【第四章】ダークナイト
「しかし、お前が戦いの中で、あんな行動に出られるとはな」
四人揃って武器屋を訪れる中で、リカルドは感心したように声をかけてきた。
「自分でも不思議です。でも……、アルマが斬られたり、みなさんが怪我をしたりしているのを見てたら、足手まといになってはいけないような気がして……」
戦っていた時のことを思い出し、目を伏せるセシリア。
「普段からそれだけやる気があればいいんだがな」
リカルドの言う通り、目の前で仲間が傷ついたときだけ行動を起こすというのでは話にならない。
どこにいようが仲間は大切だ。
他の人命についても同様。
目の前にあるものだけ守れればいいなどというのは、自己満足にすぎない。
セシリアが己の甘さを恥じている一方、アルマは陳列された多種多様な武器を楽しそうに見て回っていた。
魔人との戦いでは一番深い傷を負っていたにも関わらず元気いっぱいである。
「この剣かっこいい! あ、斧もいいなー。こういうの振り回してみたいかも!」
「アルマ。今日は君の分はないよ」
今武器屋に来ているのは、先の戦いで損傷したセシリアの杖を買い替えるためだ。
「セシリア、気に入った杖はあったかい?」
「軽くて持ち歩きが楽なのがいいかと思ったのですが……」
エルネストに尋ねられあいまいに答えを返す。
「前みたいに直接剣を受け止めることもあるのかなと思ったら、頑丈な杖の方がいいのかなとも……」
楽をすることしか頭になかったセシリアにも少しずつ変化が見られるようになってきた。
資金は貯まっていたので、最も魔力増強の効果が高い杖を購入することに。
「まいどあり。そういえばお客さん聞いたことがあるかい? 邪神の仲間の中には人間もいるって話」
「人間が……?」
店主の話を聞いて眉をひそめるリカルド。
「なんでも邪神の加護を受けてダークナイトってソウルジョブに就いているらしい。本人が人間を喰らうことはないけど、連れ去って邪神に捧げているとか」
「人間と魔物って敵同士ですよね……? 人間が邪神に協力して何の得が……」
通常の魔物であっても人間とは相容れない存在だ。邪神の眷属ともなればなおさら。
人質を取って脅されているのかとも考えたが、手元に人間がいるならまずその魂を喰らうだろう。いまひとつ事情が分からない。
事情は分からないが警戒するに越したことはない。気を引き締めて店を出た。
装備を整えた一行は、魔人からの情報を信じて西の方角へ向かうことにする。
途中にはまだいくつか町があるので、補給はしながら進むことができる。
町を出て、草原を西に進んでいくと、徐々に他の冒険者の姿を見かけなくなり、逆に魔物の数は増えていく。
心なしか雲行きが怪しいようにも感じる。
「なんだか嫌な予感がするのですが、わたしの気のせいでしょうか……?」
「いや、予感というよりは、実際に大気中の邪気が濃くなってきているね」
セシリアより経験が豊富で感性の鋭敏なエルネストには場の神聖さ・邪悪さもよく分かるようだ。
「この先に出る魔物は今までより強く――。――?」
セシリアより前を歩いていたエルネストが足を止める。
「どうされましたか? エルネスト様」
彼に何かあったのかと心配になり、前に回って顔を確かめるが、目を瞑って周囲の気配を探ることに集中しているようだった。
「遠くの方だけど……、魔物の群れが一気に消し飛んだみたいだ……。大勢の冒険者が戦っていたんだとしても、こんな一瞬では……」
倒されたのが魔物なら喜ばしいことのはずだが、さすがに不自然だということで皆、警戒を強める。
「魔物じゃないにしても、なんかヤバい奴がいるかもしれないってことだよね。セシリャん、危なくなったら、あたしの後ろに隠れるんだよ」
「甘やかすな、アルマ」
リカルド以外の仲間は、セシリアに対して過保護なところがある。
本当に危険な状況に陥ったら、セシリアも隠れている訳にはいかない。全員で協力しなければ。
道中魔物に襲われることはあったが、邪気が濃くなっているわりにはそこまで多くの敵に囲まれることはなく、普通に倒せている。
魔物の気配の消失はあれからも何度かあり、その分こちらにやってくる魔物の数が減っているのかもしれない。
相変わらず辺りは昼間だというのに薄暗いが、旅自体は順調だった。
そのはずだったが――。
「なんだか楽に進めてますね。いつもこんな感じだといいんですが」
「セシリア、油断するな」
深刻そうな表情で、セシリアに改めて気を引き締めるよう戒めるリカルド。
他の二人も静かにうなずく。
「あたしの勘じゃ、すぐ近くまで来てるね……」
「姿を消して……魔力も最大限抑えているか……」
声をひそめたその言葉を聞いて、セシリアも周囲の気配を探ってみる。
すると、背後からゆっくりと魔力が近づいてきていることに気付いた。
非常にうっすらとしか感じないが、誰かしら魔物あるいは人間がいるということだろう。
「誰だい? 尾行だけが目的じゃないんだろう? そろそろ姿を見せてもいいんじゃないか?」
