第105話 ゲーセンだ!
俺は玲衣さんの胸を揉みしだき、玲衣さんは俺の舌を貪るように濃厚なキスをして……。
でも、玲衣さんが「んんっ!」と甲高い喘ぎ声をあげて、さすがに電車内でこれ以上するのはまずい、と思った。
俺が手を止めると、玲衣さんもキスをやめた。
そして、名残惜しそうに俺を見る。
「やめちゃうの……?」
「これ以上するのは、ちょっとね。女の子たちも見ているし」
女子中学生たちは興味津々で俺たちのことを見ていた。彼女たちには刺激が強すぎるのだろう。
……俺にとっても刺激が強すぎるけれど。
「あっ、晴人くんのが……」
玲衣さんは続きを言わず、恥ずかしそうに目を伏せた。
その反応にふたたび玲衣さんの身体を弄びたくなるけれど、ぐっと我慢する。
「続きは家でしよう」
俺が言うと、玲衣さんはびっくりして、そして嬉しそうに笑う。
「うん!」
そして、電車は目的地についた。俺たちは女子中学生の目から逃れるように足早に駅を出た。
そして、俺と玲衣さんは駅前のゲーセンに入った。
駅の規模に対してはわりと大きめかもしれない。商業施設の地下一階に入っていて、レースゲームとか太鼓を叩くゲームとか、けっこうな数のゲームが揃っている。
平日の夕方だけど、それなりに学生の姿もあった。
玲衣さんはきらきらと青い目を輝かせている。
「すごい……!」
玲衣さんがとても素晴らしいものを見るように、人がプレイしているゲーセンのレーシングゲームの機械を背後から眺めていた。
俺はそんなに良いものだろうか……とちょっと不思議に思う。
俺の視線に気づいたのか、玲衣さんははにかんだような笑みを浮かべる。
「家が厳しくて、こういうところに来る機会もなかったから……」
「ああ、なるほど。それもそうだよね」
考えてみれば、玲衣さんも遠見家という大金持ちのお嬢様なのだ。
たとえ複雑な事情を抱えていても、そこは変わらない。ゲーセンなんて下々の(?)遊ぶ場所に来る機会はなかっただろう。
遠縁の親戚とはいえ、THE・庶民の俺とは違う。
俺と玲衣さんは隣合わせで、レーシングゲームの機械に座った。ハンドル付きの運転席を再現したようなタイプのゲームだ。
俺はけっこう中学時代にはまっていたので(だから成績が悪かった)、得意な方でもある。
一方の玲衣さんは、ほとんどゲームをしたことがないらしく、俺は操作方法を細かく教えた。それでも、玲衣さんは不得意みたいで、プレイ中に、車を壁に激突させてしまう……。
完璧超人の玲衣さんでも、苦手なことがあるんだな、と思う。
でも、玲衣さんはけっこう楽しそうにしていた。やったことのないことをやるのが楽しいのだろう。
「初めてが晴人くんで良かった」
なんて、玲衣さんが言う。初めてゲーセンでゲームをする相手が俺、ということだろうけれど、心臓に悪い言葉だ。
とはいえ、俺と一緒にいるのが楽しいなら、それは光栄なことでもある。
玲衣さんが慣れない手付きでハンドルを触るのを見て、俺は使い方を教えようと玲衣さんの席のハンドルに触れる。
ほぼ同時に玲衣さんが手を動かし、俺と玲衣さんの手が重なり合った。
「あっ……」
玲衣さんが顔を赤くして、俺を見つめる。そして、俺の手をそっと握った。その手の柔らかさとひんやりとした感触に俺はドキッとする。
そのあいだに、玲衣さんの車は壁に激突して、ゲームオーバーになってしまったけど……。
、
玲衣さんは「ご、ごめんなさい」と慌てた様子で謝った。
「謝ることはないけどさ。そろそろ手を放してくれない?」
「ダメ」
玲衣さんは俺を見て、ふふっと笑う。玲衣さんが俺の手を撫でるように触っていて、とてもくすぐったい。
「晴人くん……楽しいね、ゲーセン!」
「な、なんか本来の楽しみ方と違う気がする……」
「そう? わたしは、晴人くんとデートするのが目的なんだけどな」
「よ、喜んでくれて嬉しいけどさ。なんだか真面目な女神様を、堕落させているみたいで気が引けるな」
俺は照れ隠しに、そんなことを言う。まあ、ゲーセンぐらいで堕落とは思わないけど、玲衣さんが完璧超人の優等生で、これまでとても真面目だったのは確かだ。
「晴人くんに近づけるなら、わたしはいくらでも堕落するよ?」
玲衣さんのささやきに、俺は驚いた。
そういえば、「女神様」って呼ばれ方、以前は嫌がっていたけど、今は玲衣さんはちょっと嬉しそうにしている。
「晴人くんには『女神様』って呼ぶことを許してあげる。特別、なんだからね?」
いたずらっぽく玲衣さんは片目をつぶってみせた。
その表情は本当に可愛くて……たしかに、女神だな、と思う。
ただ、クールな女神様だったけれど、今は可憐で優しい女神様だ。
「でもね、神様はわたしじゃなくて、晴人くん、かな」
「へ?」
「だって、晴人くんがいるから、わたしは幸せなんだもの」
そんなふうに玲衣さんは言い、ちょっと顔を赤くした。
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