第10話:バカップルの手先

 競売会は私の不安を払しょくする大盛況です。

 隣国はもちろん、平和で豊かな大国からも大商人が来てくれました。

 でもそれ以上に大きかったのは、愚か者による時節をわきまえない購入です。

 事もあろうに、元婚約者のグフマン王太子と義妹ビクトリアのカップルが、金に糸目を付けずに宝石を購入していきます。

 まあ、流石に本人が私の領地に来る事はできませんから、出入りの商人に金を預けて落札させているのですが……


「アリスナ辺境伯閣下、あの男でございます」


 セバスが先程から連続して宝石を落札していく男に視線を送ります。

 私も見た覚えのある、グフマンお気に入りの商人です。

 もはや赤の他人ですが、あまりの金遣いの粗さに領民がかわいそうになりました。

 私の知る限り、これほどの買い物をする収入などグフマンにはありません。

 将来の利を目的に、グフマンに取り入ろうとする者もいるでしょうが、国を二分するこの状況では、以前よりも人数も献金額も減っているはずです。


「セバス、もしかして、王国の金を使いこんでいるのでしょうか」


「確かにその可能性が高いように思われます。

 今回の競売で莫大な資金が手に入りましたので、賄賂を使って情報を集めます。

 もし王太子が軍資金を使いこんでいるのなら、戦争になれれば凄く有利です」


 確かにセバスの言う通りでしょうが、グフマンはともかく国王や重臣はそこまで愚かでしょうか。

 私の一件を考えれば、愚かなのかもしれませんね。

 それに宝石ならば、非常時に換金してもそれほど損は出ません。

 場合によれば購入時よりも価値が高くなっているかもしれませんからね。

 ですが、私に軍資金を与えてどうするのですか、これでは自分で自分の首を絞めているも同然です。


「情報はこれまで通り集めてもらうとして、集まった商人が持ち込んだモノを購入しましょう。

 彼らは決して愚か者ではありません。

 ここまで空荷で来るような馬鹿ではなく、何か持ちこんでいるでしょう。

 我が領が兵糧や武具を求めているのは分かっているはずです。

 持ち込んだ物を全て売って宝石を買って帰るのなら、荷物が少なくなり駄馬と荷車が不要になるはずですから、少々色を付けて買い集めてください。

 これからは輸送部隊が重要になるでしょう」


「承りました、係りの者に命じておきます」


 私とセバスが話をしている間にも、バカップルの手先はどんどんと原石を購入していきますが、資金は大丈夫なのでしょうか。

 後半になるほど珍しく大きく値の張る原石がでてきます。

 あの商人は愚か者ではないはずですが、出てきた原石を全て買えとでも命じられているのでしょうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る