意を決したエルネストが、後ろを向いて虚空に言葉を投げかける。いや、虚空ではないという確信があるということだ。
「さすがに不意打ちで全滅させるという訳にはいかないか……」
澄んでいるが、それでいて重々しい男性の声と共に、景色がはがれるようにして黒い甲冑が現れる。
「隠蔽系の暗黒魔法か。僕も使えなくはないけど、好んで使うのは邪神の眷属かな?」
「正確には違うが、そう思ってもらって構わない」
甲冑の男が、エルネストの問いに否定とも肯定とも取れる答えを返した。
だが、どちらにせよ敵であることは間違いない。
「ならば、ただの魔人か? そうであってくれることを願うが……」
今度の問いに対する答えはリカルドの意に沿わないものだった。
「私は人間だ。好むと好まざるとに関わらずな」
今のやり取りではっきりした。この人物は――。
「貴様がダークナイトか……!」
敵の正体が分かったことで、リカルドの目つきが鋭さを増す。
リカルドが剣に手をかけ、セシリアたちも戦闘態勢に入る。
敵であるダークナイトも漆黒の刃を持つ剣を腰から抜き放った。
「その剣、暗黒剣だね。闇の力の使い手は人間には珍しい。その貴重な人材が邪神側についているというのはもったいないね」
ダークナイトの頭は全体が兜に覆われているため、表情までは分からないが、彼がまとう魔力の調子が変わったような気がする。
戦いの口火を切ったのはリカルドだった。
「聖剣技・ホーリーブレイド!」
ダークナイトの真正面から、一筋に圧縮された神聖な魔力の刃を撃ち放つ。
「正面からきたか。侮られたものだ」
ダークナイトはその刃を自らの剣であっさりと打ち払い、返す刃で闇の魔力を弾丸として撃ち出した。
「――!!」
その弾速は非常に速く、かわしきれなかったリカルドは肩を撃ち抜かれる。
致命傷は避けたが、ダークナイトの追い打ちが迫る。
「神聖魔法・ベルダーエクスド!」
「白魔法・ブランコエクスド!」
エルネストとセシリアの防御魔法で、六角形と四角形の二重の盾がリカルドの前に展開される。
ダイークナイトの剣は二枚の盾をも簡単に砕いたが、その隙にリカルドは仲間の元まで引き下がっていた。
「リカルド、逸るな。一対一で倒せる相手じゃない」
エルネストの言葉通り、ダークナイトがその身に宿した魔力は、今まで会った敵・味方いずれと比較しても圧倒的に高いものだ。
「エルネスト様の召喚魔法は攻撃もできるんですよね? わたしたち三人で時間を稼いで、最大級の魔法で一気に倒すことはできますか?」
普段のなまけ癖を忘れ去ったセシリアが、こちらの戦法について提案する。
「倒せるかは分からないけど、やってみるよ。ただ、奴と接近するのは危険すぎる。全力で後退しながら守りを固めるんだ」
リカルドとアルマがエルネストの前で剣を構え、セシリアの魔法で魔力の盾を張った上で、全員揃って後方へ飛び退いた。
「暗黒剣技・ダークブレイド」
ダークナイトは、リカルドの聖剣技の聖なる光をそのまま闇の力に置き換えたような形態の技を使ってくる。
すなわち、三叉に分かれて疾走する漆黒の刃。
セシリアの張った盾など容易く破ったその刃は、それぞれリカルドとアルマの剣に命中し、二人を弾き飛ばした。
リカルドは剣を手放さずすぐにエルネストの前に戻ったが、アルマが自身と大剣をバラバラに飛ばされてしまい無防備な状態になってしまう。
アルマが武器を拾いにいく間、仲間は足を止めることになり、ダークナイトに接近を許すことになった。
「甘いな。あの女一人見殺しにして後退を続ければ良いものを……」
ダークナイトの剣をリカルドは自らの剣で受け止める。
鍔迫り合いになったが、力の差故にリカルドの剣だけが一方的に刃こぼれしていく。
「くっ……」
刃を合わせた状態のまま、リカルドの剣が聖剣技を放つために魔力をまとうが、ダークナイトの魔力がそれを打ち払う。
力は相殺された訳ではない。ダークナイトには余力がある。
暗黒剣技が発動してしまえば、リカルドの剣は打ち砕かれてしまうだろう。
「あたしが、恩を仇で返すと思う!?」
いつの間にか、自らの得物を拾っていたアルマがダークナイトの側面から大剣の強烈な一撃を見舞う。
大剣の刃は、ダークナイトの肩にもろに叩き込まれたが、彼の身につけた鎧にはヒビすら入らない。
通常、冒険者は鎧のような重装備はしない。それは、してもそれほど意味がないからだ。
魔力による攻撃は、物質の持つ本来の強度を無視して破壊することができる。つまり、防具が鎧であるかローブであるかにはそれほど差がないということである。
鎧だからといって特別打たれ強い訳ではない。それにも関わらずダークナイトは無傷だった。
アルマとダークナイトには、それほどの実力差がある。
「目障りだ……」
リカルドの刃を弾いたダークナイトは、アルマに向かって一閃。
腹を横一文字に斬り裂かれたアルマは、その場で両膝を突く。
「アルマ!!」
セシリアは、アルマに回復魔法をかけようとするが――。
(間に合わない……!!)
