Black-rainbow
ブラックレインボー 前編
〈時刻1035時。日本、
首都
地上30階、地下3階の国防省庁舎A棟。対テロを想定し、国防省の正門と裏門には武装警察官の守衛が立ち、三重の侵入車両防止ポールが
「特戦の医療記録はこれか」
一は零課の権限を使い、国防省のとある個室で機密情報を
正直、敵対する可能性が高い国防省がこうもあっさりと情報開示したことに、一は内心驚いていた。協力されることよりも反発されることを
「はあ、こんなところ早くおさらばしてえ。
ここは国防省。軍の
「ナノマシンの投与記録は、っと」
マウスを使い、画面を下へスクロールさせていく。
「これか」
特戦中隊には身体能力の向上、環境ストレスの
「おいおい、これはどういうことだ?」
ナノマシンが特戦に投与された最新の日付は井口少将暗殺の
「井口暗殺の二日前? 通信記録も二日前だった。ここで何かあった可能性は高いな。第三の組織と会談でもしたのか? そこで
井口少将に関する情報を検索する。
「505との直接関係を示すものはないか……そりゃそうか。うん?」
一が目についたのは井口少将が十五年前から和歌山に行っていることだった。
「プライベートで和歌山か。確か十八年前にリゾート型カジノができたんだっけな。それにしても井口の
井口が和歌山県をたびたび訪れていることに一は興味を持った。井口が和歌山に行った回数と日付をさらに調べてみる。
「全部で62回。多いな。ギャンブル好きという話もないし、温泉好きという話もない。これはちょっと
軍の秘密回線で井口はプライベートでも香川と連絡を取り合っていたようだ。そもそも軍の回線を私的で使用することは国防法に反する。軍の機密回線記録が零課に
「二人はこんなに
最高機密を他の組織に知られたくないというのは分かるが、さすがに国内組織であり、国家の
「さて、井口は和歌山のどこに行っていたんだ? 通信時の位置情報を検索。どれどれ。ここは白波マリンポートか。なんでこんなところに井口は寄っていたんだ。ただの
白波マリンポートはカジノ
「白波マリンポートでは八課が犯罪組織に
そのような犯罪組織に一は心当たりがあった。
「ブラックレインボーだ」
世界最大の犯罪シンジケート〝ブラックレインボー〟
各国政府、軍、警察との癒着が強くその活動実態のほとんどが闇に包まれている。巨大な密輸ネットワークを
「ブラックレインボーとか
今まで調べたデータを全て自身の端末に転送する一。
「さて、ついでに香川も見ておくか」
今度は香川中佐の情報を検索する。
記録上は
「なるほどね。軍は
香川中佐の情報を一通り見たが、井口少将ほど
「こちら井凪、隊長、必要な情報は得た。井口について興味深い情報がある」
『そうか。国防省にわざわざ足を運んだ意味はあったということね。データは零課のネットワークを使って送信して』
「了解。今からデータを送信する」
『データを受信した。特戦のナノマシン情報と井口、香川の情報だな。ほう、和歌山の白波マリンポートか……ブラックレインボー、我々の相手はブラックレインボーの可能性大ね。よくやった。得た情報はケナンと由恵が喜ぶだろう。我々にとって非常に価値があるものだ。課長への報告は私がしておく。任務は完了。状況を
「了解。これより大阪のセーフハウスに向かう」
一は駐車場に停めてある
「無事帰ってきたぞ。俺達は先に大阪行きだ」
「お帰りなさい。国防省がここまで協力的とは意外だな」
「ほんと。集団リンチされるかと思っていたからな」
車のエンジンを掛け、直樹は車を駐車場から出した。そのまま正門のセキュリティゲートを通過し、車は国道に出た。
「黒幕がブラックレインボーの可能性が出てきた。ほぼ間違いない。かなーり、
「ブラックレインボー? まさか、あのブラックレインボー?! CIAやSVR、ゼニス、モサド他、世界各国の情報機関がその壊滅を望み挑み続けているが、滅びることなく成長を続ける謎の犯罪シンジケート。三課や六課も追いかけているそうで」
「ああそうだ。多くの国がその影を追い続けているが、切り続けているのはトカゲの
ブラックレインボーの恐ろしさはその勢力範囲だ。ユーラシア大陸にある国々は
「ある意味、情報機関の
「でしょうね。きっと意図したこと、意図していなかったことが複雑に
「
「いつになくアメリカも本気ですね」
「だな。俺らは日本からブラックレインボーをちゃちゃっと追い出さないとな」
〈時刻2325時。日本、和歌山県〉
「こちら伊波。課長、白波マリンポートに到着した」
闇夜を盛大に照らすカジノのまばゆい光が、この場所に来る人々を異国の地にいるような
ブレインシェイカーとは違うが、スリルも麻薬に似たようなものである。人によっては依存してしまい、その身を滅ぼすことになる。勝負に勝った時の快感、興奮を脳に
『こちら宮川。零、八課の報告によるとブラックレインボーの関係者四人が白波マリンホテルの三階にいるそうだ。彼らを生け
