こうへいくんが主人公の話
架橋 椋香
颯爽と走るこうへいくん
こうへいくんは激怒した。小学五年生のこうへいくんは叫んだ。
「これは不公平だ!!」
皆が嗤った。若い担任の先生も、抑えようとしていながら嗤っていた。こうへいくんはそれが嫌だった。こうへいくんには政治がわからぬ。しかし、これだけはわかった。自分が公平、不公平に関して論ずると皆が嗤うのだ。こうへいくん辛かった。
ある日、負けないこうへいくん言い方を変えた。
「これはアンフェアだ!!」
しかし、これでもだめだった。皆嗤った。むしろ、不公平だと言っていたときより嗤った。こうへいくんまぢ病んだ。軽く言ってるけど強がりで本当に赤黒く苦しんだ。
そのとき、こうへいくんは母に己の名の由来を訪ねた。村を越え、道理を泳ぎ、走っていった。遠くの母に訪ね、尋ねた。母ははははと笑って答えた。
「きみの名はね、
母らしくない口調だった。その分、Nova Nostalgiaのようなものを感じる口調だった。
亘平は週明け学校に行った。丁寧に叫んだ。
「これは不公平だ!!」
まだ皆が嗤っていた。でも、よく見た。時針のような動体視力で全てを知覚した。嗤っていたのは半分ほどで、嗤っていない人もいたのだ。担任の先生が言った。
「もう、こうへいくんが、公平とか、不公平とか言っても、嗤わないでください。こうへいくんは悲しんでいます。先生はこうへいくんが可哀想だと思います。みんなでこうへいくんに謝りましょう」
しかし、この言葉が、昇り初めた朝を殺した。亘平はかつてないほどの怒りを、担任に抱いた。
初めは自分も嗤っていたくせに。
何が可哀想だ。
今さら。
表面張力に視界を歪ませながら、亘平は教室から走って出ていった。後ろから担任の「こうへいくん?!」という声が聞こえた気がした。
こうへいくんが主人公の話 架橋 椋香 @mukunokinokaori
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