スカベンジャー 後編
〈時刻1402時。日本、東京都・埼玉県〉
国防陸軍
メディアや一般人の写真撮影、インターネットへの情報拡散を避けるため、
今現在、各報道機関やネットニュースに基地の情報は上がっていない。仮に上がったとしても国防省は屋外特別訓練とでも言い訳するだろう。問題は負傷あるいは死亡した隊員についてだ。どう事後処理するのか、それが難しい問題になるはずだ。訓練中の事故死が可能性としては
「相手は軍の
C‐MATV(Compact high mobility Multipurpose All-Terrain Vehicle:全地形対応小型高機動多用途車)に乗って、零課のメンバーは
C‐MATVは4×4
「隊長、結構やばい件ですよね? もし国民に知られたら反政府、反国防軍運動が
C‐MATVを運転している直樹。彼は自分の思ったことを助手席の零に言った。
直樹は広島県警HRT(Hostage Rescue Team:人質救出チーム)の出身であり、零に
その零はいつもと変わらない表情でUCGのマップ情報を見ている。
「そうならないようにするのが我々の仕事。それに、ブレインシェイカーの
軍から出動要請を受けているのに、軍を信用するなというのはどういう意味なのか。直樹はすぐに理解できず、零に尋ねた。
「それって、どういうことですか?」
二人の会話は後部座席の珠子、
「ブレインシェイカーの国内
「言われてみれば確かに。隊長の言う通りですね。特戦の身に何か起こったんでしょうか……不気味ですね」
零課の車両二台が
「公安零課だ」
零は窓を下ろし、守衛に国家特別公安局の手帳を見せる。手帳といっても
「お待ちしておりました。伊波隊長」
UCGのスキャンでデジタルデータがインターフェイスに表示される。
〈国家特別公安局 第零課〉
National Special Security Agency Section 0
・役職:国家最上級特務情報調査官
Chief special officer of National intelligence and research
・氏名:伊波 零
INAMI Rei
「ゲートを開けろ」
小銃を肩からぶら下げている守衛はもう一人の守衛にゲートを開けるよう伝える。
テロリストによる車両突入を想定された防壁ゲートが右にスライドしていく。それと連動して地面から
車両が通れるようになると、守衛が中へ入るように
基地内から発砲音は聞こえない。零課の車両はそのまま降車地点に向かう。
零は窓の外を見た。いくつかの道路や小道は防弾盾を持った兵士達、陸戦支援ドローン、装甲車などによって完全に封鎖されている。また敵の狙撃位置を特定するための集音マイクと狙撃手位置解析装置が要所に設置され、
基地の中は別世界だ。
日本とは不釣り合いな戦場、日本人の嫌いな死の臭い。
生きるか死ぬか。
強いものが生き残り、弱いものは死ぬだけ。
皮肉なことにここは一番命の
『おいおい、基地内で戦争かよ』
響が静かに声を
「あそこが降車地点だ」
降車地点には武装した味方兵士が四人。零課は彼らから最新の情報を得ることになっていた。事は
「よし、降りるぞ」
零課員は周囲を
「状況は?」
UCGには味方兵士の名前が水色で表示されている。零は一番階級が高い
「現在、敵の総数は54人です。こちらの負傷者数は58。死者37。十二分前には攻撃隊に
三か所、赤い三角マークがUCGの立体マップに表示される。屋内に二つ、屋外に一つ。通常、国防軍の観測手は狙撃手の
「やはりスナイパーがいるのか。攻撃隊が
「現在、第803特戦中隊はここより南南西250メートル先、第四訓練棟に本部を構え、防御陣を
さらにホログラムマップには大体の敵位置が表示される。相手は中隊ということもあり、兵士の数は多い。ほとんど死角のない配置になっている。
「待て、本部? 本部だと?」
零が言いたかったことを一が
「はい。通信機器と武器、弾薬を集めているのが目撃されています。さらに基地内には敵の電波妨害装置、広域ドローンジャマー、対光学迷彩用の超音波反響式自動機銃が展開されています。おそらく、他にも対光学迷彩兵器やトラップが仕掛けられているかと」
黙って話を聞いていた直樹がここで口を
「相手はブレインシェイカーに
「
そのような情報を零課は聞いたことがない。もしその情報が本当だとしたら、ブレインシェイカー中毒者達は犯罪行為を働いている
「その話を誰から聞いた?」
疑問に思った一は少尉に
「
後で
「それは
