第102話 ユキが抱きつく
ユキは、俺たちを睨みつけた。
「アキくんは夏帆のことが好きだったんでしょう? なのに、どうして他の女の子とイチャイチャしているの!?」
「それは……」
「アキくん……そんなのダメだよ、もっと夏帆のことを考えてあげないと。だって、アキくんのいちばん大事な人は、夏帆なんでしょう?」
俺と夏帆は困って顔を見合わせた。
そう。
たしかに以前は迷うこと無く、俺は夏帆と付き合いたかった。
でも、夏帆と俺の血縁関係をめぐる疑惑のせいで、話は複雑になった。
俺は玲衣さんと夏帆、どちらが好きなのか?
俺は答えられないけれど、ユキは当然、俺は夏帆が好きだと信じている。
ユキの願いは、理想の幼なじみである俺と夏帆がくっつくことらしいのだ。
でも、ユキの本心は……。
「桜井さん」
玲衣さんがユキの名前を呼ぶ。ユキはびくっと震え、玲衣さんを敵意のこもった目で見た。
「泥棒猫……」
「それ、桜井さんの言うことじゃないでしょう? それを言う権利があるのは、佐々木さんだけだよ」
「でも、アキくんは夏帆のものだったのに!」
「晴人くんは誰のものでもないよ」
「夏帆以外の人が親しげにアキくんの名前を名前を呼ぶなんて許せない」
「佐々木さんと自分以外、でしょう? 羨ましいなら、こっちに来たら?」
玲衣さんが珍しく強い口調で言う。琴音は面白そうに、玲衣さんとユキを見比べている。
夏帆は心配そうにユキに言う。
「ね、ユキ。これは、えっと……あたしも……納得はしてないけど、納得しているの。だから、大丈夫だから」
「本当に?」
「そうそう。ユキも一緒に学校に行かない?」
夏帆は俺から離れる。玲衣さんと琴音も空気を読んだのか、抱きついた俺の身体を解放した。
「いいけど……」
しぶしぶといった様子で、ユキもうなずいてこっちへ歩いてくる。
そのとき、石につまずいたのか、ユキが「きゃあっ」と悲鳴を上げて倒れ込む。
俺は慌ててユキを抱きとめた。
「だ、大丈夫? ユキ?」
「う、うん……」
ユキは、玲衣さんや夏帆、年下の琴音よりもずっと小柄だ。そんなユキの身体は俺の腕のなかにすっぽりと収まってしまう。
「ありがとう、アキくん。でも……あのね、手が……」
抱きとめた拍子に、俺はユキのお尻を触ってしまう形になっていた。ユキはかああっと顔を赤くして、メガネ越しに俺を上目遣いに見ている。
その小さな胸も俺の腹に押し当てられている。
「ご、ごめん」
俺が慌てて離れようとすると、反射的にユキはぎゅっと俺にしがみついた。「えっ」と周りのみんなも驚く。
玲衣さんや夏帆、琴音とも違った甘い香りがふわりとして、俺は心臓が跳ねるのを感じた。
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