第9話:事前対策

 私の思惑通り、多くの商人が集まって、宝石を購入しようとしました。

 競売に出品するほどの価値のない、小さな原石や色の悪い原石は、急遽集めた宝石職人によってカッティングされています。

 まず最初に原石から最大に利用でいるように切り出すのが前提です。

 その状態で各地の宝石商人に売る事が大前提なのです。

 他にも直ぐに利用したい領民もいるので、何に加工するか決まっている人向けのカッティングもあるのです。


「セバス、私が思いついた以外に何か方法はあるかしら?」


 私はできるだけ有利な条件で宝石を売り払えるように、大商人向けに競売会を開催することにしたが、見落としがないとは限らないのです。

 ほとんどの商人が、これが最初で最後に競売会だと思っています。

 そう思うようにセバスの偽情報を流してもらいました。

 でも実際には、競売会の終わりには次回の開催日を発表する予定です。

 毎月大きな収入が入る事で、領地の収入は安定するはずです。


「今回は王家との戦いに備えて、アリスナ辺境伯家が非常用の原石を売り払うという偽情報を流しておりますが、それが凶とでるか吉とでるかは分かりません。

 隣国の商人も多数勧誘した事で、談合して安く買い叩く事はできないと思いますが、アリスナ辺境伯家が追い込まれていると勘違いしているはずです。

 無理をしなくても、次回にはもっと安く出品すると読むかもしれません。

 全体的に落札者なしの多い競売会になる可能性もございます」


 セバスの不安も当然の事だと思います。

 最低落札価格以下になる事はないでしょうが、その分売れ残る可能性もあります。

 競売の時には、落札価格を釣り上げるためのサクラも用意するとはいえ、何が起こるか分からないのは確かなのです。

 ですが、今回競売に出品する原石が素晴らしいモノである事は変わりありません。

 小さく輝きの鈍い宝石を一般に売るだけでも大金が手に入るでしょう。

 そんな事を考えていると、セバスが続いて話しだしました。


「ただ、競売で高価な宝石を売らなくても、余裕のある領民が買えるくらいの宝石を領内に流通させて、経済を活性化させる方法もあります。

 手に入り易い宝石を求めて、隣国や他領の商人が領都にやって来て、宿に泊まってくれるだけでも、領内にお金が落ちます。

 問題は金銭が入った分だけ食糧や生活物資が増えるかどうかです。

 金銭だけ増えて物が増えなければ、モノの値が上がってしまい、困る民が出て来てしまいます」


 確かにその通りですね、だからこそ隣国や他領から食糧や特産品を購入しようと思ったのですが、多少は損をしてでも競売会で売る払うべきでしょうか……

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