第81話 下着をはかせてみませんか?


 玲衣さんと琴音はしばらく睨み合っていた。

 二人は姉妹で、そして、恋敵なのだという。


 しかも、二人の恋愛の対象は、俺なのだ。

 俺がうろたえていると、急に玲衣さんが俺の腕をとり、ぎゅっとしがみついた。


「れ、玲衣さん!?」


 玲衣さんは正面から俺の腕を抱きしめていて、つまり玲衣さんの胸が思い切り俺に当たっている。


「晴人くんは渡さないもの!」


 琴音はくすっと笑うと、玲衣さんと同じように俺の腕をとり、胸を俺の腕にくっつけた。

 まだ裸だから、胸の質感がダイレクトに伝わってくる。


「あの……玲衣さん……琴音……胸が……」


「「当ててるの」」


 二人の声が綺麗にはもった。

 さすが姉妹……というべきなんだろうか。


 玲衣さんがいたずらっぽく微笑む。


「わたしのほうが琴音より胸は大きいし……晴人くんは大きい方が好きだものね?」


「わ、私は成長途中なんです! 姉さんにいつかは勝つんですから!」


 俺の肩越しに二人が言い合う。

 どうしよう?


 これから三人でこの部屋で暮らさないといけないのに?

 しかもベッドは一つだ。


 幸いベッドは無駄に大きいので、三人で一つのベッドに寝ることも不可能ではないけれど。


 水琴さんと琴音はまだ言い合いを続けてた。


「わたしは晴人くんと一緒にお風呂に入ったこともあるし」


「それだったら、私だってさっき一緒にシャワーを浴びました!」


「でも、わたしと晴人くんは同じ浴槽で体を密着させて入ったこともあるの」


 愕然とした様子で琴音が俺を見つめる。

 たしかにそんなこともあったけれど、いつもやっていたわけじゃない。


 琴音がジト目で俺を睨む。


「いいんです……お屋敷に戻ったら、私もいろいろするんですから」


 いろいろってなんだろう? とは俺は聞けなかった。

 ともかく、屋敷に戻ることが重要だ。


 ここにいる限り、誘拐犯に自由を奪われているし、いつ命を落としてもおかしくない。


「琴音……とりあえず、服を着てくれる?」


「先輩が着せてくれるならいいですよ?」


「俺が?」


「はい。裸の私にブラジャーをつけて、ショーツをはかせて、そのうえにブラウスを羽織らせて……やってみたくありません?」


「俺にはできないよ」


 玲衣さんの見ている前だ。

 そんなこと、できるわけがない。


 けれど、琴音は俺から一歩身を引いた。

 白い肌が隠れるところなく見えてしまう。


 琴音は恥ずかしそうにうつむいていた。

 俺は慌てて目をそらす。


「私……先輩になら裸を見られたって平気です。それぐらい、先輩のことが本気で好きなんです」


「ありがとう……でも、服は着てほしい。そうじゃないと俺が冷静でいられないから」


「冷静でなんて、いないでほしいです。姉さんのいる前で、私を襲ってくれてもいいんですよ?」


 俺は赤面し、そして、首を横に振った。


「俺は何もしないよ」


 もう一度繰り返すと、琴音は上目遣いに俺を見つめ、そして、諦めたのか、バスタオルで体を拭き、下着を身に着けはじめた。

 でも……その姿もかえって扇情的で、琴音がピンク色のかわいらしい下着をつけている姿を思わず見てしまった。

 振り返ると、玲衣さんは顔を真赤にしていた。


「晴人くん……」


「ご、ごめん」


「ま、負けないんだから! わたしも……晴人くんにだったら何をされてもいいの……だから……」


 玲衣さんは俺にしなだれかかり、そして、急に俺の唇を奪った。

 俺はなされるままになっていて、玲衣さんの甘い香りにくらりとした。


「琴音に晴人くんを渡したりなんかしない……」


 玲衣さんは青い瞳を潤ませていた。

 気づくと、琴音が下着姿のまま俺に近づいてきてた。


「ずるいです……私にもキスしてください……」


 そして、琴音がそっと俺に身を寄せた。

 

 そのとき、部屋の扉が開いた。

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