第100話 ユキの物語

 桜井悠希乃にとって、仲の良い幼馴染とは憧れの存在だった。


 転勤族の両親の仕事の都合で、悠希乃は小学校の頃から転校を何度もしていた。

 だから、友達ができても、いつもすぐに離れ離れになってしまう。


 そして、転校先の学校では、幼い頃からずっと一緒に育ってきた幼馴染の姿を見て、羨ましく思うのだった。


 転機になったのは、中学生になったときの引っ越しだった。

 

 中部地方の小さな地方都市・葉月市に、悠希乃は住むことになった。

 そこは父の出身地だった。


 父の転職で仕事の事情も変わり、この街には長くいることになった。

 悠希乃にとってそれは嬉しいことだった。けれど、不安でもあった。


(新しい学校でうまくやっていけなかったらどうしよう?)


 今度は、ずっと長くこの街にいることになる。だから、中学の同級生たちとは三年間一緒にいることになるし、高校に入っても縁が続くかもしれない。


 引っ込み思案な悠希乃は、いじめられたりしないかと心配になった。

 周りは小学校時代からの友人がいるんだから、なおさら孤立してしまうかもしれない。


 でも、そんな心配は必要なかった。

 

 初めて親友と呼べる存在ができたのだ。


 入学して間もなく、教室の隣の席になった女の子はとても可愛くて、そして面白い女の子だった。


 彼女は気兼ねなく、悠希乃に話しかけてきた。


「ねえねえ、どこの小学校にいたの?」


 悠希乃は困った。

 周りは、地元の小学校に通っていた子がほとんどだ。

 

 でも、悠希乃は、引っ越す前は東京の小学校に通っていた。

 正直に言うと、その子は一瞬ぽかんとして、目をきらきらと輝かせた。


「すごい! 大都会! 憧れちゃう!」


「ええと……」


 テンションの高さに戸惑っていると、目の前の子はぽんと手を打った。


「あ、ごめん。あたしの名前は夏帆っていうの。佐々木夏帆」


「ささき……さん?」


「夏帆でいいよ。あなたは?」


「私は桜井悠希乃……です」


「そっか、ユキって呼んでいい?」


 夏帆は、にっこりと微笑むと、なぜか「悠希乃」という名前の最後の文字を省略した。

 あだ名のつもりだったのだと思う。


 それが、悠希乃と夏帆の出会いだった。

 内気な悠希乃と、明るく社交的な性格の夏帆は正反対だった。でも、不思議と気が合った。


 悠希乃は自分のことを暗い性格だと思っていたけれど、夏帆はそうは思っていないみたいだった。


 夏帆はかなりの人気者だったけれど、悠希乃のことを見下したりせず、子分として扱うこともしなかった。

 対等な親友として振る舞ってくれたのだ。

 

 夏帆がどうして自分のことを気に入ってくれたのか、悠希乃にはわからなかった。

 でも、悠希乃は、夏帆のことを大好きになっていった。


 自分にはないものを、夏帆はたくさん持っていた。話が上手で、運動神経もよく、そして明るく強い。


 そして、悠希乃にとって、一番羨ましかったのは、幼馴染の存在だった。

 秋原晴人、というのが彼の名前だった。


 優しくかっこよいその男の子は、夏帆にとっても、特別な存在のようだった。小さい頃から二人は家族同然に育っていて、お互いのことを完璧に理解しているように見えた。


 いつもは優等生の夏帆が、晴人にだけは甘えたり意地悪を言ったりすることに、悠希乃は驚いた。

 初めは嫉妬を感じ、そのうち、二人を見ているのが楽しくなった。


 もし自分にもこんな素敵な幼馴染がいれば、どれほど良かっただろう?


 そんな思いは夏帆と一緒にいるうちに、そして晴人と接するうちに強まった。


 自然と、悠希乃は晴人とも仲良くなった。これまで男の子と親しくなったことなんてなかったけれど、晴人はとても話しやすい存在だった。


 夏帆がいてくれたからだけじゃない。

 もともと晴人が穏やかでマイペースな性格だから、内気な悠希乃も馴染むことができたのだ。


 晴人と話す時、悠希乃はいつもどきどきとした。緊張からくるものだと思っていたけれど、やがて、違うということに気づいた。


 その感情に気づき、悠希乃は愕然とし、そして夏帆と晴人の二人を眺めた。二人は仲睦まじそうに、今日も夜ご飯の予定を話している。


 あの二人のあいだに割って入るなんて、到底無理だ。それに、夏帆を裏切ることもできない。

 

 悠希乃が選んだのは、二人を……悠希乃の理想の幼馴染を眺めることだった。それが悠希乃にできる、もっとも幸せな手段だった。


 あるとき、晴人が悠希乃のことを「ユキ」と呼んだ。悠希乃はびっくりして、晴人をまじまじと見つめる。

 これまでは「桜井さん」と呼んでいたのに、どうして?


 晴人は恥ずかしそうに微笑んだ。

 その表情を見て、悠希乃は理解した。夏帆にそうするように言われたんだ。「あたしの親友なんだから、もっと仲良くして」と。


 夏帆ならきっと言うだろう。そして、本心から、親友と幼馴染が仲良くしてくれることを願っているんだ。


(私の気持ちには二人とも……気づかいていないんだよね?)


 悠希乃はそう考えて、自分の感情を封印することに決めた。

 そして、悠希乃は晴人に微笑んだ。


「じゃあ、私は『アキくん』って呼んでもいい?」


「いいけど、どうして『アキくん』なの?」


「秋原の秋から『アキくん』。いいでしょ?」


 私はくすっと笑ってみせた。晴人、と名前で呼ぶわけにはいかない。

 それは……夏帆の特権だから。


 そして、悠希乃は心に誓った。

 必ず、悠希乃の理想の存在……つまり、夏帆と晴人の二人をくっつけよう、と。二人はこんなに仲が良いのに、付き合っていないらしい。


 二人が恋人になるのを悠希乃は望んでいた。それ以上に、二人が付き合ってしまえば、自分の気持ちを諦めることができるとも思った。


 だから、悠希乃は晴人を応援して、夏帆と彼氏彼女にしようとした。

 

 そんな悠希乃にとっては……夏帆が晴人を振ったのは信じられなかったし、許せないことだった。

 そして、もう一つ、もっと許せないことがあった。


 晴人に、水琴玲衣という美少女が近づいてきたことだった。


(あの子は……私の、ううん、アキくんと夏帆の邪魔だもの。だから、排除しないと)


 このままでは、晴人と水琴玲衣がくっついてしまう。夏帆がなぜ晴人を振ったかはわからないけれど、きっと本心ではないはずだ。


 なら、悠希乃が、晴人と夏帆の物語を正しい道へと戻す必要がある。


 悠希乃はそう信じていた。晴人と夏帆は恋人になる。それが唯一のハッピーエンドだ。


 そして、そんな悠希乃は、ある日の朝、目撃してしまった。


 晴人が夏帆とくっついて登校している。でも、二人だけではない。


 そこには、見たことのない中学生ぐらいの美少女と……水琴玲衣がいた。







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タイトル:落ちこぼれ魔剣士の調教無双 ~クラスメイトの聖女様たちを性奴隷にして、学院最強の英雄へと成り上がる~

URL:https://novel18.syosetu.com/n1224ic/

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