魔力を組み上げるより、ダークナイトが再び剣を振るう方が早い。
暗黒剣が振り上げられたその時。
「召喚魔法・インフィエルノ!!」
ダークナイトの足元に魔法陣が現れたかと思うと、そこから何本もの灼熱の鎖が伸びて絡みつく。
鎖で拘束されたダークナイトの周囲を炎の渦が取り囲み、その幅が縮まっていくと共に魔法陣が強い光を放つ。
渦巻いていた炎が一体化してダークナイトの身を焼くと同時に、魔法陣から激しい火柱が上がって、三重の炎熱が炸裂。まさに魔法名通りの地獄を思わせる光景となった。
これが炎属性最強の魔法だ。
今までの攻防すべての時間を活かしてエルネストはこの魔法を組み上げたのだ。
業火に包まれているダークナイトから距離を取って、四人は再び集まった。
セシリアは、今度こそ落ち着いてアルマの傷を治す。
「いやー、危なかったねー。あたしが足引っ張っちゃったけど、なんとか時間稼ぎはできたでしょ?」
「ああ。僕の召喚魔法の腕がなまってたら危ないところだったけど……」
今の召喚魔法は、魔界の外に存在するエネルギーをかき集めて放ったものだ。
その中には地獄から流れ出たものも含まれている。
文字通り地獄の力を用いた魔法でもあったということだ。
「何が倒せるかどうか分からないだ。これほどの力を隠し持っていたとは知らなかったぞ」
「そうそう! 剣を振り回すしかできないあたしとは格が違ったよ!」
「すごいです! エルネスト様!」
皆からの絶賛を受け、照れくさそうに顔を背けるエルネストだったが、次の瞬間その表情が凍りついた。
「大した魔法だ。完全に防御に徹しなければ焼き尽くされていたところだった……」
「なっ……」
究極の炎魔法を受けたはずのダークナイトが、依然として強大な魔力を帯びたままそこに立っていた。
甲冑の表面は溶けかけており、熱が伝わって本人も軽い火傷ぐらいは負っているだろうが、それでも戦闘不能にはほど遠い状態だ。
「な、なんで……」
アルマが不思議に思うのも無理はない。何か特別なからくりでもない限り、耐えられるはずのない圧倒的な魔法攻撃だったのだ。
「これが我が主の加護の力だ。人間たちはこの力の前に殲滅される」
ダークナイトは、あくまで淡々と、純然たる事実であるかのように告げる。
「神の加護だけでここまで強くなるはずはない。貴様自身にも力があったはずだ。それだけの力を持ちながらなぜ邪神などの下についている!?」
リカルドが怒りにも似た疑問をぶつける。
「それに人間が殲滅されるなんて……。だったらあなたはどうなるのですか……!?」
セシリアとしても疑問だった。人間すべてを滅ぼそうとしている邪神に協力すれば、自らも死ぬことになるはず。
理解できないことばかりだが、ダークナイトは多くを語らなかった。
「それは貴様らの知ることではない……」
唯一分かっているのは、もはや自分たちに勝ち目がないということだ。
ダークナイトの絶対的な力の前に、セシリアたちはあまりに無力だった。
「セシリア、お前は町に戻れ」
「え……?」
リカルドの言葉の意図がすぐには分からなかった。
仲間を残して一人だけ逃げろというのか。そんなことができる訳がない。
「逃げろと言っているのではない。町から戦える者全員を連れてこい。奴の力を考えれば一刻の猶予もない」
「ま、待ってください! 助けを呼びにいくならアルマの方が足が速いはずです! それに回復役がいなくなっては……」
「この中で一番戦力にならないのがお前だ。他の者が抜ければ、奴の攻撃に耐えることができなくなる。それに防御と回復の魔法はエルネストも使える。分かったら早く行け!」
セシリアは自分の至らなさを悔やみながら、全力で走り出した。
リカルドの言ったことは正しい。戦況を考えれば自分が抜けるしかないのだ。
王女であるから、守られていいと考えているのではない。むしろ王女ともあろう者が民を見殺しにしてはいけないと考えるようになってきていたぐらいだ。
しかし、わずかに残された勝機を見出すためには、恥を忍んで戦場を離れるしかなかった。
ダークナイトは、セシリアを追う素振りを見せない。
誰を連れてきたところで、結果は変わらないと判断したのだろう。
実際、町にいる冒険者が総がかりで戦っても勝ち目があるとは思えない。相手がこれほどの強者だと知れば逃げ出す者もいよう。
あくまで万に一つしかない可能性にかけてセシリアは走った。
息が苦しい。脚が痛む。目の前が揺らぐ。骨が悲鳴を上げている。
どれほど走ったか分からないが、今までなまけきっていたセシリアが、一人で魔物の攻撃をかいくぐりながら町に戻ることは過酷だった。
(一秒でも早く戻らないと……、みんなが……!)
