第13話:バカップル
正直に言えば、ここまで愚かだとは思っていませんでした。
王太子領やモランボ公爵領の食糧を売り払い、クズ宝石を買い集めたのです。
開戦の危機があるこの時期に食糧を売ってしまうと、籠城する事もできなくなってしまうので、馬鹿としか言いようがありません。
しかも私が流しているのはクズ宝石なのです。
もう直ぐ次の競売が始まりますから、その時に珍しい宝石や大きな宝石が出品されると分かっているのです、そこまで待つのが普通でしょう。
「それが、無数の宝石をドレス全体に縫い付けているようで……」
セバスも流石に言い難そうにしていますね。
セバスの常識から言っても信じられないほどの愚行なのでしょう。
私が同じことをしようとしてら、セバスは厳しい諌言をしてくれます。
王太子やビクトリアを叱責したり諫言したりする者はいないのでしょうね。
そんな事をすれば、その場で手討ちにされるか、密かに毒を盛られるかです。
二人の周りには阿諛追従の佞臣しかいないのでしょうね。
「それと、王太子領やモランボ公爵領では税が引き上げられたそうです」
「私がいた頃でも六公四民の高い税だったはずですが、それをさらに増税するなんて、一揆や逃散を誘発しているとしか思えませんね。
それで具体的にどれくらいに引き上げたのですか」
「四公一民でございます」
なんと、収穫の八割を直接税として取り上げるなんて、民は生きていけません。
直接の収穫税だけでなく、人頭税や施設使用料、賦役まであるのです。
日々の生活に必要な水車小屋、パン焼き釜、葡萄圧搾機などを使用するたびにお金を支払わなければいけません。
普通の領地では、週に三日前後は領主の直営地で耕作したり機織りや運搬などの労働を行うのですが、王太子領やモランボ公爵領では毎日やらせるかもしれません。
「王太子領とモランボ公爵領から逃げてくる民を受け入れることは可能ですか」
私の目算では可能だと思うのですが、セバスに確認しておく必要があります。
無理して受け入れて、代々税を納めてくれている民を飢えさせたり不安にさせたりしては、本末転倒です。
私がまず大切にしなければいけないのは、アリスナ辺境伯領を繁栄させてくれた譜代の領民なのです。
彼らは時に徴兵されて命懸けで戦ってくれてきたのですから。
「大丈夫でございます、アリスナ辺境伯閣下。
愚か者共のお陰で、莫大な量の食糧が備蓄されております。
領内各地に輸送するための駄馬と荷車も、数多く集まりました。
今日も利を求める商人達が、食糧と武具を荷車に乗せてやって来ております」
粗悪品以外は必ず利をつけて購入している事が効果を表していますね。
軍資金が少なくても、兵糧さえあれば長く籠城できます。
将兵への報償も、金銀ではなく宝石ですます事も可能です。
次回の競売会でも大量の珍しい宝石を出品しましょう。
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