02 (15)

 週末になると。


 また、いつものように、子供を連れてデパートの屋上に。


 いつもは駆け回る子供が。


 今日は、自分の脇で何かを探している。


「どした?」


「いねえ」


 誰かを探しているらしい。


「誰を探してんだ?」


「あたしのままだよ。まま」


「ママがおるのか。早く言えよ」


「いやちがうよ。わたしのみらいのまま」


 未来のママ。どういう意味なのか。


「あっ」


 先週、俺の炭酸飲料をがぶ飲みしたスーパーの店員。こちらに走ってくる。


「休憩時間とりましたっ」


「ままっ」


 うちの子供。彼女に走り寄って、抱きついている。


「ママか」


 何か、勘違いしているらしい。


「じゃあ、なかよくね?」


 それだけ言って、うちの子供はいつものように駆け回りはじめた。


 いつものように、炭酸飲料を買って。ベンチに座る。


 そして彼女も、隣に座ってきた。


「なんでいつも、隣に座るんですか」


 その一言だけで、目に見えて表情の落ち込みがわかった。


「どうぞどうぞ。お座りください」


 明るい表情にもどって。隣に座ってくる。いい気なものだな。


「炭酸飲料はあげませんので。ご自分でお買い求めください」


 と言い終わる前に。


 奪われた。


 蓋も開けてないのに。


 しかたなく。立ち上がって、新しい炭酸飲料を買おうとして。ちょっとだけ表情を確認する。複雑な、表現しがたい表情。


 しかたないので、買うのはやめて、ベンチに座りなおす。彼女の表情。もとの明るさに戻る。


「わかんねえなあ」


「なにがです?」


 炭酸飲料をちびちび飲みながら、話しかけてくる。


「いえ。なんでもないです」


 うちの子供。柵によじ登ろうとした他の子供を、その両親と思わしき大人のかたと協力して引きずり降ろしている。ねずみ返しみたいなのが付いているので、柵を子供が登りきることはまずない。それでも、引きずり降ろすに越したことはなかった。なるべく安全なほうがいい。


「はい。どうぞ?」


 彼女。さっきまで飲んでいた自分の炭酸飲料を、返してくる。


「どうも」


 買ったのは、俺なんだけどな。


 手渡されたのを、とりあえず受け取っておいた。飲まずに、持っておく。


「あの」


「はい」


「お飲みに、ならないのですか?」


 なんで飲まなきゃいけないんだよ。


 だんだんと。彼女の表情が。曇ってくる。


 ステージの始まる時間になって。うちの子供が、他の子供を先導してみかん箱ステージのところに集めていく。


 飲まなきゃいけないのかなあ。


 彼女の表情。しおれていく。


 しかたないので。


 口をつけずに、うまく飲んだ。


 炭酸も、なんとか抑え込む。


「えっ。すごいすごい。どうやるんですかそれ」


 彼女。びっくりしている。


 驚くのか。


 あなたが飲むから、こうやって飲むしかないというのに。

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