28─ドラゴンと少女─
出会った時。気付いてしまった。分かってしまった。歌がまだ聞こえていたから、私を愛おしげに見つめるドラゴンの目が合ったから。
「私がドラゴンの魂の番だったから、この悲劇は起きた。二人の仲間が死に、最愛の人は瀕死で…そんな目に遭わせたドラゴンは私を大切そうに扱う」
憎いの。殺したいの。許せないの。なのに私の魂は喜んでいて。
耳を塞いだ。歌なんて聞きたくなかった。叫び続けた。ドラゴンを愛したくなかった。
愛す訳にはいかなかった。
ドラゴンも氷漬けにした。もう二度と誰も傷つけれないように。もう何も起こってしまわないように。
精霊化した私の力は暴走していく。力が漏れ、吹雪がやまず、延々と白が続く。
私は一人だった。友の墓を掘り、友達を埋葬し、白の中で一人生き続けた。
「初めはまだ記憶もあって、意識もあった。でも月日が経つにつれ私から色が消えていった。」
私の中のキュラスが、悲しんでいた。私の体は既に死んでしまっているのだと。
「当たり前の日々があるはずだった、普通の幸せが続くはずだった。恋人の帰りを待ち家事をして…そうして素敵な家庭をって」
恋人は死にかけ、氷漬け。こうなった理由はドラゴンの番だった自分のせい。
呪い続けた。恨み続けた。憎しみ続けた。
気がつけば途方もない時が流れていた。
私の願いを感じとったキュラスが私の代わりに体を動かしあるはずだった日常を繰り返した。
あの日の私の行動をただ延々と。
「…でももう終わったの、二人のおかげで」
ぎゅっとドラゴンの頭を抱きしめる手に力を込める。キールの元へ辿り着いた。
あの時のままのキール。あの時のままの閉じ込めてしまった愛しい人。私のキール。
雪は既にやんでいたけど、まだ消えていなかった雪に膝を着く。そして隣にドラゴンの首を置くとキールの眠る氷に額を当てた。
「ごめんなさい…キール…共にいこうね」
ガラスが割れるような音を立てて氷が割れる。そして眠り続けたキールが目を開けた。
死ぬことは変わらない。もうたすかることも無い。そんなのはキールも私も知っていた。
「フィオナ…」
キールの頭を太ももに乗せる。ゆっくりとキールの柔らかな茶色い髪を撫でる。
数十年ぶりに聞いたキールの声は心地よく悲しい。
「キール、ごめんなさい…沢山待たせたわ」
「いいんだよ、そんなこと……待つのは好きだからね…」
もっと沢山話したかった。もっと沢山の時間を過ごしたかった。キールと家庭を作り上げ、子供も産みたかった。
キールとそっくりな子が欲しかった。髪だけは私と同じオレンジの髪で、目とかおっとりしたところはキールに似てて。
そんな子が欲しかった。
そんな家庭にしたかった。
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