29─終わりの時─


 

 「君達も、ありがとう」

 キールがオーギュストとルベリオンに目を向ける。もう終わりが近づいているからそんな動作すらゆっくりで。

 

 涙が止まらない私と笑みを浮かべるキールは変だったろうけど、二人はただ頷くだけだった。

 

 「二人も巻き込んでごめんなさい…」

 「気にしないでよ! 僕らは僕らの事情があってここに来たんだ!僕の家族だって無事なんだ…」

 

 だからいいんだよ、とルベリオンは泣きそうになりながら笑ってくれる。優しい子だ。私達と似た子。

 

 「ルベリオン、貴方に魔力はいつでも優しかったでしょう?」

 「っ」

 「その才はなかった方が良かったかもしれない…でも出来るなら受け入れてあげて、それはずっと貴方をあんじてる」

 

 辛かったことでしょう。私達もそうだったように。孤立もしたでしょう。憎しみも恨みもしたでしょう。

 

 それでも。

 「その才を持つのがあなたでよかった」

 

 ルベリオンは泣いてくれる。会ったばかりの私達のために。それが嬉しくて。私ももっと泣いてしまう。

 

 「オーギュスト、貴方はとても正義感の溢れる素敵な剣を振るうわね、その鎧を持つのに相応しいわ」

 「…この鎧の事を知っているのか?」

 「ええ、だってその鎧には精霊が宿っているもの、大切にしてあげて…長い時王達を守り続けていた子だから」

 

 美しい炎の文様。それを見るだけでどれだけこの鎧がオーギュストのことを大切に思っているか分かる。

 

 「剣を振り続けて、とても良い剣を振るんだから」

 「…」

 「自分の生まれを恥じないで貴方はとても素敵なんだから」

 

 ドラゴンにも臆することないあなただから生きていられた。

 

 そんなあなたの剣だからドラゴンの首を切れた。

 

 「それから…ヘレネスも降りてきなさい」

 

 赤い鳥が私の前に降り立つ。そしてそれは段々と人の形をとる。美しい赤い髪に赤い瞳の綺麗な顔をした男。

 

 「まだ、賢者を名乗っているのね」

 「…そう名付けたのは人間だ」

 「そうだとしても、あなたがこの二人を呼んだのでしょ 」

 「もう終わりが近いのは分かっていたからな」

 

 仏頂面に少しでも悲しみと申し訳なさを見つけてそれが可笑しくて笑う。

 

 「キュラスの事…よろしくね」

 「言われなくても分かっている」

 

 沢山語りたいこともあった。沢山言いたいこともあった。したいこともあったけれど。

 

 

 「フィオナ、もう 」

 「うん、そうねキール」

 

 幸せだったのだろう。色んなことがあった。隣のドラゴンの頭を優しく撫でて。

 

 ゆっくりと目を閉じる。

 

 キュラスが泣いている。いかないでと。私のことを思って泣いてくれている。

 

 

 貴女の事を大切に出来なかった私なのに。貴女の事をさんざん傷つけ続けたのに。

 

 とても優しくて大好きな子。

 

 「もう、いかなくちゃ」

 

 私からキュラスがでていく。ありがとう、大好きよ。とてもとても大好きよ。

 

 久しぶりに見たキュラスは私と同じくらい大きくなっていて。私にずっと謝り続けていた。

 

 「フィオナぁ、やだよ!やだぁ!」

 

 泣きじゃくるキュラスの頭を優しく撫でるけど、その力すらなくて、私からキュラスが出てったことにより一気に白が消えていく。

 

 泡のように消えていく白。まるで魔法がとけたように空にそれらはチラホラと浮かんでいって。

 

 いつの間にかキールのそばには小さな木の精霊がいる。労わるようにキールを見上げてキールもそんな彼の頭に優しくてを置いて撫でてやっている。

 

 

 そんなキールの指先も光となり消え始めていた。

 

 「キールも消えちゃうのね」

 「うん、僕も魔力で君に手を貸していたからもう中は空っぽなんだ…まだとどまっていたのは神様の温情だろうね」

 「そっか、じゃあずっと一緒にいれる」

 「うん、ずっと一緒だ」

 

 膝を貸したまま額を触れ合わせる。

 愛しい人。大切な人。共に逝こう神の元へ。

 

 

 幸せだった貴方と共にできて──────。

 

 

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