第5話 ドワーフは大酒飲みじゃない!
よく来たなぁ、まあ座んなよ。
何飲む?
お茶で良いか?
え?酒?昼間っから?
いやいや、お茶くらいあるし酒なんか飲まんよ。
酔っちまったら仕事にならんだろ?
そりゃアンタが街の外から来たドワーフなら俺だって酒を出すさ。だが、俺だってこの街に来てだいぶ経つんだ。郷に入っては郷に従うって奴さ。
お茶くらい普通に飲むよ。
ああ、あれは違うんだよ。
田舎のドワーフは確かに普段から酒は飲むけどさ、年がら年中四六時中酒飲んで酔っ払ってるってわけじゃねえよ。
なんていうかなぁ、酒しか飲めるものが無いんだよ。
いいか?
生水飲んだらアンタ、誰だって腹壊すだろ?
だから一回沸かしてお茶にして飲むとかするわけだ。
だけど、いつでもお湯用意できるわけじゃねえだろ?
工房の中ならともかく、自分の家とか、あるいは坑道の中とかでさ、四六時中火を用意しとくわけにはいくめえ?
常に人がいる家なら出来るかもしれねえが、人が見てない火なんか
なのに、急に喉が渇いたからってお茶用意しようとしてみなよ。
お茶のために火ぃ
自分の家ならともかく、坑道の中でそれやったら空気があっという間に汚れちまって中の人間みんな死んじまう。外から送風機で風送って中の空気入れ替わるまで、誰も坑道に入れなくなっちまうじゃねえか。坑道の中じゃ
だからよ、イチイチお湯沸かさしてなんかいらんねぇんだよ。
そこで酒よ。
酒をそのまま飲むんじゃねえぜ?
そんなことしたら酔っぱらっちまう。
働かなきゃいけねえのに酒なんか飲まねえよ。
生水によ、ちょっとだけ酒を垂らして混ぜて少しだけ待つんだよ。そうすっと、それを飲んでも腹ぁ壊さねぇで済むんだ。酢水と一緒よ。
それだとホラ、百数える間も無く喉を潤せるじゃねえの。
半時間もかけてお茶なんか用意できねえよ。
顔が赤いのだって酒焼けじゃねえよ。
これは火傷!
ほら、炉で鉄鉱石とか砂鉄溶かして鉄つくるだろ?
あの時、火加減とか見なきゃいけねえから覗き込むわけだ・・・
上からじゃねえよ!横からだ、馬鹿。上から見たら丸コゲになっちまうじゃねえか。
横からだけど近くで見るから熱は被るんだよ。光も強いと火傷すんの!日焼けと一緒よ。
頭は何か頭巾被るし鼻から下はヒゲ生やして守れるけど、鼻と頬はどうしてもな。
で、鼻の頭と頬骨んトコだけどうしても軽い火傷で赤くなんだよ。
治るのに一週間ってとこだ。だが、治る前に次の仕事始めちまうからな、だから酒に酔って無くても鼻の頭と頬は年中火傷で赤いのよ。
だから飲んでねえ、てか酔ってねぇ!
酔っぱらって仕事なんか出来ねえって。
飲む水には酒入ってるけど、さっきも言ったみてえに薄いの。こんなの飲んだって酔う前に腹いっぱいになっちまうよ。
ここみたいな街中ならよ?
今みたいに客が来たら挨拶してる間に家の誰かにお湯用意させてお茶入れてって出来っけど、田舎じゃそういうわけにもいかねえのよ。
だから、安全に飲める物なんて他にないから、生水に酒を混ぜて飲めるようにしてるってだけでさ。
それを毎日昼間から酒飲んで酔っ払ってるなんて言われちゃたまったもんじゃねえよ。
え?
いや、確かに酢でもいいよ?
旅人がやってるみてえに生水に酢をちょっと垂らしてさ。でも、酢だと酒より高くつくんだよ。酒ならホラ、自分ちでも作れるだろ?
来客はまたちゃんと薄めずに酒だすよ。
ほれ、田舎のドワーフは大抵山ん中で暮らしてっだろ?
客が来るとしたら日帰りってことはまずねぇんだよ。ほぼほぼ泊りがけ。
だから、今日は泊っていくんだろ?じゃあ遠慮せずにゆっくりしてってくれよって事で客には酒を薄めないで出すんだよ。
酔ったら帰れねえからな?飲めば酔うような酒を出すことで、今日はもう安心して泊ってってくれっていう気持ちを表すわけだ。それがドワーフの文化ってヤツよ。
薄めた酒なんか客に出したら、泊まらずに帰ってくれって意味になっちまう。あるいは、のんびりしてないで働けって意味にもなるかな?
そんで、出された酒を飲むのも同じよ。じゃあ、遠慮はしねえぜ、ゆっくりくつろがせてもらうぜって気持ちを酒を飲む事であらわすわけよ。
それをアンタ、
いやいや、遠慮しますよ。ちゃんと働きますよとか、すぐに帰りますよとか、お邪魔しませんよってぇ意味になっちまうわけよ。な?他人行儀じゃねぇか。
そういうのを水臭いって言うの。
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