中佐へのお
「ドローンジャマーがあるうちはクロウが使えない。ステルス・スキャナーもあると考え、光学迷彩の使用は
「了解!」
零以外のメンバーが答えた。全員始末というのは任務として
戦場では相手を生かすということが、殺すということよりも
「こちら滝、前方40メートル先、交差点にAWセントリーガン一台とサイボーグ兵四人を確認」
珠子の偵察報告がヘッドセットから聞こえる。UCG上でも敵の位置情報が更新され、セントリーガンの予測有効射程と探知範囲が表示された。セントリーガンは各種センサーにより敵を自動で、正確に、
サイボーグ兵は特戦の兵士達だ。彼らは全身義体化がされており、高密度の人工筋肉で生身の肉体を
「
交差点のど真ん中で
「いえ、今のところありませんが、待ってください」
建物の陰に隠れながら、珠子は光学迷彩機能がある光ファイバースコープを使っていた。ファイバースコープは地面を
これは対人・対ドローン用に開発されたセントリーガンの弱点でもあった。セントリーガンはセンサー得られた様々な情報を処理して、自身が狙うべき標的かどうかを判断する。特に大きさ、
「やはり何もないです」
「とすると交差点よりも奥に
狙撃手がいそうな建物はいくつもある。確かめたいのは山々だが、狙撃手を探すため、今隠れている建物の陰から顔を出せば撃ち抜かれる可能性もある。回り込んだとしても同じことだろう。向江少尉の情報では前線防衛としてサイボーグ、セントリーガン、対人トラップが、後方支援要員としてスナイパーが
「穴がないな。うかつに動くことはできない。空中からの陽動か奇襲でもできれば、話は違うんだが。一、そっちはどうだ? ドローンジャマーを見つけられないか?」
『第二
「シールドか。こっちのセントリーガンにも付いているだろうな」
『隊長、敵には死角がない。このままじゃ
健は一に言われ、すぐにDf‐3デコイを手にした。Df‐3デコイは見た目がただの
『了解。デコイの準備よし』
『俺はスモークを張る。ブライ、お前のタイミングでいくぞ』
ブライの愛称で呼ばれるのは零課狙撃担当のブライアン。彼の祖父はフランス人、祖母は日系アメリカ人、父親が日本人だ。ブライアンは零課実動部隊の中では狙撃手を担当し、その狙撃の腕前は零に
彼はマークスマンライフル仕様のNXF‐09を構え、熱源感知モードに切り替えた。スコープ内の映像がサーモ表示へと変わり、周囲よりも温度が高いものは黄色、赤色で強調される。熱を持つセントリーガンやサイボーグの姿は黄色。
『了解。スリーカウントでいく。3、2、1、ゴー』
一の手からQ22スモークグレネードが、健の手からDf‐3デコイが投げられた。
スモークグレネードが爆発し、
ブライアンはセントリーガンをそれぞれ二発で確実に無力化し、それを確認した一と健がツーマンセルで、一気に
―敵だ! 敵がいるぞ!
―
一と健は
「くそ、撃ちまくりやがって。どうしようもねえな。しょうがない、こいつでいくか」
一は右手に持ったN3特殊
フラッシュバンは敵を傷付けることなく、
「いくぞ」
一がフラッシュバンの安全ピンを引き抜き、奥に投げ入れる。
バンッ!
まばゆい
フラッシュバンが起爆したと同時に二人は奥へ進み、目が
―エコー2、どうした? 応答しろ。こちらCP。エコー2、応答せよ。
「増援が来るぞ。急げ」
ドローンジャマーに向かって一は銃に残っていた弾を全て撃ち、マガジンを交換する。
「隊長、ジャマーは破壊した。これより移動する」
「よくやったぞ、一。スフル、ビル。偵察を開始しろ。特に
一の報告を聞いた零はすぐにクロウ達を呼んだ。
『了解。いくぞ、ビル』
『僕は初仕事だ。わくわくする』
とある建物屋上の
ビルの言葉を聞いた時、零は違和感があった。AIである彼らに
『隊長、偵察完了しました。スナイパーとスポッターの位置を黄色で表示します』
「よし、いいぞ。やはり、奥の建物にスナイパーとスポッターいるのか」
『隊長、ブライがポイント・デルタ3の連中を始末した。そちらに増援が向かっている』
「了解。真川、ポイント・チャーリー1のスナイパーとスポッターを。菅田、珠子、二人は二時の方向から来る増援部隊をやれ。私が前のセントリーガンと兵士を相手にする」
零は背中の収納スペースに銃を固定し、近接戦闘の準備を行う。
「こちら伊波。出るぞ」
零が物陰から飛び出した瞬間、セントリーガンの砲身が高速回転を始め、毎秒百発という速度で弾が発射される。それを零は戦闘スーツによる身体強化、持ち前の反射神経を
―何だ!
