第69話 お風呂で女神vs幼馴染

 俺は慌てて玲衣さんのほうを向いた。

 バスタオル一枚の夏帆と一緒に風呂場にいたら、誤解されて当然だ。


 しかも俺は夏帆の肩に手をかけて、今にも押し倒そうとしているように見えたと思う。


 ……実際に、理性が半分ぐらい飛びかけていたのだけれど、いちおう夏帆を説得して風呂場から出ていってもらうつもりだったのだ。


 けれど、俺がそう説明する前に、玲衣さんは顔をかぁぁぁっと真っ赤にした。

 そして、恥ずかしそうに目をそむける。


「晴人くん……その、えっと……」


 玲衣さんが何を言いたいかわかって、俺も赤面した。

 そう言えば、俺は素っ裸だった。


 夏帆がにやにやしながら言う。


「水琴さんって恥ずかしがり屋だよね?」


「そ、そういう佐々木さんは平気なの?」


「あたしは晴人の裸を見れたら嬉しいもん」


 夏帆はくすっと笑い、そして玲衣さんに近づいた。


「水琴さんが晴人と水族館デートをする代わりに、あたしは晴人と一緒にお風呂に入るって約束だったでしょ? なのに、どうして水琴さんは浴場に来てるの?」


 いつのまにか二人のあいだでそんな取引がされていたなんて知らなかった。

 玲衣さんはすねたように目を伏せた。


「晴人くんと佐々木さんが一緒にお風呂に入るのはいいって言ったけど、でも二人きりでいいなんて約束してないもの」


「水琴さん、その理屈はちょっと無理があるよ」


 あくまで夏帆は楽しそうに言った。


「そんなずるいことを言う子にはお仕置きをしないと」


「お仕置き?」


 不思議そうにした玲衣さんに、夏帆は手をかけた。

 そして、勢いよく玲衣さんのバスタオルを剥いだ。


 一瞬、玲衣さんは何が起こったのかわからないという顔で固まり、それから自分の身体を見つめた。

 俺も脳が焼けるような衝撃を受けた。


 今の玲衣さんは完全な裸だった。


「きゃ……きゃああああああ!」


 玲衣さんが悲鳴を上げる。

 ……甲高い悲鳴もけっこう可愛かった。


 玲衣さんは左手で胸の膨らみを覆い、右手で下腹部を押さえ、うずうまっていた。

 そして、涙目で俺を見つめる。


「うう……晴人くん、見た?」


「み……見てないよ」


「嘘つき。絶対見たでしょ?」


「ええと……その見てはしまったけれど、むしろ見れてよかったというか……」


 俺が思わず変なことを口走ると、夏帆につつかれた。

 振り向くと夏帆がじーっと俺のほうを見ている。


 そして、首をかしげる。


「あたしのも見たい?」


「……玲衣さんにタオルを返してあげてほしいな」


「ごまかすんだ? 恥ずかしがり屋の水琴さんと違って、あたしはいつでもオーケーだよ?」


 そう言って、夏帆は小さな手で自分のタオルの胸元を軽くつまみ上げた。

 夏帆の胸の膨らみが半ばまで見えて、かなり際どい感じになっている。


 俺がうろたえるのを見て、夏帆はくすくす笑った。


「タオルのない水琴さんは、恥ずかしくて晴人と一緒にお風呂に入れないよね? だから、あたしが晴人と二人きりってこと!」


「そんな無茶苦茶な……」


「昔みたいに身体の洗いっこする?」


「それは……」


 当然、夏帆の提案にうなずいたら、問題があると思うのだけれど、思考が上手く働かない。

 なんだか頭がくらくらしてきた。

 

 夏帆がぴょんと跳ねるように俺に近づこうとする。

 そのとき、玲衣さんが顔を赤くしたまま、しかし決然と立ち上がった。


 両手でいろいろと隠しているけれど、玲衣さんは完全な裸だった。

 なのに、こっちに近づいてくる!


「さ、佐々木さんの思い通りになんてさせないんだから!」


 玲衣さんは俺の正面に立った。

 俺も、夏帆すらもあっけにとられた。


 恥じらうように玲衣さんは青色の目を伏せていた。

 透き通るような白い肌は、身体中が赤くなっていて、火照っているようだった。


「えっと、あんまり見ないでほしいな」


「ご、ごめん……」


「わ、わたしも晴人くんの身体を洗ってあげる!」


「でも、その格好だと身動きできないんじゃ……」


 ずっと両手を使って身体を隠しているのに、どうやって俺の身体を洗うんだろう?

 疑問に思っていると、玲衣さんはとんでもない行動に出た。


 一歩踏み出して俺にさらに近寄り、そして正面から俺に抱きついたのだ。

 

「れ、玲衣さん……」


「こうすれば、晴人くんからは、わたしの恥ずかしい部分は見えないでしょ?」


「見えないけど……! 見えないからいいという問題じゃない気が……」


 玲衣さんの胸の柔らかさが直に俺に伝わってくる。

 前に一緒にお風呂に入ったときはいちおうバスタオル越しだった。


 でも、今回はお互い、裸なのだ。


 そして、玲衣さんはゆっくりと身体を上下させた。


 そうすると、玲衣さんの胸が俺の胸板にこすりつけられる格好になる。

 同時に玲衣さんから甘い香りが漂ってくる。


 俺はあまりの心地よさにおかしくなりそうだった。


「これで佐々木さんがわたしの胸にボディソープをかけてくれれば、洗えるでしょ?」


「そんなことしないよ!?」


 夏帆がびっくりした顔で言うが、玲衣さんはくすっと笑い返した。

 

「なら、わたしはずっとこのまま晴人くんにくっついてるけどいい?」


「そんなのダメだよ!」


「わたしは晴人くんの身体を洗ってあげたら、離れるけれど、どうする?」


 夏帆は悔しそうに唇をかみながら、玲衣さんの胸にポディソープを垂らした。

 けれど、夏帆はそこで止まらなかった。

 自分もバスタオルを脱ぐと、胸にポディソープをかけはじめた。


「ええと、夏帆。な、なにをするの?」


「水琴さんと同じことをするの!」


 そう言うと、夏帆は俺の背中に回った。

 そして、俺に胸のふくらみを押し付ける。


「か、夏帆……」


「背中を洗ってあげる」


 正面では、玲衣さんが頬を膨らませていた。

 そして、「佐々木さんがその気なら……」とつぶやき、両手で胸を寄せて、俺に押し付けた。

 二人の美少女の胸が俺を前後から挟み込んでいる。


 ボディソープで互いの身体はぬるぬるになっている。

 後ろからは夏帆の甘い息遣いがかかり、正面では玲衣さんがとろんとした熱っぽい目で俺を見つめている。


 俺が思わずびくっと動くと、俺の胸板と玲衣さんの胸がこすれ、「ひゃうん」と玲衣さんがあえぐような悲鳴を挙げた。

 

「ああっ、んんっ……!」


 玲衣さんが切なげに甘い声を上げる。

 そして、えへへと笑い、俺にささやきかける。


「どう、晴人くん?」

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