「了解。これより作戦を開始。白波マリンホテルに向かう。由恵の情報では作戦区域付近にBCOがいるらしい。
「「「了解」」」
四人は拳銃のマガジンを確認し車から降りた。今回、一達は戦闘スーツではなく、公安六課のエージェントを意識して
「俺、和歌山に来るの初めてなんですけど、和歌山のイメージ全然違いますね」
そういって直樹は周りを見渡した。カジノ客の歓声が中から響いて来る。
「観光は後だ。それにここが特別なだけよ。ラスベガスみたいなもの。油断していると飲まれるぞ」
零は
前に進んでいく零の後ろには一、進が続く。それを見つめる直樹。
「おい、菅田。どうした? 行くぞ」
「あ、はい。すいません」
零に呼ばれて我に返った直樹は小走りで三人の後を追った。
白波マリンホテル。ここは地下の水族館が大きな目玉であり、ホテル宿泊者は無料で入館することができる。また、
「私と直樹は右から、一と真川は左から。スフルは屋上を、ビルは入り口を
『了解』
『アイアイサー』
敵の襲撃を
「あの部屋だ」
三階に
直樹、零、一、進の順で部屋の扉前に移動する。
そして零が先頭にいる直樹の左肩を左手で
突入の合図だ。
直樹は扉の鍵を銃で撃ち開錠。一気に部屋の部屋へ入る。
「公安だ! 全員動くな!」
「なんだ!」
「くそっ! 公安だとっ」
「うそだろ! なんで公安が!」
「両手を頭の上に乗せて、床に伏せろ!」
突然やって来た零達に四人の男達は
銃口を向けられた彼らはすぐに両手を挙げ、抵抗する意志がないことを示し、そのまま床にうつ伏せになった。ただ表情からは本心で協力するつもりがないことも同時に読み取れた。何かやましいことがあるということだ。その証拠にテーブルの上には大量の
「本部、四人とも確保した」
『よくやった』
「進、追跡リングと手錠をかけろ」
進が四人の右足に追跡用リングを装着した。その後、手錠を全員にはめた。これで彼らが逃げることはほぼ不可能だ。
「さて、質問だ。お前達はブラックレインボーの一員だろう? 日本で何をしている?」
零は一番体格の良い男に銃を突きつけ、尋問を開始する。
「ブラックレインボー? 何のことだ?」
尋ねられてから答えるまでにわずかな
「いいか? お前達がブラックレインボーと関わりがないのなら、我々はお前達に用がない。証人ならば保護する義理もあるが、ただのゴロツキに興味はない。これがどういう意味か教えてやろう」
銃口を男の
「罪のない市民を殺すのか?」
「罪のない市民? 笑わせるな。この世界のどこに罪のない市民がいる? 逆に教えてくれないか? 我々も
零の言葉に嘘はない。彼らが仮に一般市民であろうと零は殺すつもりだ。用もない相手に国家特別公安局の動きを知られるのは大変もったいない。零課としては目撃者の口を封じるのが正解だ。
「待て……ブラックレインボーの何が知りたい?」
男は観念して口を開いた。
「まず、お前達は何者だ? ここで何をしている?」
「俺達はブラックレインボーの末端さ。カジノでカモになりそうな金持ちを探し、資金を集めている。あと、カジノの売り上げの一部を巻き上げる。俺達は資金調達班の一つだ」
「いつからブラックレインボーは日本に上陸した?」
「十五年前だと聞いている」
(十五年前、井口が和歌山に定期的に来るようになったのも十五年前。ブラックレインボーが日本で十五年間も活動していたとはな)
「井口という日本人男性は知っているか?」
「いや、知らない。聞いたこともない」
(末端の連中は知らない。ということはやはり幹部クラスに聞くしかない)
「なぜ日本に来た?」
「ドラッグの新しい市場を拡大させるのが目的だとタルゴは言っていた。ただ俺らは薬を
(ブレインシェイカーはブラックレインボーが持ち込んだのかもしれないわね)
「タルゴとは何者だ?」
「資金調達部門ダイヤのリーダーだ」
(資金調達部門か)
「今タルゴはどこにいる?」
「それは知らない。彼を見ることなんてほとんどない」
「嘘をつくな」
「本当だ。俺が見たのは一回だけ。しかも中華連にいた時だ。こっちに来てから見たことはない。そもそも末端の人間は組織に信用されていない。だから仕事以外のことは知らされない」
早口でしゃべる男。どうやら本当にタルゴの
「他のお前達も知らないか?」
一応、零は他の三人の男にも話を振ってみた。だが、全員が首を横に振り、知らないとジェスチャーした。
「他に仲間は?」
「知らない。他の班や部門のことは分からない」
「そうか。とりあえず今聞きたいことは終わった」
「隊長、どうやらお客さんのようだ」
一は左腕にある端末の画面を指でトントン
「右階段だ。上の階から来たようだな。敵は四人」
VE‐88Pアサルトライフルを
一は部屋から少しだけ身体を
―こちらダイヤ3‐2、スペードへ。例の連中が白波マリンホテルに来ている。デニス達が
―了解、ダイヤ3‐2。
―ジョーカーが!?