サイボーグ四人も零に気付き、発砲を開始するが、
零の両手首の下には小型の超高周波ナイフが備えられている。隠しナイフだ。
零はセントリーガンに接近した後、まるで抜刀するかのように左手首下のナイフで一気にセントリーガンを切断したのだった。予想を
射撃から近接格闘戦へ移行しようとするサイボーグ兵士達。彼らのその判断は間違ってはいなかったが、零の上段回転
二時の方向から敵の増援部隊。直樹と珠子が抑えていたのだが、どうやら更なる増援が来たようだ。弾丸が次々と飛来する。
「菅田、珠子、ポイント・ブラボー7から敵を
そういうと零は
―CP、こちらオスカー4。倉庫屋上に敵を発見。
―撃て。
―くそっ。三時の方向に新手だ。後退しろ。
零の姿を視認した敵部隊は銃を撃ち始めるが、進と珠子が別の場所から射撃してきたため、敵部隊は即座に後退する。
「山彦、そちらに敵が回る。私が追い立てるから対処しろ」
『了解』
敵の銃撃をものともせず、零は倉庫の上から撃ち続ける。彼女の射撃は
問題なのは、やはりブレインシェイカー中毒者らが正常な思考と判断力を有している。さらに気になるのは、サイボーグでもブレインシェイカーの中毒症状が出るということだ。根本的な話で、そもそも特戦が本当にブレインシェイカーに
『第四訓練所からウルフが五体来ます』
スフルからの報告。皆のUCG情報が更新される。明らかに今までの移動速度と違うものが五つ。自律機動型陸戦支援ユニット・ブルータルウルフG3だ。閉所での偵察
『ちっ』
響は銃の引き金を引き、接近するウルフの
『おいおい、ウルフかよ。そんなのアリか?』
ウルフのチェーンガンによる猛攻を避けるため、とっさに一は第二兵舎へ窓から飛び込んだ。正面からやり合って勝てる相手ではない。機動力はサイボーグをも上回る。次にウルフが取る行動はおそらくグレネードランチャーで兵舎を吹き飛ばす。それを理解していた一はすぐに裏口へ向かった。ここに
(ん? あれ? 来ないな?)
が、爆発は予想に反して起こらなかった。
『
グレネードランチャーをまさに撃とうとしていたウルフに向かって、健は撃ちまくり、ウルフは穴だらけになる。一を狙っていたウルフは機能を停止し、
『藤崎か。サンキュ。危うくケツの穴が増えるかと思ったぜ』
「ウルフ……ロックはしていたんじゃないのか。いや、連中が中身を書き換えたのか。さすがだな」
軍は特戦が基地内の無人機を使用しないようにロックし、起動パスコードを変更、敵味方の識別情報も更新済み。そのままウルフを特戦が使用できるはずがない。しかし、特戦は軍の対抗
ウルフが二体、倉庫の上に飛び上がって来た。二体来たということは特戦にとって零は危険度が高い、優先目標ということだろう。
「犬にはしつけが必要だ」
チェーンガンを
零は身体を一回転させながら、左手で右手首の隠しナイフを引き抜き、ワイヤーが刺さったウルフの首を切り落とした。と同時に右隣のウルフに、左腕が向いた瞬間、
「さて、あと一体はどこかしら」
床に刺さっている銀色の小物体を回収する。零の暗器は隠しナイフ、ワイヤーだけでない。左手ガントレットにはスライサーディスクと呼ばれる、小型の超高周波手裏剣を射出する装置が装着されている。スライサーディスクはUCGとリンクしており、標的を個別に
『こちら滝。隊長、最後のウルフを撃破しました』
「了解。これでウルフは全滅した。敵の
第四訓練所。三階建ての訓練施設で、内部は立て
「タンゴダウン」
零達第一班は第四訓練所の一階エントランス前の
零と進は銃を構えている右腕を正確にそれぞれ射抜き、痛みで
「よし、正面クリア。真川は私と一緒に来い。菅田と珠子はここで周囲
『了解。位置に付く』
基地兵士の情報によると、第803特別戦術
実におぞましい光景だ。
その場にいた兵士達は意味が分からなかったはずだ。
疑問は
なぜ、味方を撃つのかと。
なぜ、同士を撃つのかと。
なぜ、信じていた者に撃たれなければならないのかと。
なぜ、味方を撃たなければならないのかと。
建物の壁に
「真川、このマガジンを使え。私はこっちでやる」
零は進にNXF‐09のマガジンを一つ渡した。彼女はCQB(近接接近戦闘)に
NXA‐05はNXF‐09の
「こちら伊波。屋上に到達した」
『了解。こちら井凪、第二班。いつでも突入できる』
「クロウの偵察情報によると、内部に対人トラップはない。両班ともブラインドグレネード
スフルは建物の上を飛び、ビルは屋上の柵に止まることで建物内のスキャンを実行している。心配事だった対人トラップ類は確認できない。
「総員、光学迷彩を起動。よし、突入!」
第一班、第二班ともにE4ブラインドグレネードを中に
ピュイン
―ぐっああ……
―E、EMPだと……
ブラインドグレネードによって、突入口付近の待ち伏せ部隊は倒れ込み、抵抗する
サイボーグの身体からは半透明の血液が流れ出る。軍用の人工血液だ。これには色素ヘムが含まれていない。長期保存が可能で、なおかつ血液型に左右されない。ナノマシンが赤血球の
―何者だ! うっ……
―光学迷彩!?