王女であるセシリアは、これまで死を身近に感じたことはほとんどなかった。
それ故に、何もしないという選択に疑問を覚えることもなかった。
何もせず寝ているだけの時間が至高だと思っていた。
だが、自分のことを大切に思ってくれている仲間の死が眼前まで迫って、その価値観は崩された。
援軍を呼ぶために、この身を粉にして構わない。以前のセシリアなら考えもしなかったことだ。
気持ちは変わった。それでも肉体はその気持ちに追いついてくれない。走ることにも限界がきている。
(こんなところで止まる訳にいかない……。でも……)
全力疾走したことによる疲労に加え、魔物から受けた魔力によるダメージもあり、いよいよ立っていることができなくなった。
このまま倒れれば自分も魔物に喰われるだろう。
結局皆死んでしまう。絶望が心の中を埋め尽くしたその時――。
「おや。誰かと思えば、ニート王女じゃないですか」
『ニート』という聞き慣れない単語と共に、一人の女の姿が現れた。
魔物に注ぎ込まれた魔力の影響でかすんでいる目で声の主を見る。
――金色の着物に金色の刀。まさかこの人物は。
「何やってるんです? そんなボロボロで。恥を捨てて働くことにしたんですか?」
「き、キサラギ……様……?」
「私のことを知ってましたか。城に召喚された時、部屋に籠ってたから会ってないと思うんですけどね」
かつて邪神の脅威から世界を救った勇者・キサラギ。彼女が目の前にいるのだ。
セシリアの心に希望が戻り始める。
「キサラギ様……! お願いします……! わたしたちを助けてください……!」
「何があったんです?」
勇者というと、もっと高貴な雰囲気を女性か、あるいは筋骨たくましい大女かと思っていたが、服装は豪華なわりに身長こそあるものの貧相な体型で平凡な顔立ちをしている。
その黒い瞳でセシリアを見下ろしながら尋ねてくる。
「邪神の配下のダークナイトにわたしの仲間が襲われているんです! 早くしないと……!」
伝説の勇者なら、これだけで状況を察して助けになってくれる。そう信じていたのだが。
「ダークナイトですか。響きがかっこいいですね。私としては、そのダークナイトが勝ってくれて問題ないので助けにいく必要性は感じませんね」
一瞬、耳を疑った。
(勇者のキサラギ様が……ダークナイトが勝って問題ないと……?)
聞き間違いかと思いもう一度頼む。
「あの、わたしたちは邪神の配下に襲われて危険な状態なんです……! 助けてください!」
「私は会って間もない人間に助けてくれと言われて、すぐさま助けるほどお人好しじゃないですよ。何か私にもメリットがないと」
「邪神の眷属を倒せば王家から莫大な褒賞金が出るはずです! ですから早く!」
それでもキサラギは首を縦に振らない。
「金なら余るほど持ってるんですよ。魔界の財宝には私が求めるほどのものはないですしね」
「では、なぜ前は邪神を倒してくださったのですか……」
「あれは、襲われてる真っ最中に召喚されたからです。邪神に恨みなんてありません。っていうか邪神死んでなかったんですね」
邪神を仕留め損ねていたと知っても、再び倒そうという気持ちはないようだった。
せっかく希望が見えたのに、という口惜しさが胸を満たす。
「見損ないました……。世界を救ってくださったというキサラギ様が、そんな方だったなんて……」
「それで触発してるつもりですか? 私は私が価値を認めた者しか助けません。そもそも誰かを助けるということは、救う者と救わない者を選別するということです。そこには理由が必要なんですよ」
キサラギは澄ました顔で独自の論理を展開する。
勇者などと呼ばれている人なら、困っている人は無条件に助けてくれるものと思っていたが、現実はそうではなかった。
頼れるのはこの人しかいない。
町まで戻る体力は残っていないし、戻ったところで十分な戦力がある保証もない。
その点、目の前にいるキサラギなら、過去に完全な力を持った邪神を倒しているのだから、配下のダークナイトを倒すことも十分できるはず。
彼女が協力してくれる気にさえなれば――。
「わたしなら何でもします! どうか……どうか……」
力ずくで言うことを聞かせられる訳はない。そんなことができるぐらいなら自分でダークナイトを倒している。
セシリアにできるのは、ひたすらに助けを請うことだけだった。
「私は女の涙が嫌いでしてね。いくら泣いたところで私の心には響きませんよ」
必死に懇願するセシリアを、キサラギはせせら笑うだけ。
セシリアの心に差しかけていた光が再び失われようとしたその時だ。
「ところで、あなたの仲間の中にイケメンはいますか?」
ふと思い出したかのように妙な質問を投げかけてきた。
「は……?」
