第4話:色仕掛け

「スカーバラ伯爵家の長男オズバートと申します、以後お見知りおきください」


 金髪碧眼の美男子が、魅力的な笑みを浮かべて挨拶してきます。

 どの角度のどんな笑みを浮かべたら自分が魅力的に見えるのか、よく理解した色男の慣れた動作です。

 そんな見え見えの手に引っかかる私ではありませんが、美男子を観賞用に侍らせるのも悪くはありませんから、邪険にする気はありません。

 それに、誰よりも早く友好関係を結ぼうとしているところにも好感が持てます。

 本人の考えか当主の指示かは分かりませんが。


「ご丁寧な挨拶痛み入ります。

 私がアリスナ辺境伯家の当主マリーナです、こちらこそよろしくお願いします」


 この国では伯爵よりも辺境伯の方が上席なので、私が丁寧な挨拶をするひつようなどないのですが、今後の貴族派の協力関係を考えると、爵位が上だからといって偉そうにふんぞり返っているわけにはいきません。

 それなりに力を持っている伯爵家の去就どころか、男爵家一つが味方に付くか敵に回るかで、家が滅ぶ可能性すらあるのですから。

 まあ、だからといって、無礼を許す気もありませんし、媚び諂う気もありません。


「急に押しかけては無礼かとも思いましたが、事が事ですから、できるだけ早くマリーナ閣下とお話したかったのです」


「まあ、それはありがたい事ですわ。

 遺憾ながらも王家と敵対してしまいましたから、非常時に備えて同盟を締結しなければいけないと思っていたのですが、何分女の身で単身他家に行くことが憚られましたので、どなたかが主導して同盟を成し遂げて欲しいと願っていたのです」


 私の言葉に賛同と感謝が込められていると思ったのでしょう、オズバートの笑みからはわずかな獣欲の気配が漏れていました。

 やはり下心があるようですが、それをかなえてやる義理などありません。

 下心を刺激して散々利用したうえで、機会を見て何も与えずに捨てるのも一つの方法ですが、それでは私の信用信頼が失われてしまいます。

 受け入れられる事と受け入れられない事を、最初にキッチリと相手に知らせておくのが、長く同盟を続けるには一番大切な事でしょう。


「私は色仕掛けでどうこうするような信義に欠ける事はしません。

 貴族として家を保つ事と、令嬢として誇りを護る事を両立させます。

 それを力づくで踏み躙ろうとする者は断じて許しません。

 アリスナ辺境伯家の全力を投入して叩き潰します。

 同時に同盟を結んだ相手を見捨てる事もしません。

 アリスナ辺境伯家の全力を投入して支援します、それでよろしいですか?」


 オズバート卿が顔を引きつらせて蒼くなっています。

 頭も切れる色男のようですが、胆力は全くないようなので、非常時に背中を任せられる相手ではないですね。

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