第2話 氷の女神は一人ぼっち

 高校に入学して八ヶ月も経てば、だんだん周りのクラスメイトの性格もわかってくる。

 

 人気者もいれば、嫌われ者もいる。騒がしいやつもいれば、物静かなやつもいる。

 勉強が得意で周りに頼りにされたり、野球部で一年からエースになったりして大活躍しているやつもいる。


 じゃあ、俺はどうか。


 なにもない。

 言ってしまえば、俺は無色透明な存在だ。


 目立つほどのことを何もしていない。

 これといった特技も披露できない。


 特に人気者というほどではないけれど、クラスに友人はそこそこいるし、平均的な人付き合いをしていると思う。


 十二月の昼休み、俺は寒さに震えながら、そんなことを考えた。

 今日は特に寒い。


 部屋に二台設置されているストーブは、それぞれ派手な女子たちが周りを取り囲んで占拠している。

 俺はまったくストーブの恩恵に預かれていなかった。


 そんななか、ストーブから遠く離れた教室の片隅で、まったく動じずに本を読んでいる少女がいた。


 俺はちらりとその女子生徒を見た。


 水琴玲衣みこと れい

 それが彼女の名前だ。


 けれど、水琴さんには、もう一つ、有名なあだ名がある。

 水琴玲衣の通称は「氷の女神」だ。


 水琴さんが「女神」と呼ばれているのには二つの理由があった。


 第一に、端的に言えば、水琴玲衣は完全無欠の美少女である。


 水琴さんのストレートのロングヘアは美しい銀色に輝いている。

 ハーフだという彼女は、西洋人形のような愛らしい顔立ちをしていてけれど、青色に輝く瞳が少し冷たい印象を与えた。

 

 水琴さんを学校一の美少女として推す声も多い。

 おまけにかなりの進学校であるうちの高校でも、トップクラスの成績を誇っている。

 

 それ以外の面でも、欠点らしい欠点が見つけられないのだ。


 だから、多くの男子と一部の女子が、尊敬と憧れの念をこめて水琴さんを「氷の女神」と呼んでいる。


 水琴さんが女神と呼ばれるもう一つの理由は、近寄りがたく、冷たい印象があるということだった。


 休み時間はいつも本を読んでいるし、話しかければ返事が返ってくるけれど、どこか素っ気ない。


 目立った友人もいないし、人を避けているみたいな感じだ。

 俺を含め、クラスメイトたちはみんな気後れしてしまって、水琴さんとあまり話したことはなかった。


 そうした近寄りがたさのせいで、みんなが水琴さんを敬して遠ざけている。

 だから、まるで冷たい態度の神様だということで、少なくない女子生徒が皮肉っぽく「氷の女神」と水琴さんを呼んでいる。


 どちらにしても、俺にとって、水琴さんが遠い存在であることに変わりはなかった。


「ね、晴人? なに見てるの?」


 明るく綺麗な声がして、俺は後ろを振り返った。


 クラスメイトである佐々木夏帆が、俺の後ろの机の上に座っていた。

 夏帆はセーラー服のスカートから白い足をのぞかせて、ぶらぶらさせている。


 くすりと夏帆が微笑むと、短い綺麗な髪がふわりと揺れた。


 夏帆は俺の幼馴染で、そして、半年前に俺を振った相手だ。

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