意味が分からなくて思わず聞き返してしまう。
「その助けを待っているという人たちの中に美男子はいるのかと聞いているんです」
質問の意図は分からないが、質問の内容は理解できたので答える。
「います! 二人います!」
リカルドとエルネスト。二人共、客観的に見て美形といって差し支えないが、セシリアの頭に先に浮かんだのは――。
「そういうことは早く言ってくれないと。男は顔が命ですからね。特別に助けてあげましょう」
「はぁっ……、はぁっ……」
リカルドたちは、ダークナイトの圧倒的な力を前に、全員膝を突いていた。
リカルドの聖剣技も通じない。アルマの大剣も通じない。エルネストの召喚魔法すらも通じない。
満身創痍の三人は、もはや死を待つだけだった。
「貴様らに恨みはない。だが、我が主の為、贄となってもらおう」
この場で殺すのではなく、邪神への捧げものとする気なのだろう。
ダークナイトは、複数の対象を一気に拘束する暗黒魔法を発動する。
「マリグノカウティベリオ」
三人の周囲に、うごめく黒い縄が現れ身体に巻きついた。
それぞれの縄から、さらに一本の糸のようなものが伸び、ダークナイトの手元に集まろうとしたが――。
「なに――ッ!?」
この戦いが始まってから、初めてダークナイトが驚きの声を上げた。
すぐそばに自分と同等、あるいはそれ以上の力を持った存在が出現したためだ。
拘束のための魔法を行使していたダークナイトは、その新たな敵からの一撃を防ぐ暇がなく弾き飛ばされる。
ダークナイトの身体を弾いたのは、三日月を思わせる形状・輝きを持った刃だった。
「誰かと思えばエルやんじゃないですか。私を強制的に召喚するほどの魔力を持ちながら、この体たらくですか」
光の刃が飛んできた方向を見てエルネストは目を疑った。
もう助けを借りることはできないとあきらめていた存在、勇者・キサラギの姿がそこにあったのだ。
「キサラギさん!? どうしてここに……」
「暇だったから遊びにきてただけですよ。ちょっとした旅行ですね」
召喚魔法でキサラギを呼ぶことができなかった本当の理由。それは、彼女がすでに魔界の中にいたからだった。召喚魔法は魔界の外に対してしか行使できない。
「もう一人も見覚えがありますね。騎士団の聖騎士ですかね。あまり目新しいのはいないじゃないですか」
リカルドに目を向けたキサラギは、彼に向かって先ほどまで脇に抱えていた少女を投げつけた。
「セシリア!?」
「う~ん。目が回りました……」
リカルドに抱きとめられたセシリアは、キサラギがここに来る過程で高速飛行していたので、酔ってしまっている。
「そのニートもどきが、誇りを捨てて働いて私を呼んだんですよ。ニートの風上にも置けないとは思いませんか?」
魔力とは異なる強大な力を身にまとったキサラギは、その格とは裏腹に意味不明な言葉を吐く。
キサラギの妄言はともかくセシリアは役目を果たすことができたのだった。
「よくやったな」
「リカルド様……。無事で良かったです……」
自身も満身創痍ながら、互いに命があることを喜ぶセシリア。
「それでダークナイトというのは――」
「ちょ、ちょっと! あたしは!? あたしにはなんかないの!?」
キサラギに存在自体無視されそうになったアルマが声を上げる。
「女には興味ないんですよ。あ、この言い回し響きがいいですね。女に興味ないのがイケメンならなおよし」
異世界人であることを抜きにしても言動がおかしい女だが、彼女こそがこの窮地を救うカギとなるのだ。
「貴様……、我が主の仇、キサラギだな……」
身を起こしたダークナイトが、キサラギに対して敵意を向ける。
アルマの大剣を叩きつけられてもかすり傷一つつかなかったダークナイトの鎧が、腰の一部分だけではあるがわずかに欠けていた。
それだけでもキサラギの力がどれほどのものかうかがい知れる。
「なんだ。敵もイケメンじゃないですか。全力を出すのがはばかられますね」
兜に覆われたままのダークナイトの顔を見て感想を口にするキサラギ。その左目は赤く妖しい光を放っている。
透視の力を持っているということか。
「貴様、その目は……」
「そうです。前に邪神からぶんどった能力ですよ。負の感情を糧に力を増すこの『邪眼』は、私と相性がいいようでしてね。返すつもりはありませんよ」
やはりキサラギは勇者という言葉が表すイメージからはかけ離れた人物のようだ。
だが、邪悪とされる能力も使い方次第。怒りや憎しみを喰らって増幅された力で人々を守ることもできる。
「返す気がないなら、それでいい。ここで貴様を斬れば、その左目は自然と我が主の元に還るであろう」
ダークナイトが、暗黒剣を構える。
実際に振るう前から強大な魔力の波動が放たれている。
