第3話せっかくの気晴らしだったのに。

 日曜に店に行かなくてはならないと決まったその日の夜。

 僕は趣味の登山を行う為いつもより早く就寝についた・・・んだけどもなかなか寝付けず何度も寝返りをうってはため息、うってはため息と結局まともに眠る事が出来ずにいた。

 時刻は深夜1時20分。

「あーもうやってられん!もう行くぞ!」

 と自分に言い聞かせる様にして支度を整え、車を走らせた。

 行き先は奥日光の湯元温泉。

 湯元温泉の駐車場に停めてから日光白根山を登る予定。

 僕の住む茨城県の県南地域から目的地まで下道で3時間程。

 高速使っても30分程度しか変わらないので深夜の時間ならいつも下道を使っている。

 他の人からすれば「えー3時間も運転するの大変じゃない?」なんてよく言われるけど、それ以上長い時間走る事なんて当たり前だったし、栃木や群馬方面は何度も走らせてるので慣れてしまってそんなに長いとは思わないのだ。

 深夜の道を車で走らせるのは気持ちが良い。

 交通量が少なく、信号以外で止まる事も少なく、ほかにも日の出が近くなると空の色が徐々に茜色に変わっていく様を感じながらのドライブはなんとも言えない爽快感がある。

 その日も気持ちよく走らせて、日光の手前まで休む事なく走る事ができ、4時前になり日光の手前でコンビニに入り朝飯としておにぎりを食べるまではいつも通りだった。

 異常を感じ始めたのはいろは坂を走っている時。

 知っている人は多いだろうが、日光の中禅寺湖へ使う途中にあるいろは坂はヘアピンカーブの連続で体は左右に揺らされ、酔いやすい人はたちまち車酔い間違いなしになる程中々に大変な坂なのである。

 そのいろは坂を半分程進んでる時「気持ち悪い・・・」

 まさか運転している自分がそうなるとは予想できなかった。

 以前にも登山を終えてから峠の道を走って車酔いした事はあったけど、登山前に酔ったことは初めてだった。

 なんとか我慢しながらいろは坂を越えて、中禅寺湖まで着くとすぐに車を停めて、自販機でコーラを買って冷たい空気を吸い、飲み物を飲む。

 少しは治まったものの、それから仮眠をとっても一日中ムカムカの波に苦しめられることになる。

 1時間ほどの仮眠を取って、戦場ヶ原を抜けて湯元温泉の駐車場に着いた時10月半ばでも朝5時の外気温はマイナス5度。

 その冷たい外気を吸い込んで、雲の無いお陰で太陽の光が周囲の山を照らして赤くなる「モルゲンロート」を眺めてた時までは僕はムカムカを忘れる事が出来た。

 しかし登り始めてみるとこのムカムカは思いの外体力を奪い、またコースが思いの外斜度が高く、新調した冬用の登山靴が合わない事でかなりバテてしまっていた。

 日光白根山へ登る途中の前白根山という山まできた僕は雪が積もっている白根山を見て、「登りはできても、下りで岩を落とすか、自分が滑落するかもしれない」と判断した上で撤退となった。

 別段その時は山の空気を吸って、雪化粧した白根山を眺めた事で満足はできていた。

 下山でもムカムカに苦しみながらも怪我をする事なく降りる事が出来、湯元温泉では日帰り入浴をしてリラックスも出来ていた。

 ただ、この時から胃の不調で僕を今でも苦しめる事になる。

 せっかくの気晴らしのつもりだったのにまた新たな悩みの種が出来てしまったのだった。

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