にだけは自信がある(昔は喧嘩も強かった)ので、強引に防げるといえば防げるけど、雨音姉さんに乱暴をするわけにはいかない。
結局、俺はほぼ棒立ちで雨音姉さんの行動を迎えた。
「あれ?」
雨音姉さんの行動は予想とは違った。
俺の頭に手を回し、優しく撫でたのだ。
「晴人君ってば、可愛い……! 恥ずかしがらなくてもいいのに。家族なんだから」
雨音姉さんがふふっと笑う。俺を弟として純粋に慈しむ視線に俺は戸惑う。
柔らかくて小さな手が、俺の髪をくしゃくしゃっとする。俺は雨音姉さんの弟なんだ、となぜかそのとき強く感じた。
俺は照れ隠しに口を開く。
「エロ本を持っていたら、普通は家族に見せるのは恥ずかしがると思うけど……」
「あっ、やっぱりエッチな本を持っているんだ?」
「い、いや、そうではなくて……」
「家族なんだから隠し事は無し。そうでしょう?」
「そういう雨音姉さんは隠し事があるんじゃない?」
「私? 私が晴人君に隠していることなんて、何もないよ」
それが嘘だと俺は知っていて、だからといって俺は問いただすこともできなかった。
雨音姉さんが、俺の背中に手を回そうとする。日記を見たことを知られたら、これまでの関係ではいられない。
雨音姉さんだって、隠そうとしてきたのだし……。
そんなとき、雨音姉さんが俺の頭から手を離す。
そして、柔らかい笑みを浮かべて、俺の背中にそっと手を回そうとした。雨音姉さんの身体が俺に近づき、その長くて美しい髪が軽く揺れる。
ふわりとした甘い匂いにどきりとする。手に持っている日記を奪おうとしているんだろうか? それとも単にハグしようとしてくれているんだろうか。
どちらだとしても、今の俺は平静ではいられない。雨音姉さんの思いを知ってしまったのだから。
逃げ場はない。日記を見られてはいけないという思いと、俺に好意を持ってくれている雨音姉さんへの感情がぐちゃぐちゃになって――。
俺は反射的に、雨音姉さんを突き飛ばしてしまった。
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