「次」
零は二丁拳銃をまるで自分の手足の
「真川、左だ!」
進が左の部屋の残党を、零が右の部屋の残党を始末。
「この階にはあと五人」
クロウのスキャンにより敵の位置情報がUCGに表示されている。
「二つ先、右の部屋だ」
「了解」
進の右手から部屋の中にブラインドグレネードが投げ込まれた。
「行くぞ」
部屋にはブラインドグレネードで身体の動きがぎこちない、五人のサイボーグ兵。彼らは何とかして銃を構えようとするが、それは不可能だった。
―お、お前達は……
目の前に立つ人間の
フルフェイスで相手の顔は分からないが、零ははっきりと目が合ったのを感じた。
「悪いが仕事だ」
サイボーグ兵の
その証拠に彼の頭が再び上がってくることはなかった。
「こちら零。三階クリア」
『こちら一。一階クリア』
一からの一階制圧の報告が入る。
「残りは二階か……」
敵の残りは二階のCQB(Close Quarters Battle:近接戦闘)訓練室。動きはない。
「一、私達が先行する。真川、カバーしろ」
「ラジャー」
周囲を確認後、零はNXA‐05のマガジンを新しいものと交換し、古いマガジンを弾薬ポーチに入れた。
「こちら伊波、前進を再開する」
目的地のすぐ近くまで来た零と進。ハンドジェスチャーで後方の進に「止まれ」と伝えた。それに従い、後ろの進は足を止めた。中から殺気が伝わって来る。UCGには敵の姿がはっきり映っていた。敵は銃を構え、引き金に指をかけて待っている。このまま行けば
そこで零は「フラッシュバン」の合図を進に出した。それを視認した進が部屋の中へフラッシュバンを投げ入れる。
起爆後、二人は
部屋にはSMGを構えた盾兵三人が中央前列に、後列左右には
銃弾が飛び
「二階クリア。敵の全滅を確認。生存者なし。真川、
「大丈夫です。どこも撃たれてはいません」
「そうか。それは何よりだ」
零は何か情報を得られないか、周囲を見渡した。
「本当に彼らは汚染されていたのか……クロウ、特戦の死体から血液サンプルと生体組織片を回収しろ。もしかしたら、何か分かるかもしれない。本部で調べよう」
『了解。それでは回収してきます』
『採血、行ってきます』
建物の外にいたスフルとビルは近くの死体に寄り、それぞれ大きく自分の口を開けた。口の中には注射針のような、長く鋭い採血用の針があり、その針を死体に突き刺す。針に半透明の血液が吸引され、クロウ内部の液体貯蔵庫へ流れ込む。その光景はまるでカラスが死体を
特戦の隊員がブレインシェイカーの中毒者だったのかが、零には判断できなかった。先に述べたようにブレインシェイカーは体内から検出されない。検出する方法がない。そこが従来のドラッグと大きく異なる点だ。戦った限り、彼らは
「こいつは
部屋の
「隊長、これを」
一が零に携帯端末を渡した。画面が薄黒い血で汚れている。
「これは?」
「香川中佐のだ。中身はまだ生きている」
そう。この端末は戦死した香川中佐の端末だった。パスワードにより電子ロックされているが、本体は生きている。
「ということは、中にブレインシェイカーの情報があるかもしれない。課長、映像データの入ったメモリーカードと香川中佐の携帯端末を入手。本部で解析します」
『了解だ。後始末は軍に任せて戻ってこい。今回の事件、何か裏がありそうでな。どうも嫌な予感がする』
「井口少将と香川中佐の裏を調べれば何か出てくると思います。全員、車に戻るぞ。菅田、珠子、今から建物を出る。撃つなよ」
その光景を見ながら零達はC‐MATVに乗り込む。座席は来た時と同じだ。
「今回の任務、きつかったな」
『
直樹と一がそういうのも無理はない。本来は
「全員乗ったな。よし、車を出せ」
皆が乗車したのを確認すると、零は直樹に発車するよう命令した。C‐MATVが動き出し、来た道を引き返す。
「スフル、ビル、帰るわよ」
『了解』
クロウ達は空を飛びながら、車の後をつけて来る。クロウはサテライト太陽光発電によるワイヤレス充電、体毛での太陽光発電・太陽熱発電を行うことができるため、長時間起動していても問題はない。
「隊長、俺は彼らが汚染されているようには
車を運転している直樹の声はいつもよりも小さかった。疲労もあるだろうが、精神的なダメージの方が大きいだろう。
「ああ、同感だ。少尉が言っていた話を
医療用ナノマシンには
「彼らは二年前に共同演習をした時と何ら変わらないように見えた。そんな彼らが
「公安零課だ。ゲートを開けてくれ」
国家特別公安局の手帳を示し、守衛は本物であることを確認した。
「ハッ。ゲートを開放しろ」
守衛は少し疲れた様子だった。
ゲートが右にスライドしていき、侵入車両防止ポールが地面に収納されていく。本日、二度目の光景だ。少々時間がかかるがこればかりは仕方がない。
「おい、ちょっと待て!」
突然、前から装甲バンが突っ込んできたのだ。
「何だよ、いったい!?」
これには直樹も驚きを隠せない。
「山彦、菅田、下がれ!」
零が二人に車を後退させるよう即指示した。ただの暴走車という雰囲気ではない。
「いっ!?」
直樹はさらに驚く光景を見た。不審車の窓から
「伏せろ!」
零の言葉とほぼ同時に銃弾が飛んできた。敵の銃撃だ。C‐MATVのフロントガラスは防弾だが、撃たれ続ければいつかは割れる。過度に信用することはできない。
『こいつら、505を暗殺した連中と同じ
一が言う通り、今撃ってきている連中は、中華連第505機関の工作員を暗殺した集団と装備が
