30─残った者─


 

 フィオナとキールが光となり消えた。白銀の世界は嘘であったのではと思うほどに一切残っておらず、空の雲も消え、青空が広がって、木々が風に揺れ葉を躍らせる。

 

 残された木の精霊、氷の精霊キュラス、赤い鳥が青年に姿を変えたヘレネス。

 そしてオーギュストとルベリオン。

 

 「終わった、ね」

 「…ああ」

 

 呆然と全員二人と白が消えた空を見上げている。泣きじゃくるキュラスの声だけが静かな空間に広がっていた。

 

 「キュラス、いつまで泣いている気なんだ?」

 「フィオナー!」

 「たかが、人間に入れ込むからそうなるんだ!」

 「ふぃおなぁぁあ」

 「ああ、もう!」

 

 ヘレネスがキュラスを抱き上げる。泣き続けるキュラスをそのままについでにと木の精霊を肩に乗せるとそれを見ていた二人に目を向ける。

 

 「行くぞ、王がお前たちを待っている」

 

 「…ああ」

 「…うん」

 

 オーギュストが魔力供給を切ると、鎧から炎の文様が消え、いつも通りの銀の鎧になる。

 

 ルベリオンはもう一度空を見上げてから歩き始めていた彼らを追いかけた。

 

 

 ────────

 二人がキュラス探索に乗り出してからいつの間にか五日も経っていたらしい。もう死んだのではないかとまで噂されていた彼らが王宮に戻ると一気にその喜びが王国全土に広がった。

 

 キュラスにのみこまれ行方不明となっていた者が一人も死なず見つかったのだからその喜びも理解できるだろう。しかもキュラスにはドラゴンが住んでおり、そのドラゴンを殺したのだ、ドラゴンスレイヤーとして二人は英雄と褒め讃えられた。

 

 あれよあれよと二人は式典に招待され、そこで表彰されるのだと言う。

 

 「まさかの英雄扱いにびっくりなんだけど」

 

 締めたネクタイを緩めながらため息をこぼし一人ルベリオンは王宮の廊下を歩いていた。久々の寒くない土地はいっそ暑く感じるのだから相当なものだろう。

 

 同じく準備しているであろうオーギュストの元へ足を運ぶために歩いているルベリオンの前に空色の髪に琥珀の瞳の美しさの塊のような王女はルベリオンの目的の部屋と同じ部屋に入った。

 

 

 「王女様がオーギュストになんの…」

 

 そこでルベリオンは一つ思い出した。あの雪の夜にオーギュストと語った事。その後のことが大変すぎて頭から飛んでいっていたこと。

 

 

 オーギュストの恋人が青い髪に琥珀の瞳だと、父親にバレてしまってその恋人を娶るためにキュラスに来たと。

 

 あの時は上位貴族のお嬢様と恋仲だったのだと憐れみすらしていたが…まさか。

 

 「まさかの聖女は本当に聖女だったとかなんの冗談…!?」

 

 アレクシラ第一王女、唯一の王位継承者にして親しまれた呼び名は──聖女。

 

 

 

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