オーバーホール 後編
〈スイス、ジュネーヴ(国連軍総司令部)〉
2025年、国際連合(International Union)はアンドロイド兵
ただし、完全に人工知能が国連軍を指揮しているわけではない。国連軍の最終意思決定権は国連軍統合作戦司令部の総司令官が有している。総司令官は原則として〝プロビデンス〟の指示に従うが、時に人間からなる補佐官らの意向あるいは自身の判断を優先する。〝プロビデンス〟の指示に従うか、人間の意思に従うか。この選択肢の悩みは非常に難しく、そして重い。加えて、国際情勢の
国連軍本部の総司令官
「レゾリューション作戦の
国連軍
彼の経歴は少し複雑で、父親はスイス人と中華系アメリカ人のハーフ、母親はスイス人とイギリス系ロシア人のハーフだ。スイスの生まれで、フランスの大学、アメリカの大学院を卒業。世界最大の民間軍事警備企業〈アリュエット・セキュリティ・サービス〉に入社後、対テロ多国籍軍に参加。高い戦闘スキルと的確な戦術連携、冷静な戦況
「これ以上の軍事費増大は防ぎたいところだが、アメリカは責任を感じて
ニンバスは『機械によって構成される軍隊が人類の敵になる』という危険性を完全に排除したわけではない。しかし、現実プロビデンスの
「
ニンバスにとって、今は機械よりも人間の方が恐ろしかった。ブラックレインボーの
「早くこの
《世界企業連盟 代表企業》
・アリュエット・マイティ・サービス(世界最大のグループ企業) Aluette Mighty Service
・フィセム社(グループ企業) Phisem corporation
・トクロス社 ToX corporation
・アダマス・ハイ・インダストリーズ Adamas High Industries
・ウィドー・ファイア・アームズ Widow Fire Arms
・クローバー・グローバル・トランスポート(グループ企業) Clover Global Transport
・ユーカー・バイオテクノロジー Euchre Biotechnology
※グループ企業と表記がある企業は相当数の
※国連常備軍にはアダマス・ハイ・インダストリーズ、ウィドー・ファイア・アームズ、アリュエット・マイティ・サービス等の製品が制式採用されているため、一部世間から国連談合企業、国連談合連盟と
世界企業連盟は資本主義の究極的な結果とも言える。大企業が生き残り、中小企業は吸収されるか、倒産するか。大企業はさらなる利益追求と規制回避のために、同じく大企業と手を組むことにしたのだ。当然、競合することもあるが、最終的には買収されるだけと考え、会社の看板よりも利益のためと割り切っていた。企業統合化の流れだった。より大企業は成長し、世界企業連盟は国際社会に恐ろしい程の影響力を持つようになっていた。
《国連常備軍(無人統合軍)》
アダマス・ハイ・インダストリーズ(AHI)社製のアンドロイド兵を主力とした無人兵器からなる軍隊である。無人地上兵器、無人航空機の他、無人機動艦隊、無人潜水艦隊も存在する。これは無人兵器のみで目的地への部隊展開
〈某国、某所〉
「どうやら井口は本当の事を言っていたようだ。私としたことが初期対応を大きく誤った」
ブラックレインボーのボスは紙の報告書を読み終え、義眼からジョーカーと生き残っている全部門のキング、クイーンを呼び出した。音声伝達モード。
「私だ。インドでのテストを急げ。データさえあればナノマシンの量産は後からでも可能だ。スペード、ダイヤには追加指令を出す。日本への報復を準備せよ。このまま
スペードのキングから報告を受けたボスは、ようやく足下で動き回る敵の正体を知った。相手は中華連の505機関でも、イスラエルのモサドでも、イギリスのゼニスでも、ロシアの
日本の公安だ。それも国家特別公安局の非公式組織、公安零課。
「まさか日本の公安組織が〈サイファー〉だったとは。そして……」
デスクの上には零のホログラム映像が映し出されていた。映像データを構築、送信。
「この女〈アイリーン〉を組織の最重要ターゲットとする。発見
ボスは最高幹部らに要件を伝達した後、椅子から立ち上がった。分厚い報告書を手にし、
報告書は
〈パキスタン国境付近〉
ボスから送られてきたデータにジョーカーは目を通した。零の顔を彼は知っている。33年前、ある場所で見たことがあった。その記憶に間違いはない。彼は当時、義体ではなく生身の肉体を持ち、天才科学者として仕事をこなしていた。そう人間として。
だが、彼はかつての自分を捨てた。今はブラックレインボーのジョーカーであり、それ以外の何者でもない。
「死なない人間なぞ、この世に存在してはならない」
驚くべきことに零の姿は当時と全く変わっていなかった。
「
ブラックレインボーは次なる作戦〝レクイエム〟へと歩を進めることになった。
《アイリーンに関する第三次報告書》エマーソン・ブラウン
言わずもがな世界を動かす秘密組織『サイファー(Xipher)』はその存在が単なる伝説として、
結果として
〈対象〉:アイリーン(Irene)
〈機密分類〉:最高機密(Top secret)
〈アクセス制限〉:レベル10
〈異名〉:「シェイド(Shade)」「ハデス(Hades)」「シェオル(Sheol)」「バンシー(Banshee)」*Shade(シェイド)のアナグラムでHades(ハデス)
〈氏名〉:不明
〈性別〉:女性
〈国籍〉:不明(日本と思われる)
〈生年月日〉:不明
〈年齢〉:×××~××××
〈血液型〉:O型
〈身長〉:167.2cm
〈体重〉:不明
〈所属〉:日本国家特別公安局第零課(Xipher)
〈容姿〉:妖艶な黒髪を持ち容姿端麗。左目の目尻に泣きぼくろ。
〈利き手〉:両利き(本来はおそらく左利き)
〈備考〉:複数の偽名、異名を持つ。ありとあらゆる乗り物、銃火器、武術、道具に精通しているだけでなく、それらの
〈推測〉:いわゆる零課が古代日本の裏で
『エルダーズ・ノート(Elders' note)』
CIA最高機密文書ファイルの総称。
〈シェイド〉
警告!
