第9話 エルフの数が少ないのは・・・

 はい、いらっしゃい。

 何が要るんだい?


 え?

 ああ、アタシはただの店番さ。

 店主は何か用事があるらしくてね。

 アタシがちょうど薬を卸しに来てたから店番頼まれたんだ。

 大丈夫だよ、この店の薬はほとんどアタシが卸したもんだから。

 エルフの薬の効き目は折り紙付きだよ♪


 んー・・・症状を言って貰えばそれに合う薬を出すよ。

 恥ずかしくないから、どこが具合悪いか言ってみな?


 具合は悪くない?

 ふーん・・・で、ここは薬屋だ。

 薬なら何だってあるけど、具合が悪くないなら何が欲しいんだい?


 ヒールポーション?

 かかとがどうかしたのかい?


 踵じゃない?


 治療薬?

 傷薬かい?


 そりゃどこのどんな傷かにもよるねぇ・・・


 どんな傷でも!?

 ・・・うーん、じゃあ一番便利なのはこの辺かなぁ・・・はい、「ガマの油」。

 傷口に塗ればだいたい血は止まるし、傷口も早く塞がるよ。

 これで塞がらないような大きい傷は一度止血して、これ塗って上から包帯でも巻いときな。


 違う?


 これじゃないって言われてもねぇ。

 切り傷だろうが擦り傷だろうが、こいつが一番使える範囲が広いんだよ。

 アンタの言うヒールポーションに一番近いと思うけどねぇ?


 え、飲むの!?

 傷を治す薬なら傷口に塗るもんだろう?


 いや、アタシも三百年近く薬を創ってるけど、さすがに飲む傷薬なんて聞いたことないよ。

 傷口が化膿した時に飲むと勘違いしてないかい?

 熱冷ましならこっちだよ・・・はい、「麻黄湯まおうとう」!

 これはお腹が空いてる時にティースプーン一杯分を・・・


 えー、これじゃないって言われてもなぁ・・・

 熱が出た時に飲む薬と言ったらこれが一番応用範囲が広いんだけど?


 そもそもどういう傷を治したいんだい?


 え?


 ああ、これから山や森で怪我した時に備えてねぇ・・・

 だったらやっぱり「ガマの油」が良いと思うよ?

 あとは現地で手に入る薬草を憶えて自分でその場でどうにかするのが良いけどね。


 ああ、そういう薬草はここには置いて無いよ。

 こっちにあるのは乾燥させたり加工したりして保存が利くようにした薬ばかりさ。

 薬草も生のままじゃすぐに傷んじゃうからね。

 効き目も薬草そのままよりここの薬の方がいいし・・・。


 だから、「ガマの油」と「麻黄湯」買っていきなよ。


 他の薬?

 ・・・まあ、見ての通り色々あるけどね・・・言ってくれれば説明するよ。


 それは「胃苓湯いれいとう」といって食あたりの薬だね。


 そっちは「五苓散ごれいさん」で下痢止めと消化不良の薬さ。


 ああ、それは「人参湯にんじんとう」で麻酔だね。

 マンドラゴラを加工したものだから自分で飲んじゃだめだよ?


 ああ、手とか脚とか切り落とす時に痛みが無いように患者に飲ませるんだ。

 痛みは感じなくなるけど幻覚とか幻聴とか吐き気とか副作用が大きいからね。あと飲みすぎると中毒になって、それ無しじゃ生きてられなくなる。


 麻薬?

 うん、まあそうだね。


 「阿片あへん」もあるよ?

 要らない?

 あ、そう・・・


 そっちにあるのは「シルフィオン」だよ。


 え?

「シルフィオン」知らないの?


 ああ、アンタ他所から来たんだね?

 「シルフィオン」はこの店の看板商品、避妊薬さ。

 それ飲んでるとエッチしても子供が出来なくなるんだ。


 いや、男じゃなくて女が飲むんだよ。


 別に娼婦じゃなくても街の女はみんな買っていくよ?


 そりゃそうさ、やっぱ余計な子供は出来ない方が良いからね。

 かといってやる事はやるわけだし、やれば子供出来ちゃうだろ?

 旦那に迫られちゃ女房にを断る事なんて出来ないからね。

 子供なんてもう要らないって思っててもやる以上は出来ちまう。

 でもこれを飲めばやる事やっても子供は出来ないのさ。


 エルフが昔から子供が少ないのはコイツがあるからだよ。


 え、別にエルフはエロくないよ!

 人間の方がエロいだろ?


 いや、ウチだって旦那とは週に一、二回って程度だよ。普通だろ?


 ウホン!

 ま、まあ、そんだけやってもそれ飲んでりゃ子供はできないのさ。

 子供が欲しけりゃ飲むのやめりゃいいだけだからね。


 ああ、さっきも言った通りこの店の看板商品だよ。

 何も考えずにやるだけやって、欲しくもない子供出来ても不幸になるだけだからね。

 知ってるかい?

 この街じゃ十歳未満で死ぬ子供の数が他所よりずっと少ないんだよ?


 この街だってアタシがコイツを売るようになる前はみんなどこの家庭も子だくさんでね。

 生まれてくる子供のほとんどは十歳になる前に死んじまう。


 だが、アタシがコイツを売るようになってからは子供が生まれる数が減った。だけど街の人口は減ってない。

 十歳未満で死ぬ子供はだいたい五分の一程度に減ったんだ。


 そんだけ、があったってことだよ。


 まあ、ニンゲンみたいに何も考えずにバンバン子供つくってりゃ人口は増えるだろうけどさ。養えなくなってどこかで破綻するしかないのさ。

 それこそするか、戦争でもして新たな土地を手に入れるか。


 この薬があればそのものが無くなるんだ。

 コイツを買わずに子供ばんばん作るより、コイツを買ってを減らす方がよっぽどマシだと思わないかい?

 もっとも、作れる量が限られてるから、この街だけにしか卸してないけどね。


 え?

 ・・・そりゃまあ、そもそもやらなきゃいいんだろうけどさ。

 だけど男は我慢できないんだろ?


 だから、エルフはエロくないってば!!

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