―そうだ。ジョーカーだ。
「ここから脱出しよう。この場にいるのは危険だ。窓から出るぞ」
一が敵を
「クロウ、周囲の状況は?」
『敵性反応はありません』
「よし。一、なるべく時間を
「了解」
弾数と敵の動きに気を付けながら、一は制圧射撃を続ける。
「真川、菅田。先行してラぺリングだ。急げ」
「ラジャー」
「了解」
ラペリングの準備を始める進と直樹。彼らはユーティリティベルトからワイヤーを取り出し、先端のフックをテラスの柵にかけた。何回かワイヤーを強く引っ張り、フックが外れないかを確認した。
「準備よし」
「こっちもです」
「さて、お前達」
零は
「ここでお友達を待つか? それとも我々と行くか? すぐに決めろ」
「……お前達と行く。どうせ組織には戻れない」
「そうか。
「皆、早くしてくれ。弾がもたな……くそ、裏から二人回って来る」
リロード中、一が端末を見ると反対側の階段に二人敵が回り込んでいた。
「二人とも行け」
零は一のカバーに行くため部屋の中に戻った。
一方、進と直樹は
『クリア。隊長、降りてきてください』
銃弾が飛んで来るタイミングを考えながら、一と零はお
「隊長、先に」
一の言葉を受け、一足先に部屋へ戻る零。その後を追うように一も部屋の中へ下がった。
「来い」
無事、地面に
「追手だ」
進が発砲し、敵の一人を
「よし走れ。ポイント・チャーリー3に移動だ」
「ビル、車を二台こっちに持ってきてくれ」
零達はホテルの中庭を通り抜け、地下のメンテナンス用通路を歩いていた。この通路はホテルや地下水族館の上下水道管、
『了解』
「スフル、敵の位置は?」
『
UCG上には敵の位置を表す赤い三角形のマークが映っている。どうやら彼らは零達が地下に逃げたということを分かっていないようだ。
「このドアだな。クロウ、開けてくれ」
先頭を歩く一。目の前には電子ロックされた扉がある。
ピピッ
暗証番号が認証され、ドアが左右に開く。大抵のセキュリティはクロウのハッキングで突破することができる。どうしてもクロウで突破できない場合は、世界最高の腕前を持つ零課電子戦要員の由恵が突破する。
「お、ちゃんと車が来てるな。あの車、どこから持ってきたんだ?」
元々、零達が最初に乗って来た車は一台だ。もう一台の車は零課のものではない。
『近くにBCOの車があったので
「ぷっ」
「ははっ、そいつは
思いがけないビルの返答に直樹と一が笑ってしまった。BCOのエージェントは今頃、車が盗まれたことに意気消沈しているかもしれない。そのことを想像すると笑わずにはいられない。まさか人工知能であるビルがそんな機転を
『報告。敵の増援と思われる車両が作戦区域に接近』
クロウからの報告。UCGのミニマップが一時的に縮小され、接近してくる車両三台が全員に映し出される。皆は銃を構え、いつでも敵の
「反応が停止したぞ」
敵は白波マリンホテルの前に車を停めたようだ。四つの赤い車両マークが停止する。そして一気に赤いマークの数が増えた。敵が降車したということだ。
「どうやら俺達の
「いや、すぐにばれる。行くぞ」
確かに直樹の言う通り、敵は零達の
「ほら入れ」
それぞれの車の後部トランクに
「よし、車を出せ」
車が走り出す。
ダダダッ
バン、バン
ダダダッ
「銃声?!」
白波マリンホテルの南側で銃声だ。発砲音からするとアサルトライフルとハンドガンだろう。
「BCOと連中がやり合っているようだ」
UCG上では他国エージェントを表す紫色のマーク(BCO)と、敵を表す赤色のマーク(ブラックレインボー)がいがみ合っていた。
『BCOめ、ざまあみやがれ』
そうあざ笑う一の車両のタイヤに弾が命中。バランスを崩し、そのままスリップした。ある意味、