本項はモータル・シークレットです!
繰り返します。本項はモータル・シークレットです。
マスターキーパー以外のアクセスは例外なく拒否されます。
マスターキーパー以外のアクセスは例外なく不正アクセスとみなされます。
なお、マスターキーパーであっても
また、情報を
機密分類:モータル・シークレット(Mortal secret)
初登録:02/02/1951
最終更新:05/16/2015
対象:九條 ミサキ(KUZYO Misaki)*偽名と思われる
異名:「シェイド(Shade)」「ハデス(Hades)」「シェオル(Sheol)」
危険度:ネメシス(Nemesis)*
国籍:不明(日系人と推測される)
性別:女性
年齢:不明(容姿は30代~40代)
身長:約167cm
体重:不明
職業:賞金
特記:裏の世界において賞金
*モータル・シークレットは最高機密の中でも、
〈日本、広島県(公安局本部)〉
零と一の報告に基づき、電子戦要員の由恵が情報収集を
「由恵、この情報全て間違いないか?」
パソコンに表示されている画面を見て、武佐はその内容に疑問を
『はい。間違いありません。世界企業連盟の内部にブラックレインボーが
《フィセム・アフリカ 支社長》
女性 イリーナ・ヴァイオレット(ハートのキング)
《アダマス・ハイ・インダストリーズ 最高経営責任者》
男性 タルゴ・ブルーウェル(ダイヤのキングと推測される)
《クローバー・グローバル・トランスポート 最高経営責任者》
男性 ミラー・レッドフィールド(クラブのキングと推測される)
《トクロス社 技術開発部
女性 リン・シエナ(ハートの幹部と推測される)
《アリュエット・マイティ・サービス 最高情報責任者》
男性 ディーペル・シーモス(ダイヤの幹部と推測される)
「分かった。報告ご苦労。すぐに公安局と関係部署で対応を進めよう」
由恵とのUCG通信を終え、次に零を呼び出す。
『はい、課長。伊波です』
零と一、響の三人はナミビアでの任務を無事終え、国防海軍の艦船でソマリアからインドに向かっていた。
「ナミビアでの任務はよくやった。先ほど由恵から例のデータを
『私の言っていた通りでしょう?』
「ああ。ブラックレインボーの背後に世界企業連盟か……こいつは非常に
『それだけならいいけど、おそらく国連にもブラックレインボーの息がかかっている。アメリカが飲み込まれるのは時間の問題ね』
「零、なるべく彼らにも手を貸してやってくれ」
『了解。ただし間に合えば、だけど』
〈時刻2408時。インド、ムンバイ〉
インド亜大陸に位置する連邦共和国制国家、インド共和国。ロボット産業と情報産業が
インド国内では人の性格が変わってしまうという謎の病が流行っている。そのため、トクロス社によるナノマシン
「隊長、こちら菅田です」
『こちら伊波。感度良好。送れ』
「サンタクルズ空軍基地でクローバー・グローバル・トランスポートの輸送機を確認しました」
深夜のムンバイ。直樹のUCGにはクローバー・グローバル・トランスポート社のロゴが入った軍用大型輸送機SC‐3が映っている。少し横に目を
『おそらくその機体だ。確認しろ』
SC‐3はたった今、着陸したばかり。機体後部のハッチが開いていく。
「こちら滝。輸送機から車両が降りてきた。1、2、3、4。全部で四台。二台目、三台目のロゴはトクロス。前後二台はASS。護衛車両と思われる」
「こちら鶴間。車両はフィセム社のもので間違いないですね。ロゴはフィセムからトクロスに、ナンバーも変わっていますけど」
由恵は事前に響から
『やはりそうか。連中が輸送しているのはミストかブレインシェイカーか、その両方かは分からない。だが、中身は間違いなくナノマシン兵器だ。絶対に確保しろ』
「「「了解」」」
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