リカルドたちが手も足も出なかった莫大な魔力を持つダークナイトを前にしても、キサラギは余裕顔だった。
敵の力量が分かっていないはずはない。
それでもこの戦いに恐怖も不安も感じていないようだ。
胆力だけでいえば、勇者と呼ばれるにふさわしいものを持っているのかもしれない。
「やれやれ。それでは、顔は傷つけないように戦ってやりますか。兜を被っていてくれて幸いですよ」
ついにキサラギが抜刀した。
黄金に輝く刀身からは、魔力ではない力が感じられる。
そして、その強度はダークナイトの魔力にも負けていない。
ダークナイトが先に斬り込んだ。
刀身に闇の魔力をまとわせた斬撃。
キサラギは、ふわりと飛び上がってそれをかわす。
ダークナイトの剣はキサラギに傷を負わせる代わりに、大地を大きく引き裂いた。
その裂け目は直接剣を受けた部分のはるか先まで続いている。
「な……なによ、あれ……! あんな力で斬られてたら、あたしとっくに死んでんじゃん……!」
アルマを斬った時は、あれでもまだ力を抑えていたのだろう。
「力を温存しながら俺たち三人と戦っていたのか……」
力の差を思い知らされ歯噛みするリカルド。
この場は、キサラギ一人に任せるしかないようだ。
「月光刃」
上空からキサラギが刀を振り下ろす。
刃が描いた軌跡から放たれたのは、先ほどダークナイトの身体を弾き飛ばしたのと同じ光輝く斬撃だ。
キサラギの放った光の刃をダークナイトは暗黒剣で受け止める。
しかし、すぐに後方へ飛び退いた。
「いい判断ですね。早々に剣を刃こぼれさせなかっただけでも大したもんです」
リカルドの剣を一方的に刃こぼれさせたダークナイトの暗黒剣。
キサラギの斬撃には、その暗黒剣を刃こぼれさせるだけの威力がある。
「なるほど。手加減をして勝てる相手ではなさそうだ……。我が主が敗れただけのことはある」
今度はダークナイトが、ダークブレイドを放つ。
一本に凝縮されて飛来したその斬撃に対し、キサラギは刀の切先を向けて空中に静止している。
「馬鹿な。まともに受け止める気か!?」
「それにしたって、あの角度じゃ自分にも当たるよ……!」
刀の先端部分だけで闇の力を受ければ、分裂した残りの力を生身で受けることになる。
そう見られていたが――。
ダークナイトの放った闇の斬撃は、キサラギの切先から刀身へと吸収されてしまった。
「私がどうやって邪神から左目の能力を奪ったと思っているんです? 私の刀の能力は『能力の奪略』ですよ」
「ちょっ……、自分から能力を教えてどうすんのよ!?」
自分の力を過信するあまり油断しているのかと思ったが、アルマのその考えは外れていた。
キサラギはその後、月を思わせる光の球を無数に放って弾幕を張るが、ダークナイトは後退してそれをかわしていく。
かわした後に反撃をしても良さそうなものだが、ダークナイトは防戦一方となっていた。
キサラギが自らの能力を明かしたのは、油断していたからではない。
敵の攻撃を封じ込めるためだ。
攻撃を吸収する能力。それを知らなければ、あるいはひたすらに攻撃を仕掛けて、まぐれでキサラギを倒せるかもしれない。
だが、能力を知っていれば、どうしても攻撃することをためらってしまう。
キサラギの狙いは、より安全に勝利をつかむことだ。
「私は正直者なんですよ。正直ついでに、もう一つ教えておきましょう。私の得物は本来刀じゃない」
キサラギの言葉が終わると共に、その手に握る刀の形状が変化した。
ハルバード。斧槍とも呼ばれる武器だが、これが彼女の武器の真の姿なのだろう。
光の球に織り交ぜて、鋭い突きも繰り出すようになるキサラギ。
いよいよダークナイトの鎧を突き破って傷を与え始めた。
さらに兜も砕けて、素顔が露わになる。
邪眼で透視したキサラギの言った通りの美形で、やや中性的な雰囲気を持っている。
「すごい! これならダークナイトにも勝てるよ!」
「エルネスト。お前が呼んだのはこれほどの強者だったのか」
「ああ。その分、呼ぶだけで魔力を全消費したけどね」
「良かったです。これで……」
致命傷は避けているが、次々にダメージを受けているダークナイトを見て、セシリアたち四人はキサラギの勝利を確信した。
だが――。
「暗黒魔法・サクリフィーティオ」
ダークナイトがある魔法を発動すると、彼の身を闇の力が飲み込んだ。
そして、その場からダークナイトの姿が消えたので、自害したかのようにも見えたが、そうではなかった。
フワフワと空を漂っていたキサラギの背後に、突如としてダークナイトの姿が現れた。
「――!」
さすがのキサラギも反応しきれずに、 振り下ろされた暗黒剣をその背に受けることになった。
キサラギの身体が高速で地面に叩きつけられる。
「転位魔法か!?」
魔法に精通しているエルネストでも、読みが外れた。
