【コミックス一巻本日発売】第112話 晴人君に触れてもらえるのは、嬉しいな

 てっきり照れて否定するかと思ったけれど、大人の余裕……なのだろうか。


 そして、雨音姉さんは部屋の窓を開けた。冬の夜の冷たい風が部屋に入ってくる。

 雨音姉さんは、窓の外を見つめる 


「晴人くんは私なんかいなくても、寂しくないって思ってた」


「寂しくないわけないよ」


「本当? 晴人君には、夏帆がいて、桜井さんがいて、今では水琴さんもいる。私が一人いなくたって、大したことないんじゃない?」


 雨音姉さんが珍しく沈んだ声で言った。

 俺はぽんと雨音姉さんの肩に手を置いた。


 雨音姉さんがびっくりした様子で、こちらを振り向く。

 そして、くすっと笑った。


「お触りは禁止♪」


「い、いかがわしい言い方をしないでよ。一緒に住んでいたときは、肩を叩くぐらい普通にやっていたし……」


 雨音姉さんは集中力が高くて、パソコンで作業したり、勉強したりしているときは、声をかけても気づかないこともあった。イヤホンをしていれば、なおさらだ。


 そういうとき、「ご飯ができたよ」と知らせるために、肩を叩いたりしたことは何度もあったと思う。


「それに、雨音姉さんから俺へのボディタッチの方が、問題だと思うけどな……」


「抱きついたりとか?」


「そうそう」


「ただのスキンシップでしょう? それとも、嫌だった?」


 雨音姉さんが不安そうに聞く。今日の雨音姉さんは、ちょっと変だなと思った。

 いつもなら、そんなことを心配したりしない。


「嫌では全然ないけどね」


「なら、嬉しい?」


「嬉しい、というか、ほっとはするよ。雨音姉さんは頼りになる家族だから」


 ふうん、と雨音姉さんは複雑そうな表情を浮かべた。

 逆に、俺が肩を叩いたのを、雨音姉さんが嫌がっていたなら、申し訳ないな、とも思う。

 でも、すぐにその懸念は消えた。

 

「私は嬉しいけどな。晴人君に触れてもらえるのは」


「え?」


「お触り禁止、なんて言ったけど、本当は、こないだみたいに、いくらでも触ってくれてもいいんだよ? ほらほら」


 えへんと雨音姉さんが胸を張り、そのはずみに大きな胸が揺れた。スタイル抜群の身体を自慢するかのようだ。

 

 よくわからないけど、いつもの雨音姉さんに戻ったようだ。


「さ、触ったりしないよ」


「嘘。本当は触りたいと思っているくせに。こないだも……今だってエッチな目で見ていたでしょ?」


「見てない見てない。家族をそんな目で見たり……しないよ」


「本当かなあ」


「雨音姉さんは無防備すぎるというか、からかいすぎて、俺がその気になったらどうするのさ? 今だって二人きりなのに……」


「ほら、晴人君だって、そうなる可能性があるって認めているでしょう? 私たち、従姉弟なんだもの。過ちがあってもおかしくないわ!」


 いたずらっぽく雨音姉さんが片目をつぶる。玲衣さんが言っていた「従姉弟とは結婚できる」という言葉を急に思い出し、俺は意識してしまう。


 自分の頬が熱くなるのを感じた。


「な、ないから! というか、そろそろ片付けをちゃんとやらないと、今日中に終わらないよ……」


「あら、晴人君ったら、真面目なのね」


「雨音姉さんが不真面目すぎるんだよ?」


「あっ、ひどい! 晴人君も言うようになったよね。昔はちっちゃくて可愛かったのに……」

 

 くすくすっと雨音姉さんは笑い、そして、俺をじっと見つめる。 


「ねえ、晴人君……もし……」


「もし?」


「ううん、なんでもない。忘れて」


「そっか……」


 雨音姉さんは何を言おうとしていたんだろう?

 気になったが、問いただして聞くようなことでもない。





<あとがき>

コミックス1巻が本日発売です!!!!! 書店に急げ!!!!!!!!

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