第11話:領都の繁栄と危険

 私の予想通り、多くの商人が食糧と武具を持ち込んでいました。

 宝石を求めてきた商人が想像以上に多く、あまりにも大量に食糧と武具持ち込まれたため、戦争の危険があるのに値上がりはしませんでした。

 いえ、むしろ値崩れを起こすほどでした。

 ですが、ここである程度の値段で食糧と武具を購入しないと、荷車と駄馬を購入する事ができなくなってしまいます。

 食糧と武具を王家や王家派の貴族領に持ち込まれても困ります。

 ですからあまりにも品質の悪い商品以外は全て購入しました。


「粗悪品でない限り必ず利をつけて購入してもらえると商人間で広まれば、次の競売会にも大量の食糧と武具が持ち込まれます。

 見事な手腕でございます、アリスナ辺境伯閣下」


 セバスは褒めてくれますが、全部セバスが教えてくれたことです。

 まあ、前世の記憶がありますから、教えてくれなくてもできたとは思います。

 ですが、親身になって指導してくれる忠臣がいるといないとでは、精神的な負担が全く違います。

 それに、前世の知識がいくらあっても、それを適切に使えるとは限りません。

 有能な忠臣が数多くいることが何より一番大切です。

 ジュリアスがもう少し賢くなってくれればいいのですが……


「それで、四門に大きい外枡形の虎口を増築したいのだけれど、大丈夫かしら」


 本当はそれに加えて内枡形の虎口を作りたいのだけれど、そうすると領都の民を立ち退きさせないといけないのよね。

 せっかく領民の心を掴んでいるのに、わざわざ反感の種を蒔くのも馬鹿だし。

 でも、各地から領地に流入してくる貧しい民を、野垂れ死にさせたくはないわ。

 だからといって、彼らを領都内部に受け入れて治安を悪化させる事もできない。

 領都内の区画整理を行って高層化をすれば、それは防げると思うのだけれど、元々との領民と流民の対立は不可避だしね。


「アリスナ辺境伯閣下のお考えが一番だと思います。

 流民に新たな村を築かせる方法もありますが、それではその村を護るための兵力を用意しなければいけません。

 今直ぐ兵を集めると、隣国や王家の放った刺客や密偵が紛れ込みます。

 それを防ぐには、手元に置いて時間をかけて調べなければいけません。

 新規召し抱えを望む者や傭兵志願者は、ジュリアスの傭兵団に入れて様子を見ましょう。

 領都と新たに築く枡形虎口の防備は、昔からの領民から徒士に取立てて、安心できる守備隊を創設して任せましょう」


 確かにセバスの言う通りです。

 流民の中に敵の手先がいたら、いつ領都に放火されるか分かりません。

 領都内に入れる昔からの領民と、枡形虎口にまでしか入れない流民を分けるのがいいでしょう。

 それが例え差別の始まりになろうと、ずっと税を支払ってくれていた元からの領民を護る責任が、領主である私にはあるのです。

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