25─折れぬ剣と挫けぬ精神─
剣は敵を斬るための手段だ。敵の理想も意思も希望も命もすべて斬る。それに
彼は騎士なのだから。
「ルベリオン! 奴の邪魔な喉は潰せないのか! 視界が悪くてかなわん!」
「あのねぇ! 炎を消してるだけ有難く思ってよ! 詠唱間に合わせるの大変なんだからな!」
「ふん! お前は俺より聡いのだろ! 魔術の天才!」
「さては、あの洞窟に置いてったこと根に持ってんな!? くっそ!やればいいんだろ!やれば!僕は天才だからねっ」
オーギュストが剣でドラゴンを押さえつける間、ルベリオンは詠唱を始めた。
その長く早口の詠唱はルベリオン以外の耳には届かなかったが、掲げた手に不思議な光が集まっていく。
「オーギュスト!」
「分かった!」
ルベリオンがオーギュストに声をかけるとずっとドラゴンの攻撃を弾き続けていた彼が大きく前に踏み出した。魔力を吸っている鎧の模様が先程よりも一層色濃くなり、ドラゴンの振り下ろされた前足を思い切り弾きあげた。
ドラゴンの巨体がその威力で仰け反る、口が大きく開き炎を吐き出そうとした瞬間をルベリオンは見逃す事無く、笑みすらうかべていた。
「風よ
ルベリオンの手の平に留まっていた魔力の塊は風魔術を受け、とてつもない速さで飛んでいき、吐き出す寸前の口の中へ入っていく。
「「入った!!」」
二人が思わず上げた声はピッタリと揃っていて、異物を喉に放り込まれたドラゴンは堪らず口を閉じる。
そして、魔術はドラゴンに牙をむく。
「今のはなに?」
ずっと見守っていたフィオナが問えば、ルベリオンは少し誇らしげに笑って見せた。
「台風を作ってみた」
「…え?」
「台風をちっちゃく圧縮したんだよ、それを炎をはこうとした口に放り込んだ、もう、炎は出る寸前だったからね台風は炎を巻き込み喉で暴れているはずだよ」
もうこれでドラゴンは炎を吐くことが出来ない。そうと分かるともうオーギュストの独壇場だった。
オーギュストは最年少で騎士となった。それから今まで剣を持って負けた事はただ一度もない。
足場は白が消えきり力を入れられる。視界を悪くする炎はもう吐けず。ドラゴンの力の入れ方ももう十分彼の頭にインプットされている。
ドラゴンは初めて恐怖した。
たかが、人間二人に。
たかが、白に耐えることすら出来ない彼等に。
ドラゴンは剣を振られる瞬間に目を彼女に向けた。ずっと呼んでいた。ずっと語り掛けていた。
ずっとずっと歌っていた。
彼女の事を。
それが例え届くことがなくとも。
首が切られるその瞬間まで、番を求めたドラゴンは彼女に目を向け続けた。
それをフィオナは目を伏せることで拒絶する。
長い時の終わりがやっと訪れた。
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