08 ENDmarker2. あの日の屋上

 コンビニを出て。


 走った。


 いつもの。数年前、子供を連れていつも行っていた。あの屋上へ。


 屋上。


 いつも通りの、子供の量。


 ベンチも。空いている。


 炭酸飲料を買って。


 数年前のように。ベンチに座った。炭酸飲料。少しだけ、飲む。しゅわっとする。


 やがて。子供がみかん箱ステージのところに集まって。


 ステージが始まる。


 隣に。


 気配。


 そう。はじめて会ったときと同じ。


 手が伸びてきて。奪われて。


 炭酸飲料を、一気飲みする気配。


 そして。


 みかん箱ステージのところに、走っていく。


 彼女。


「どうもお。歌のおねえさんですよおっごほっ。ごほっごほっ」


 炭酸がおそってきているらしい。


 むせる彼女の音が。子供とご両親の金切り声でかき消される。


 彼女。


 こちらと、目が合って。


 ウインク。


 そして。


 歌いはじめた。


「そうか」


 彼女は。夢を叶えたのか。


 この数年で。


「よかった。よかったなあ」


 心から。


 そう思った。


 立ち上がる。


「さて」


 ここから去ろう。


 この場所に。もう、自分の居場所はない。


 あの日の屋上は。もう存在しない。


 彼女の夢が。叶ってよかった。


 それだけを、思いながら。屋上を出た。


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