このは魔法の効果は――。
「寿命を代償にして戦闘能力を飛躍的に高める魔法ですか……」
背中から多量の血を流しながらキサラギが立ち上がる。
今度はダークナイトの身体が宙に浮いている。能力の上昇によって飛行能力を得たようだった。
「暗黒剣技・ダークストーム」
振り抜かれた暗黒剣が描いた軌道から、闇の魔力が渦となって放たれる。
キサラギは斧槍を差し向けて吸収しようとするが、無力化しきれなかった力を受けて吹き飛ばされる。
「くっ……。邪神本人より強いじゃないですか……」
キサラギは全身を斬り裂かれ出血していた。
キサラギの言葉通り、邪神自体は彼女が余裕を持って倒せた相手だ。
対して、ダークナイトはキサラギに重傷を負わせている。
ただでさえ強いダークナイトが、寿命と引き換えに得た力は計り知れない。
「まったく……、魔界でこれを使うことになるとは思いませんでしたよ」
キサラギが手にした斧槍から、光の球が出てくる。
先ほどまで攻撃に用いていたものとは微妙に異なるものだ。
攻撃に使用していた球は黄金に輝いていたのに対し、こちらは青白く控えめな色彩を放っている。
これは武器に込められていた『魂』だ。
キサラギの得物は、魔界ではめったに見られない『魂を持つ武器』だった。
「霊魂回帰」
斧槍から飛び出た魂が、キサラギの身体に吸収され、二つの魂が融合する。
キサラギの元からまばゆい閃光が放たれ、辺りを埋め尽くす。
セシリアは思わず目を閉じたが、次に開いた時にはキサラギの姿に変化が見られた。
胴部分のみにまとった黄金の鎧。そして、竜のそれを模した巨大な翼が左側に一枚。
溢れ出す莫大な力が物質と化してキサラギの装備となっている。
「なんだ……その姿は……」
ダークナイトの双眸が見開かれた。セシリアたちもそうだが、彼にとっても予想を超える力だったのだろう。
ダークナイトも闇のオーラを身にまとっているが、キサラギがまとっているのは、さらにはっきりと具現化された力の塊だ。
「あなたが使った魔法と同じことですよ。寿命を削られることになる代わり、一時的に本来の力を取り戻すことができる。それが霊魂回帰です」
キサラギは、ただ鎧と翼を身につけただけでなく能力自体が急上昇しており、先ほど負った傷は回復している。
傷こそ回復しているものの、寿命は削られるという。
本来の力を取り戻すことで、なぜ寿命を削られるのか。それは、魂魄のバランスの問題だ。
霊魂回帰状態では、飛び抜けた能力を発揮できるが、それ故に魂魄全体は非常にアンバランスな状態となってしまうのだ。
魂魄は命そのもの。それが安定していることが、長く生きる要件である。
「『本来の』か……。強化によって力を得た私より格上だと言わんばかりだな……」
「男の価値は顔です。力で私に劣ったからといって恥じることはありませんよ」
死闘を繰り広げながらも、キサラギはおどけた態度を崩さない。
ダークナイトもセシリアたちも、キサラギが次にどんな行動に出るのかと固唾を呑んで見守るが、行動というよりは発生した現象に驚愕することになった。
キサラギが左にだけ広げた翼が、周囲から魔力とその残滓を吸収し始めたのだ。
多少は残されていたセシリアやリカルドの魔力。魔力攻撃を行った後に大気中に残存していた魔力の欠片。
そうしたのもを根こそぎ吸い出していく。
「お互い切り札を出すことになったか……。いいだろう。次で幕にする……」
ダークナイトは地面に降り立つ。
戦いを長引かせるのは不利と考えたのか、暗黒剣に最大級の魔力を込めていく。
「私もそのつもりです。長生きしたいですからね。さっさと霊魂回帰は解かせてもらいますよ」
キサラギも斧槍の先端に、今まで吸収してきた力を集める。
その中には、ダークナイトが放った闇の魔力も含まれている。
それに加え、キサラギが左目に仕込んだ邪眼からも邪悪な力が流れ込んでいるようだ。
「名を聞いておきましょうか」
「……ルイスだ」
ここにきて初めてダークナイトの本名が分かった。
名を教えたのはキサラギの実力を認めたが故だろうか。
「――月影十字」
斧槍から、交差する二本の刃が撃ち出された。
一本は神聖な浄化の光。もう一本は邪悪な闇の魔力。二つの相反する力を併せ持った一撃だ。
異なる性質が融合した戦技には、特別な優位性がある。敵の防御に対し、より有効な方が効果を発揮するという点である。
一発に見える魔力攻撃であっても、実際に行われる攻防は一度ではない。魔力の刃が敵の魔力、あるいは肉体そのものに一ミリでも食い込む度に属性の優劣が影響する。そして、一つの肉体であっても弱点は部位ごとに違っている。二つの属性を併せ持つということは、弱点を二倍突きやすくなるということだ。
