32─式典─
式典が始まる。華やかな音楽と共に名前が呼ばれルベリオンは緊張したまま扉を開け謁見の間に入る。沢山の人と高い所にある玉座に国王陛下。
ゆっくりと歩き階段より少し離れたところで片膝をつき頭をたれる。隣にいないオーギュストが心配だった。
「騎士、オーギュスト!」
高らかにオーギュストの名が呼ばれる。そして扉が開く音がするとざわめきが謁見の間に広がる。陛下の手前顔を上げるわけにはいかないルベリオンは何が何だか分からない。
「静まれ!」
陛下の声が聞こえ、再び静まり返った謁見の間の赤いカーペットの上を歩く音がする。
そして音が止まり隣で同じように片膝をついたことで少し隣を見るとオーギュストが鎧を着ていなかった。
唖然と思わず自分より高い位置の顔を見上げてしまう。キュラスから帰ってきてまるでオーギュストはびっくり箱か何かのようだ。
美しい金の髪が光に煌めく。伏せられた瞼に美しい顔立ち。そしてその顔立ちは───。
(あぁ、そういうことだったのか)
ルベリオンはオーギュストの気持ちを思うと泣きたくなった。そしてアレクシラと結ばれるであろう未来を本心から祝福した。
(良かった、良かったなぁオーギュスト。)
「これよりキュラス探索、並びに、キュラス解決の表彰を行う」
厳しめの声を出す宰相の声は少し震えていた。ルベリオンはその気持ちが痛いほどわかる。周りもわかるからこそ口にしない。
「キュラスの解決、ドラゴンの発見討伐…大儀であった! 今この時を持って二人にドラゴンスレイヤーの称号とルベリオン・メードゥには子爵位とクレイジャスの名を与える! そして! オーギュスト・モルワ」
「いや、エイデン・ジルオール! 良く無事で帰った! エイデン、お前には王太子の任を与え、我が娘アレクシラとの婚約を認める!」
「「謹んでお受けいたします」」
謁見の間にわぁっと歓声が響く。当然だろう。ジルオールは王族の名、そしてエイデンの名は───死んだとされていた前王ウィリアムの第一皇子のもの。
そしてオーギュスト…エイデンの顔は前王ウィリアムの生き写しだった。
誰も、彼がエイデンであることを否定できるものはおらず、再び帰ってきた王子に口々に祝いの言葉が送られる。
「皆の喜びは分かる、私自身兄の忘れ形見を息子として迎えられることとても喜ばしいと思っているでな、だが静まるが良い」
陛下が階段をおり、それぞれにドラゴンの勲章を送る。それを恭しく受け取りまた深く礼をして…たくさんの拍手とともに式典が終わった。
式典が終わり貴族達が出ていった後ルベリオンは陛下に呼び止められた。何かと思い礼をしながら足を止めると陛下は優しい笑みを浮かべ一人の女性を連れてくる。────それはルベリオンが心から愛した女性。
「あね、うえ」
小麦色の長く緩やかな髪に優しげな笑み、そして綺麗な紺の瞳。守ろうとして傷付けてしまったミルシェが陛下の隣に立っていた。
「彼女は夫に若くして離縁されてしまってな、可哀想なことに嫁の貰い手がないのだ、いきなりでなんだが彼女を娶ってくれる気は無いかね」
「っええ!もちろん!」
涙で前が見えない。
どう言葉を紡げばいいかももう分からない。ただただ嬉しくて。涙が止まらない。
そんなルベリオンを同じく涙を流しながらミルシェが、抱きしめた。
「ごめんなさい、ごめんなさいね、ルベリオン」
「良かった、良かったぁっ」
無事でよかった。また会えてよかった。────また共にいれる。
もう。会えないのだと。そうおもっていたのに。
陛下に感謝を告げれば「こちらから頼んだというのに変なことを」ととぼけられる。本当にどこまでも優しい方だ。エイデンの件といい心底そう思い笑った。
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