第106話 すごい、晴人くん!
「お、俺は神様なんかじゃないよ」
「晴人くんは、わたしの神様だよ。神様、仏様、晴人様! ね?」
玲衣さんがからかうように言うが、その頬は赤かった。
「か、からかわないでよ……」
「冗談で言ってないよ? 晴人くんはわたしの神様。わたしに居場所をくれた大事な人。晴人くんがわたしを幸せにしてくれて、わたしを守ってくれるんだもの」
「でも、俺は……」
玲衣さんは俺を好きでいてくれる。俺を信頼してくれている。でも、俺はまだ玲衣さんと付き合うと決められていない。
俺は玲衣さんに神様なんて呼ばれる資格はない。もし、俺が玲衣さんでなくて、夏帆を選んだら――。
玲衣さんは俺の手を握ったまま、ふわりと笑った。
「いいの。わたしが晴人くんを勝手に好きになっただけだもの。それでも晴人くんはわたしの神様なの」
「俺はさ、玲衣さんを失望させるかもしれない。悲しませるかもしれない。それでも?」
「もちろん。だって、今のわたしは幸せだから。先のことよりも、この瞬間の方がずっと大事」
ね、と玲衣さんが上目遣いに俺を見て、微笑んだ。
俺も自分の頬が熱くなるのを感じる。
ここまで俺のことを好きと言ってくれる少女がいるなんて……幸せなことだと思う。
「俺も、玲衣さんと一緒にいると楽しいよ」
そう言うと、玲衣さんがぱっと顔を輝かせる。
「ありがとう。晴人くんがそう言ってくれて嬉しい!」
「えっと……くまにゃんのぬいぐるみも必ず、とってみせるよ」
「約束してくれたものね?」
俺と玲衣さんはレースゲームの機械から立ち上がると、一緒にUFOキャッチャーの前に行った。
巨大なくまにゃんのぬいぐるみ……の入った箱が真ん中に鎮座している。
玲衣さんが不安そうに俺をちらりと見る。
「こういうのって難しいの?」
「そうでもないけど……試しに玲衣さんもやってみる?」
玲衣さんはこくりとうなずいた。俺が硬貨を一枚投入する。
「クレーンの位置は前後と左右でそれぞれボタンがあって……」
UFOキャッチャー初挑戦ということで、俺は簡単にやり方を説明する。
玲衣さんはそれを興味深そうに聞いていた。
そして、実際にクレーンが動き出す。玲衣さんは慣れない手付きで、ボタンを押していた。
そういえば、これで玲衣さんが成功したら、「俺がぬいぐるみを取るよ」と言っていたのに、立場がなくなるなあ、と思った。
けれど、幸いにも(?)玲衣さんは失敗してしまった。玲衣さんは悲しそうにUFOキャッチャーを見つめる。
「難しいね……これ」
「単なる慣れだよ」
「晴人くんは得意なんだよね?」
「もちろん」
俺は珍しく自信満々に笑みを浮かべた。こういう役に立たないことは得意なのだ。
実のところ、このUFOキャッチャーは、クレーンの爪に滑り止めがついていない。
つかみやすく、景品を取りやすいタイプだった。
俺は硬貨を一枚投入する。そして、機械のボタンをぽちぽちっと二回押して、クレーンを下ろす場所を決めた。
綺麗にぬいぐるみの箱にヒットして、落下させることに成功する。
玲衣さんはあっけにとられていた。
「晴人くん、すごい……!」
「大したことじゃないよ」
「あんなに難しそうだったのに!」
玲衣さんがきらきらと目を輝かせていた。尊敬するように俺を見つめている。
そんなにすごいことをしたわけではないので、ちょっと照れる。
でも、玲衣さんに感心してもらえたらな、まあ、悪くないかもしれない。
それに……。
「はい、これ、玲衣さんにあげる」
俺は特大のぬいぐるみの箱を抱え、玲衣さんに言う。
玲衣さんがとても嬉しそうな顔をした。
「いいの!?」
「もともとそのためにここに来たわけだし」
「やった!」
玲衣さんが子供のようにはしゃいで喜ぶ。俺は16歳、玲衣さんはまだ15歳だから、子供といえば子供なのだけれど。
以前は冷たい表情しか見せてくれなかったのに、今は俺の前でこんなにもストレートに喜びを表現してくれる。それが俺には嬉しかった。
そういえば、年が明けて一月には、玲衣さんの誕生日がある。
俺が玲衣さんを見つめていると、玲衣さんが不思議そうに首をかしげる。
「どうしたの?」
「いや、玲衣さんの誕生日、一月十一日だったよね?」
「覚えていてくれたんだ。ありがと! これは誕生日プレゼント?」
「いや、そうじゃなくて、誕生日にはもっとちゃんとしたプレゼントを贈りたいなって」
「そ、そんなの……晴人くんに悪いよ」
「俺がそうしたいだけだよ。今までのお礼も兼ねて」
「お礼をしたいのはわたしの方だけど……でも、晴人くんがプレゼントをくれるなら、嬉しい。楽しみにしてる」
玲衣さんは幸せそうに微笑んだ。
この先も俺たちは一緒にいられるかはわからないけれど、玲衣さんの誕生日まではさすがに俺たちも一緒にいられるはずだ。
それに……。
「誕生日までに、お正月もクリスマスもあるよね。わたし、晴人くんと一緒に過ごしたいな」
「一緒に過ごせるよ」
「できれば二人きりがいいんだけどね、前みたいにアパートで二人きりで住んで、クリスマスを祝うの」
<あとがき>
コミカライズ連載中! えっちでかわいい玲衣さんを見てね!
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https://twitter.com/karuihiroF/status/1717163030696648874
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