第3話:ジュリアス騎士隊長

「アリスナ辺境伯閣下、閣下のお役に立ちたくて参りました。

 どうかお側近くに仕えさせてください」


 騎士隊長のジュリアスが緊張した表情で騎士の礼を取ってくれています。

 私の左後ろに控えてくれているセバスが、とても苦々しい雰囲気を隠すことなく表に出しているのは、ジュリアスに対する叱責でしょう。

 私が気がついているように、セバスも気がついているのです。

 ジュリアスが父親のビクトルの制止を聞かずに領都を飛び出した事に。

 つまり命令違反した孫にセバスは怒っているのです。


「命令違反は重大な罪だと分かっているのですか?

 騎士隊長から騎士長への降格や、投獄もありえるのですよ」


「分かっております、どれほど厳しい罰を受けても構いません。

 アリスナ辺境伯閣下のお側近くに仕える事ができるのなら、身分を雑兵に落とされても構いません」


 私への好意を隠そうとしないジュリアスの態度は、二度の人生経験を思い出して一気に老成してしまった私には、とても眩しいです。

 一途に私に恋してくれている姿には、感動すら覚えます。

 もう一度こんな瑞々しい恋心を抱けたらいいのですが、今の私には無理ですね。

 とても嬉しい事には違いありませんから、許してあげたくなってしまいます。

 ですが、今後の事を考えれば、絶対に許すわけにはいきません。

 同じ方法を使って、色仕掛けで私に取り入ろうとする男が現れてしまいます。


「ジュリアス騎士隊長、領都城代の命を無視して役目を放棄したこと許し難い。

 一切の身分を剥奪して平民とする。

 希望していた私の側仕えは絶対に許さない。

 そのような前例を認めたら、同じ方法を使って私に取り入ろうとする者が跡を絶たなくなる、それくらいの事を理解できない者に、キャンベル家を継がすわけにはいきません、この者を城から叩き出しなさい!」


 私の厳しい判決を聞いて、ジュリアスはがっくりと肩を落としたばかりか、床に腰を落とすほど落胆していました。

 逆にセバスは満面の笑みで喜びを表してくれていますが、凄く複雑な心境です。

 私が期待以上の態度を示した事を喜んでくれているのはありがたいですが、期待していた嫡孫が放逐されたのですから、もう少し落胆して欲しいモノです。

 私ばかりに愛情を注いでいると、キャンベル家が分裂してしまいます。

 キャンベル家が力を失ってしまったら、私は安心して眠れなくなります。


「セバス、ジュリアスに名誉挽回の機会を与えて。

 この真珠を現金化して、ジュリアスに傭兵団を設立させなさい。

 城砦を築かせて魔獣も討伐させて、キャンベル家は継げなくても、私を支える騎士に育ててちょうだい」


「御意、アリスナ辺境伯閣下の思し召しのままに」

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