「菅田、しっかり運転しろ。私が撃ち返す」
零は足元の
零から見て左側後部座席の敵がマガジンの交換を始めた。
その瞬間を待っていた零は窓から腕を出し、敵に向かって発砲。二発がフロントガラスに、一発が敵の頭部に、一発がタイヤに命中した。
しかし敵車両のフロントガラスは予想通り防弾仕様。さらにタイヤも防弾仕様だ。ハンドガンではびくともしない。
「何者なんだよ、あいつらは!」
「分からない。
バックしながら二台のC‐MATVは別々に敵の追跡を振り切ろうと
直樹の
「クロウ、プランBを実行しろ。被害を
『了解です』
零の言葉を聞き、ビルは警視庁にSATの緊急出動を要請した。
『まるで俺達が特戦にやられなかったから、襲いに来たかのような登場だな』
二班のブライアンも
『山彦! そこの鉄塔に奴らをぶつけろ!』
一の言葉を受けて、響はハンドルを左に切り返し、敵車両を通信塔へ突っ込ませた。
『よっしゃ。このまま反撃に出るぞ』
通信の内容から第二班の方は状況打開に成功したようだ。続いて銃声が聞こえる。
零も何とかこの状況を打開しようと考えていた。
「菅田、このまま後退して
「了解!」
装甲車が収容されている第一
C‐MATVが止まるとすぐに全員がドアを最大まで開いた。銃弾が飛んで来る中、零と直樹は前部ドアの後ろに隠れ、進と珠子は後部ドアの後ろに隠れた。
「銃を構えろ!」
零は素早く体勢を
スライサーディスクが刃を回転させながら、装甲バンの右側前輪のタイヤを引き裂いた。そこでスライサーディスクの勢いは
右側のタイヤを失ったことで装甲バンはバランスを崩し、
「まだ生きているのか。しつこい連中だ」
距離にして約十三メートル。近距離だ。弾の残りが少ない。むやみやたらに撃つことはできない。そんな状況の中、零と珠子が顔を出した敵を二人、それぞれ一発で
「菅田、撃たなくていいぞ。弾の無駄だ」
「分かりました」
相手を狙っていた直樹を制止する零。珠子も、進も、直樹も、そして零も、この戦いがこちら側の勝利であることを確信した。今、この時刻をもって手を下す必要が無くなった。こちらはただ相手の気を引いておけばいい。相手は理解できていないだろう。
もし、理解していれば両手でも挙げるに違いない。
彼らは死ぬ。確実に死ぬ。それはもはや決定された運命だ。
ダンッ!
ダンッ!
二発の銃弾が敵の胸を正確に撃ち抜いた。スナイパーライフルによる狙撃だろう。狙撃手は九時の方向、約170メートル先。
全身黒の
「テロリストは死亡。繰り返す、テロリストは死亡」
SATの突撃班が一気に襲撃犯達の元に走り寄り、死亡を確認する。隊員達は黒のバリスティック・ヘルメットに
襲撃犯を
「SATだ。ふぅ」
珠子はSATの登場に安心して思わず息を
「珠子、それは違うぞ。彼らは正確にはSATではない」
「えっ? どういう意味ですか、隊長?」
「彼らも
零の言葉を理解できない珠子。珠子は警察庁警備局警備企画課(八課)の出身で、零課には比較的新しく入ってきた方だ。HRT出身で、新しい零課員である直樹も理解できていない。
「?」
「あ、本当だ。この人達は零課なんですね」
直樹はUCGでSATの反応を確認し、零の言葉を理解した。それとは対照的に珠子はまだよく分かっていない。
「そうよ。UCG上で零課員は緑色、それ以外の味方は水色」
「え、それは分かっていますけど……どこからどう見てもSATなのに、同じ仲間なんですか?」
「紹介しよう。彼らは警視庁特殊部隊SATの第零小隊。表向きというのも変だがSATの秘密小隊で、本当の所属としては零課になる。主に国内任務の支援をし、彼が小隊長の
一人のSAT隊員が零の左横に立ち、直樹達へ敬礼した。
「はい。伊波隊長の言う通り、我々は皆さんと同じ零課に所属しています。
久藤は敬礼を終え、現場の保護と警視庁への連絡を開始した。
「零課って、やっぱりすごいところだ」
新しい車両に向かって零達は歩き出す。直樹は歩きながら、さっきの久藤の言葉を思い出していた。まさか、警視庁SATに秘密部隊がいて、さらにそれが零課の身内とは。
「確かにすごいところだわ、零課は」
珠子も驚きから離れられない。自分が
「そういう
直樹と珠子に対して零が言葉を返す。進はこのことを知っていたので、二人のように驚くことはない。そのため、驚く二人の姿を見て内心楽しんでいた。零課に関する内容は例外なく
「さて。一、そっちはどう?」
『こっちも終わったところだ。ただ、車がおしゃかになったのは
「久藤が車両を用意している。そこで合流しよう」
『了解。足があって助かった。てっきり徒歩かと思ったぜ』
「お前だけ徒歩でもいいんだぞ」
『え、そいつはマジで
零と一の会話を聞いていた皆が
〈公安局本部〉
「隊長、香川中佐の端末からデータを取り出せたよ。これだ」
開発室のケナンが香川中佐の端末データを取り出すことに成功した。椅子に座ったまま、ケナンは零にPCの画面を見せる。香川中佐の端末は軍用だったが、国防省の情報部よりかはセキュリティが甘かったらしい。わずか一時間でケナンは様々な記録を掘り起こしていた。
「これは?」
零はケナンの右隣の席に座り、画面を指さした。
「香川中佐と井口少将の通話記録。軍用回線を使ったね。で、この日付の、ここを見て欲しい」
日付は今年のもの。それも井口少将暗殺任務の二日前のものだ。
「
「いえ。違います。ここにある
