31─オーギュスト─
オーギュストが鎧を着たまま身支度を一人で行い、終えた所でノックがされる。その後に返事をする前に扉が開くとオーギュストの恋人のアレクシラが中に入ってくる。
「オーギュスト、無事でよかった…」
「アレクシラ、一体何しに…」
「そんなの労いに来たに決まってるじゃない? 私に黙って行ったこと許してはいませんけどね」
少し怒ったように眉間にシワを寄せて見せるアレクシラにオーギュストは本当に帰ってこれたんだなと肩から力を抜いた。
それをアレクシラは可笑しそうに見てからオーギュストの向かいに座る。
「オーギュスト、式典の前にお父様がお話したいそうよ」
「…俺も話さねばと思っていた」
「そうなの? てっきりオーギュストはお父様のこと嫌いなのだと思っていたけど」
「そんなはずないだろう、君の父親だぞ」
そう?と笑ってアレクシラはなんでもないようにオーギュストが口をつけていたカップを勝手に取り紅茶を飲む。
王女らしからぬはしたない行動にため息を吐くオーギュストをアレクシラはまた心底嬉しそうに笑う。
「それだけ伝えに来たの、じゃあ式典で会いましょう」
「…ああ」
それぐらいなら人に頼めばいい物をと思うオーギュストだったが、内心嬉しかったのもあり複雑だった。
陛下の元へ行こうとアレクシラ出ていった後にしばらく経ってから立ち上がると再びノックがあった。またアレクシラかと扉を開けるとそこに居たのは久々に見るルベリオンだった。
「…お前の恋人って王女だったんだな」
「…容姿は知ってただろ」
「だとしても!言えよ!口に出して!恋人王女でその父親は国王だったーってな!」
「ふん、それで何の用だ文句だけか?」
ルベリオンはそう聞かれるとあーうーとなにやら唸り始める。
そして意を決したように口を開く。
「お前、まだ僕に言ってないことあるだろう?」
「なんだ、藪から棒に」
「フィオナの言葉だよ、生まれを恥じるなって、それにその珍しい名前と鎧…言う気はねぇの?」
「…いずれ分かる、なんにせよもう恥ちゃいないさ」
吹っ切れた様子のオーギュストにルベリオンはそうかと笑って手を振り立ち去る。
それを見送りオーギュストは今度こそ国王の執務室へと向かった。
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───
ノックをし、返事を貰ってから中に入ると国王はソファーへ促す。オーギュストはそれに大人しく従い腰掛けた。それを国王は嬉しそうに見届けその向かいに自らも腰掛ける。
「いきなりだが話というのは…やはり、君の本来の名前と素性を明かしてはくれないかということだ」
「私もその話をしようと思っておりました」
「すまないな、だが王女の婚約者の顔を誰も知らない、キュラス解決の報酬として王女との結婚は大きすぎると会議で揉めてしまってな」
王女と結婚させたい貴族たちを黙らせることが出来なければならないのだと国王は申し訳なさそうに告げる。
「もう、頃合だと思うんです」
「オーギュスト…」
「父上との約束を何一つ守れない親不孝者でしょうが、今生きているのは私ですから」
国王もオーギュストの顔を見て素性がわかってしまうほど、オーギュストの顔は父親と似ていた。
「やれることはやりました、アレクシラ王女もきっと許してくれると思いますし」
「…そうか、うむ、そうか!」
嬉しそうに国王が笑う。その表情はアレクシラとよく似ていて親子だなと感じる。
オーギュストもまた父親と似ているのは仕方ないのだろう親子なのだから。
そしていつまでも顔を隠し続けることは出来ないのだと父も分かっていたはずだ。
だからこそ、許してくれる気がした。
「改めて…よく帰ったオーギュスト」
「…はい」
「アレクシラとの結婚式楽しみにしている」
嬉しそうな顔を本当にする。その様子からこの人が父を殺そうとしたのではないとわかる。父は犯人について口にしなかったが、犯人探しは無駄だ。
もし手だしをしてくるなら剣を抜き立ち向かう。そうする方がオーギュストらしい。
偽り、隠すのは自分らしくないなとつくづく思いながらオーギュストはゆっくりと噛み締める。
再び支度をしに部屋に戻り、式典の時間がやってきた。
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