第49話 両隣の少女

 夏帆が俺たちの家に住むという。

 たしかにスペース的にはまだ余裕がある。


 けれど、問題はそこではない。


「晴人はあたしが一緒の家に住むのは嫌?」


「嫌ってわけじゃないけど」


 そんなこと、俺の父さんも、夏帆のお母さんも賛成するはずがない。

 けど、夏帆は続けて言った。


「あたし、家出するの」


「家出?」


「だから、晴人が泊めてくれないとすごく困っちゃう。晴人は居場所のない水琴さんを受け入れたんだよね。なら、あたしだって同じだよ」


「でも、夏帆には普通にお母さんがいて、家もあるはずだよ」


「あたしね、お母さんといま、一緒にいたくないの」


 そう言って夏帆は上目遣いに俺を見つめた。

 たぶんだけど、夏帆の母と俺の父の不倫疑惑が関係しているのだとは思う。


 夏帆のお母さんは、俺と夏帆の血縁関係についてどう言っているんだろう?

 気になったけれど、玲衣さんの前でそれを聞くのは、ちょっとためらってしまう。


 夏帆が人差し指を立てて、くすっと笑った。


「とりあえず一緒に学校に行こっ!」


 夏帆の提案に、隣の玲衣さんが不服そうな顔をする。


「晴人くんと一緒に学校に行くのは、わたしが先に約束したの」


「なら、三人一緒に行けばいいよね」


「わたしは二人きりで行きたい。だって、わたしは晴人くんの彼女だもの」


「水琴さんはあたしに晴人をとられるのが怖いんだ」


 夏帆がいたずらっぽく目を輝かせた。

 うっと言葉に詰まった玲衣さんに夏帆がたたみかける。


「水琴さんが本当に晴人の心をつかんでいるなら、あたしが学校についていくぐらい、平気なはずだよ。そんなことで、二人の仲は危なくなるの?」


「……そんなことない!」


「なら、いいよね?」


 水琴さんはしぶしぶといった感じでうなずいた。

 なんだか夏帆の変な理屈に丸め込まれてしまった形だ。


 俺と玲衣さんは学校への荷物を持って玄関の外を出た。

 それとほぼ同時に、夏帆が俺の左腕をとる。


「じゃ、行こっ、晴人!」


 夏帆が強引に俺と腕を組んだ。

 そうすると、なんというか、夏帆の柔らかい部分が自然にあたって、俺は赤面した。


 玲衣さんも頬を染めている。


「ずっ、ずるい! わたしも晴人くんと腕を組むんだから!」


 玲衣さんはさっと俺の右腕をとると、同じように俺に胸を押し当てた。

 二人の少女が左右にいて、その甘い香りに俺はくらくらさせられた。


 もしかして、このまま学校に行くんだろうか?


 夏帆は楽しげに、水琴さんは頬を膨らませながら、俺を見つめていた。


「両手に花だね! 晴人!」


 夏帆は綺麗な声で、からかうように言った。

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