26─美しい歌─


 

 美しい歌が聞こえた。それは何度も何度も呼びかけるように延々と聞こえ続ける。

 

 どこにいても聞こえた。何をしていても聞こえた。聞こえないように耳を塞いでも。

 

 懐かしいのに、思い出せない。歌詞は?どんな曲調で、誰が歌っているの。聞いたことも無いような音なのにどうして懐かしいの?

 

 

 ────応えなくてはいけなかったのだと。このドラゴンと出会った時に少しでも思った事が気持ち悪くて、キールを奪ったこいつが憎かった。

 

 美しい歌は求愛の歌。魂で繋がれた番を探すドラゴンの歌。

 

 「──絶対に許せなかったどうやっても」

 私の事もこいつのことも。

 

 キールはこいつに殺された。

 

 私のキールをこいつは殺した。

 けれど…探していた番はきっと私だったのだと思う。それほどまでにドラゴンの歌は悲しいほどに愛おしく、懐かしい。

 

 絶対にキールを殺したこいつを選ぶつもりはなかった。選ぶことなんて出来なかった。

 

 

 それでもキールに出会う前だったならきっとそれに答える未来もあったのだろう。

 

 斬られたドラゴンの首にゆっくりと触れる。もうあの歌は聞こえない。もう美しいあの歌は聞こえない。それがどれだけ悲しく嬉しいことか。

 

 「ありがとうございます、ルベリオンそして陛下」

 顔を上げて深く礼をすれば、ルベリオンは驚き隣に立っていた鎧の人を見る。知らなかったのだろうか?それともまた長い時の流れで変わったのか。 

 

 

 「何故俺が陛下だと…?」

 「その銀の鎧に炎の紋様…陛下が身に付けていた物です、長い時が流れたとしてもその防具に紋様を浮かばせるのは炎の魔力を持つ者だけ…違うのですか?」

 「……違う」

 「…まぁ長い時が流れました、そういうこともあるのかもしれません、王は変わるものですから」

 

 ドラゴンの首を抱き上げる。大きなそれは持ち上げるのに苦労しそうだけど、もう私の体は人からかけ離れている。だからこそ難なく持ち上げられた。

 

 

 「私はフィオナ、あなたの名は?」

 「オーギュスト」

 「……古の皇帝の名前ね、勇ましく気高い名だわ、改めてルベリオン、オーギュスト…ありがとうこいつを殺してくれて」

 

 長い時が流れた。きっともう私を覚えている人はいないだろう。私達ももういかなければならない。

 

 

 「キールの元へ行きたいの、その道すがらでよければお話するわ」

 「…わかった」

 

 

 

 

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