ケナンが補足した。井口少将は中華連でも零課でもない、第三の組織から命を狙われているという
「それはどういうこと? 井口の背後は中華連ではなかったのか?」
「違うみたいで。多分、最初彼は505機関の保護を受けて、中華連に高跳びする算段だったんだろうね。でも、その筋道が途絶えたから身内に助けを求めたっぽい。それも上手くいかなかったようだけど」
「六課が国防省へ先に
「確かに。保身に走った
「問題は第三の組織の存在だ。その第三の組織はほぼ間違いなく、スパイの暗殺と
ここでケナンはブレインシェイカーに関する資料を画面に表示する。
「ブレインシェイカーについてはまだ調査している。それらしい化合物とか出てきてないんだよね。念のために微生物学的検査もしている。ただ、ブレインシェイカー中毒者の脳内シナプスを調べてみると、やはり典型的なドラッグ中毒者に見られるドーパミン異常の
「特戦の脳はどうだった?」
「サイボーグ化しているから、そのまま生身の人間と比較することはできないけど、やはり脳内ではドーパミンの
「それはおかしいな」
「そうなんだよねえ。ナノマシンが投与されているはずのサイボーグで、このような神経伝達物質の異常が起こること自体、普通あり得ない。考えられる一番の要因はナノマシンが機能しなかった。ブレインシェイカーはナノマシンを破壊して、興奮作用をもたらすものかもしれない」
零は何かが引っかかっていた。ブレインシェイカー中毒者から薬物は検出されず、おまけにサイボーグでも作用する。体内に存在するナノマシンを化合物が破壊するというのは現実的ではない。しかし現実として他のドラッグと同様、脳へ作用している。
ここから考えだされる
「いや、待て。
ナノマシンが根源。この考えが零には一番しっくりきた。突拍子もないことだが、ナノマシンがドラッグの正体かもしれない。ナノマシンは厳格な基準に
「ナノマシンそのものが……それは
ケナンは世界中で発生したブレインシェイカー事件の情報を集め、被害者がナノマシン療法を行っていたか、あるいはサイボーグであったのかを調べる。リスト化された名簿が出来上がり、その名簿に対しデータ解析ソフトでフィルターをかけた。
「百パーセントにはなりませんが、98.8%の被害者が体内にナノマシンを有していたようです」
「今の時代、ナノマシン投与は珍しくないからな」
この割合自体に零は驚かなかった。
「ここからさらに共通点を洗っていきます」
ナノマシンの製造元、種類、投与年数、投与期間、投与された医療機関、投与した医師、被害者の国籍、職種、持病、性格、血液型といった、ナノマシンに関する膨大なデータをケナンは整理していく。
「おっと、これは興味深い。必ず含まれている会社が二つ」
「どことどこだ?」
「トクロス社とフィセム社です」
その二つの会社は零も知っている。どちらもナノマシン市場で圧倒的シェアを誇っている多国籍大企業だ。
「製薬大手と軍事大手だな、両方ともここ二十年で急成長した。世界でも有数のナノマシン企業だ」
トクロス社は医療機関向けに
「この二つの会社は確かに多くのナノマシンを作っていますからねぇ。
被害者に投与されていたナノマシンの種類について、ケナンがさらに
「混合ナノマシンが普通だから……ふーむ」
ナノマシンは単一種類だけを投与する事例がほとんどない。通常は数種類のナノマシンを一緒に投与する。さらに、両社のナノマシン・ラインナップは合わせて数百万を軽く超える。これらのことを
「
解析ソフトとナノマシンデータベースを使っているとはいえ、対象となるナノマシンは百万種類を超えているのだ。すぐに答えが出るとは零も思っていない。
「ちょっと時間がかかりますね。データの詳細と事件の全容もまとめたいので十二時間ほど
「時間は
「任せてください。いざとなったら助手を山ほど付けます」
開発室を出て、零は射撃演習場に向かっていた。これは射撃の練習と気分晴らしを
「ナノマシンか……」
ナノマシン、それは零課員にも投与されている。全員ではないが、戦闘スーツを着用する者は例外なく投与されている。これは義務付けられている事項だ。なお零課のナノマシンは既製品ではなく、零課独自のものである。
零課が戦闘スーツ着用者を対象にナノマシンを投与する理由は簡単だ。戦闘スーツを着用すると、徐々に身体がスーツに頼ってしまう。これを
もちろん零課員は自分に合ったナノマシンをそれぞれ投与しており、メンテナンスも零課で行われている。ナノマシンは無くてはならない時代だ。ナノマシンの大量生産、短時間生産の実現は、
そう、技術の発展だ。
世界は上書きされていく。
そんな中、ふと思うのは人類がどこまで突き進むのか、ということだ。
生きることを〈時計の針〉で考える人がいる。時計を進むことは不可逆的な進行(老化)を表し、刻んだ時が人生であるということだ。針が止まった時は死を表している。では今の人々の時計はどうなっているのだろう。
再生医療の発展は人類に新しい時計をもたらした。寿命の延長だ。今まで以上に時針の速度は遅い。そして有機生命体である人類はサイボーグ技術も手に入れた。つまり無機生命体への扉を開いたということだ。このままいけばヒトは情報生命体になるかもしれない。記憶のダウンロード技術や複製技術の研究は
改めて生きるということ考えよう。生きることを〈時計の針〉と
そもそも今日における《生きている》の定義は何か?