ダークナイト――ルイスは、体内に秘めていたもの、その身にまとっていたもの、すべての闇の魔力を刀身に集め、極大の魔力塊を作り出して、一振りと共に撃ち放つ。
疾駆する互いの力は、ぶつかり合うかと思われたが――。
「――!」
今度はキサラギが目を見開くことになる。
ルイスが放った魔力塊はキサラギの放った刃を避けるように軌道を変え、結果、キサラギもルイスも相手が放った大技をもろに食らうことになった。
「幕にするとは言いましたが、まさか完全に防御を捨てるとは……」
鎧と翼を打ち砕かれ、再び重傷を負ったキサラギが、斧槍を杖代わりにして踏みとどまる。
一方、ルイスは胸から大量に出血しながら天を仰いでいた。
「仕留め……損なったか……」
魔力を生命維持に使って止血し、なんとか身を起こすルイス。だがもはや、彼には外へ放出する魔力はないようだった。
両者共に深手を負ったが、キサラギの方が比較的傷は浅い。
「逃げるなら見逃しますよ? あるいは、降伏して私の下につくというなら、他の敵から攻撃されたときも含めて命の保証をしましょう」
不遜ともいえる態度で、それでいて敵に情けをかけるような言葉を吐くキサラギ。
ルイスが邪神を裏切り、キサラギの下につくことは考えられない。
「侮られたものだな……」
命を捨ててでもキサラギを倒したかったのだろうが、強化魔法が解けた今のルイスでは、命を捨ててもキサラギを倒すには至らないと悟っていたのだろう。
彼は、苦渋に満ちた表情のまま、足を引きずるようにして戦域を離脱していった。
「無駄に命を散らすことはしませんでしたか。殊勝ですね」
斧槍を刀に戻したキサラギは、納刀してゆっくりと息をつく。
融合していた武器の魂も元に戻った。
「キサラギ様! ダークナイトを見逃していいんですか!?」
ようやく自力で歩けるようになったセシリアが、キサラギに歩み寄る。
「言ったでしょう? 彼らに恨みはないと。この場を助けてもらえただけでも感謝してほしいものですね」
「それは……、確かにそうですね……。ありがとうございます。みなさんを助けてくれて」
セシリアは、心から感謝していた。
大切な仲間の命が失われてしまうという絶望から救ってもらえたのだから。
「僕からも改めてお礼を。君に救われるのは二度目だね」
エルネストたちも、なんとか立ち上がれるようにはなっていた。
「これからどうするの? あたしたちの仲間になってくれたら頼もしいんだけど」
「こう見えても私の傷はあなたたちより深いんですよ。自宅に帰って療養させてもらいます」
ルイスにトドメを刺すだけの余力はあったようだが、一緒に旅をできるほど体力が残っている訳でもないようだ。
「せいぜいがんばって邪神を討伐してください。ニート王女のセシリアさん」
なぜかキサラギはセシリアを名指ししてきた。
実力を考えれば、リカルドかエルネストが一番だと思われるが。
「ところで『ニート』って何? 聞いたことない言葉なんだけど」
「就業もせず教育も受けず、職業訓練も受けていない若者のことです。まさしくセシリアさんのことでしょう?」
「セシリャん、がんばってるよ?」
アルマと出会った時には、既に冒険者稼業を始めていたため、彼女はセシリアがどれだけなまけた生活をしていたか知らない。
「確かに最近のこいつはがんばっているな。セシリアがいなければ今頃俺たちは死んでいたところだ」
リカルドもそう言って頭をなでてくれる。
彼からこんなにほめてもらえたのは初めてかもしれない。
妙にくすぐったい感じがするが、悪くない気分だ。
「まあ、邪神が復活したらニートも続けられないでしょうからね。がんばってニート生活を取り戻してください」
「はい!」
「そこは素直にうなずくな」
優しくなでてもらえていたのだが、結局頭をぐしゃぐしゃにされてしまった。
そんなやり取りをしながら、去っていくキサラギの背を見送る。
今回は思わぬ助力を得られたが、やはり邪神討伐は自分たちの力で成し遂げなければならない。
一同は改めて気合いを入れなおした。
その後は、いったん元の町に戻って、しばしセシリアたちも療養することになる。
己の無力さを痛感したセシリアは、その間、エルネストに教わって攻撃系の白魔法も習得していった。
エルネストを自室に招いた時、リカルドから刺すような視線を向けられていた気もするが、勉強の成果が出るとほめてもらえたのでよしとする。
アルマも鍛錬を欠かすつもりはないらしく、町を出てすぐの平原で大剣を振り回しているようだ。
療養というよりは、各自修行を積むような日々を過ごし、全員の体力が十分に戻り次第、次の目的地へと歩み出した。
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