06 ENDmarker.

 あれから。


 うちの子供の記憶は、消えていた。


 自分の子供の話をしても、誰も覚えていない。監視カメラの映像も気になって調べてみたが、誰も映っていなかった。カメラ担当の正義の味方も、何も見ていないと言う。


 子供を連れず。


 いつもの屋上に、向かう。


 子供がたくさんいる。


 駆け回るうちの子供を、目で探す自分がいる。


 うちの子供は。


 もういない。


 彼女も。


 いなかった。


 記憶がなくなったのか、確認することもできなかった。


 ただ、自分ひとり。場違いな屋上に、残される。


 炭酸飲料。買いはしたが、飲まずに脇に置いてある。彼女が、ひょこっと現れて。飲むのかもしれないと、期待していたけど。誰も来ない。


 そして、みかん箱ステージのところにみんなが集まって。


 ステージが始まる。


「すべて。夢か」


 子供も。彼女のことさえも。


 それは、それでよかった。


 失恋に似た、ちょっとだけちくちくする、気分。


 立ち上がって。


 柵に寄りかかってみる。


 筋肉があるので、背中がちくちくすることは、なかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る