人工心臓が高性能になった
では、脳活動があることだろうか?
それも無理がある。
脳死の場合、心臓は動いているからだ。加えてサイボーグ技術あるいはクローン技術を用いれば、脳死、肉体死での死という概念に
では《人間として生きる》とは何なんだろうか。ただ生物として生きることと、人間として生きるということには大きな差があるのも事実だろう。人間は人間としてのプライドがあるからだ。変なプライドだが、そのプライドは人間を語る上では欠かせない。人間は地球で最も
生物にとって《生》は始まりであり、《死》は終わりである。不老不死との呼び声も高い、ベニクラゲは生物としての寿命はないといわれる。成熟した自身の身体を自分で退行させ、未成熟な状態へ若返させる。老化した身体を若い身体にリセットするのだ。だがベニクラゲは被食者である。ベニクラゲにも天敵はいる。そのため
一方、人類は医療の発達によって寿命を伸ばしてきたが、それは《死》へ抵抗するために見える。知識と知恵を武器に、自然を操り、他の生物種を研究し、さらに人類は発展する。天敵と呼ばれる種もいない。しかし《死》への恐怖は別だ。《死》は人類につきまとうことを決して止めない。クローン技術、サイボーグ技術、再生医療、人類はあらゆる手段を
生物が生きていく上で《死》への恐怖は不可欠だ。有機生命体では進化の過程で手に入れたものだろう。《死》があるからこそ、《生》に
現在の地球人口は約87億人。それに対して、食料も住居も労働も何もかもが有限だ。各地では内乱や戦闘が発生し、難民問題について目に触れない日はない。現実は甘くない。少し前まで死んでいた者が生きられる世界……それを無条件に喜ぶことはできないのだ。まさに、今、人類は
どこかで清算することになるかもしれない。そのことから皆は目を
そういえば似たような話を国連で
「……私は長く生き過ぎたな」
零が射撃演習場に入ると先客がいた。射撃レーンから発砲音が聞こえる。一人だ。
おそらく一がいるのだろう。CrF‐3100を愛用しているのは一とブライアンの二人だ。
「お、隊長。
零の予想通り、二番レーンに実弾射撃中の一がいた。彼は訓練用のUCGを身に付けており、零に気が付くと一は銃のセーフティをかけて射撃台に置き、耳当てを外した。零の方を見る。
「隊長も射撃訓練か?」
「ええ、そうよ。ケナンの解析結果を待っているの。時間
射撃演習場ではVR空間による疑似射撃演習と実空間における実弾演習の両方が行える。仮想訓練では高度な環境設定を行うことが可能だ。通常の演習場では難しい気圧、重力、風向、風速、高度、気温、路面温度、湿度、粉じん量等の詳細設定が行える他、水中での射撃、車両搭乗中等の設定も行える。ただ、ここで行えるのは
一の後ろを通り抜け、零は一のレーンより奥の五番レーンへ入る。
「そうか。結果次第では零課も大きく動くことになるな」
彼が使用している銃はCrF‐3100。特殊部隊向けハンドガンで、サイボーグやアンドロイドの使用も
《CrF‐3100》
〈概要〉
世界各国の特殊部隊が使用しているストライカー式自動拳銃。ハンドガン用の様々な弾薬を使用することが可能で直進性に優れるため精度が非常に高い。装弾数は13発+1。
パーツ数は極力少ないように開発されており、
「ブライもそうだけど、どうして
一方、零はNXA‐05を使用する。この銃は零課用に零課で開発されたハンドガンであり、零課員は任務に応じてNXA‐05を携行している。言い換えればNXA‐05を持つ者は零課員だ。
《NXA‐05》
〈概要〉
零課用としてケナンが設計したストライカー式UCP(Universal Combat Pistol:万能戦闘ピストル)。課員に合わせたカスタマイズが
セミオート射撃だけでなく、二点バースト射撃も可能な「クィナズ強化ナノフレーム」で作られている。あらゆる環境下での使用を想定され、初弾速度は当然だが次弾以降も弾速は安定維持されており、高精度な連続射撃を実現化。装弾数は12発+1。対サイボーグ用強装弾、ショック弾、
「そうだなぁ。俺の場合、別に
一は元々、国家特別公安局第六課「内閣
「隊長、勝負しないか?」
「勝負?」
「そうさ。勝った方が
「いいだろう。お前の財布を破産させてやる」
「おおう、おっかねえ」
一は耳当てを再び付け直し、銃のマガジンを交換した。
零もUCGと耳当てを付け、自分のIDカードを射撃台のカードリーダーに通した。射撃台の下にある弾薬ボックスから予備のマガジンを四つ取り出し、射撃台の上に並べる。続けて右サイ・ホルスターから銃を抜き、マンターゲットへ銃口を向けた。
よく警察や軍の演習場で見られる人型の的だが、使用した銃の口径と弾薬、発砲位置からの距離、命中
「準備はいいか?」
「いいぞ」
「よし」
一が射撃台仕切りに埋め込まれたタッチパネルを操作する。メニュー画面を開き、〝射撃訓練|(ハンドガン)〟の項目を選択。続いて自分のいるレーンと零がいるレーンを選択した。
モードは実弾演習のクイックB(ナチュラル)。このモードでの全ターゲット数は60、満点は600、基準スコアは500。リロードタイミングは使用している銃が弾切れになった時点で、わずかな時間自動的に用意される。リロードの回数で減点されることはないが、リロード回数が多いほどリロードミスに
両者のUCGにモード名とカウントダウンが表示される。
『クイックB(ナチュラル)』
『レーン設定完了。開始まで』
『3』
『2』
『1』
零と一は高速で出現するマンターゲットを順に撃っていく。見たところ両者ともにヘッドショットを連続で決めているように思える。
クイックモードB(ナチュラル)では三つのレーンを同時使用する。ターゲットの出現タイミングは一定だが、ターゲットの切り替え間隔が非常に短い。文字通り一瞬だ。あっという間に次のターゲットへ変わるため、挑戦者は広い視野を持ち、
いきなり目の前に出てくることもあれば、奥の方に出ることもあり、同じ場所に出てくることもある。またターゲットが常に真ん中に出てくるとは限らず、左右レーンに現れることもあり、場合によってはマンターゲットが上下反転して出現することもある。
ターゲットの採点については次の通りである。生身ならばヘッドショット判定又はハートショット判定で、サイボーグならばヘッドショット判定
装弾数が1発少ない零がわずか先に一回目のマガジン交換を行い、一息つく
一度のミスも許されないクイックモード。機械の
そうはいっても零と一の様子を見ていては、その難しさも伝わってはこない。見ることと実際にやることには
両者三回目のリロード。コース中盤。やはり二人にリロードでのミスはない。そのリロードテクニックは
四回目のリロード。これが最終リロードであり、挑戦者の踏ん張りどころである。クイック終盤は本人達が意識していなくても集中力が落ちてくるため、終盤にスコアの差が開きやすい。一瞬の判断ミスがその後に大きく響いてしまうのだ。
最後のターゲットが現れる。
二人は今まで
『終了』
『採点結果』
『井凪 一:582.797 Excellent』
『伊波 零:600.000 Perfect』
『勝者:伊波 零』
射撃レーンの
そもそも銃の性質上、満点を取ることは普通できない。銃は短時間に撃ち続けることで銃口が高熱を
一も負けたとはいえ、基準スコアの500点を82点以上上回る超高得点だ。普通の警察官や軍人ではこのような成績は出せない。加えて零課の中央スコア576.496を上回っている。このことから一の射撃技術も十分
採点結果を見た一は「ヒュー」と口笛を
「マジかよ。はあ
このスコアに一は驚くしかなかった。他の射撃訓練モードでも満点スコアを取った者は零以外におらず、いかに零の射撃技術が正確無比なのかを客観的に示していた。
「くっそ、あり得ねえ。毎度毎度、よく満点を取るよな。今回も俺のおごりだ。隊長、何をご
完全無欠にして人間の域を超えた存在、一が零に対して持つ
「そうね。寿司がいい」
しかし、同時にこんなくだらない勝負に毎回付き合ってくれる零は
「寿司か。いつものとこでいいか?」
「ええ。ごちそうになるわ」
銃をホルスターにしまい、耳当てを外した零は左手を振りながら射撃演習場を後にした。
追いつけない背中だと見せつけられながらも、なぜかその背中に一は追いつけそうな気がした。根拠はまるで無いのだが。追いつけそうな気がするからこそ。一はその背中を目指し、いつか必ず追い抜いてやると胸に秘めていた。
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