「大丈夫か?」
『くそっ。ツイてないぜ。おまけに流れ弾というわけではなさそうだ。全員降りろ! 狙われてるぞ!』
カンカンカン……
車にいくつも穴が開いていく。残念なことに、BCOのこの車は防弾仕様ではない一般車両のようだ。
『あれだな。三時の方向』
進がすぐに敵へ反撃を行う。その
『トランクの兄ちゃん、ほらっ。出てこい。危ないぞ。頭下げておけ。
何とかトランクの中の
『あいつらは戦闘部門のスペードだ』
『スペード?』
『そうだ。きっと俺も殺される』
『死なせやしねえよ。仕事だからな』
問題なのは敵が正確にこちらを狙っていることだ。このまま逃げ切るのは難しい。何より
「車を止めろ」
「はい」
零は運転席の直樹に言った。それに従い直樹も
「私が援護に行く。お前はこのまま
「しかし隊長……」
その後に言葉は続かなかった。
「
車を降りた零はドアを強く閉め、コートの中から二丁のNXA‐05を取り出す。
「っ、了解」
直樹は零の言葉通り、すぐに車を発進させた。
「またあいつらか」
見た先にいたのは中華連の505機関、
「ちっ、こうなるんだったら
飛んで来る銃弾を側転で回避しながら、両手のNXA‐05ハンドガンで左右
‐四人やられた。全てヘッドショット。
‐身体を出すな、あの腕前はただ者じゃないぞ。
スペードの兵士達は車や建物の陰に身を
相手の武器はMK‐74C。アメリカ軍制式カービンライフルで、異なる弾薬の使用とダブルマガジンの使用を想定されて開発された。このためMK‐74Cは片方のマガジンから、あるいは両方のマガジンから弾を
「クロウ、BCOの状況は?」
『BCOが劣勢です。このままだとBCOは全滅し、そちらに敵の全戦力が向かうと予測されます』
ビルからの報告通りBCOは劣勢だ。彼らが全滅するとスペードはこっちに全力を
「BCOめ。何が対ブラックレインボーの専門だ」
移動しようとした敵の頭に銃弾を当て、次に車の陰から顔を出した敵の
「あと二人か」
残る近くの反応は二つ。一と進が撃ちって合っている相手だ。敵の側面に回り込み、様子をうかがう。二人はそれぞれ植え込みと壁の後ろに隠れており、なかなか
「一、真川、そのまま気を引け。私が回り込む」
『オッケー。任せておけ』
敵に
「タンゴダウン」
『隊長、まずいです。BCOが全滅しました。そちらに増援が向かっています』
周辺の敵を全滅させたと思ったらスフルからの通信だ。
「分かった」
『あと気になる敵がいます。敵の中に一人、サイボーグがいるのですが』
「それがどうした?」
『そのサイボーグによってBCOが全滅しました』
「何!?」
『隊長の方に向かっています。HVTを指定。注意してください』
UCG上に接近してくる黄色マークがある。黄色マークはHVT(High Value Target:ハイバリューターゲット)。危険性が極めて高く、味方に多大な損害を
「後ろか」
接近するHVTが背後から。それも速い。これは並のサイボーグではなさそうだ。
銃を構え、敵の襲撃に
(レーザー銃だと……)
「何者だ?」
HVT表示が目の前の男に付いている。零は右手のNXA‐05ハンドガンをその目の前の男に向けた。
「それはこっちの質問だ。答えてもらおう」
サイボーグの男は右手にレーザー・サブマシンガン、左手に高周波ナイフを持っている。
(こいつ、
ただのサイボーグでないのは間違いない。おそらくアサシンタイプでも高性能な部類。格闘戦の武器であるナイフを今持っているということはそういう意味だ。高機動サイボーグはその速さを
「私は正義の
「ほう。そんな
一瞬のうちにジョーカーは間合いを詰め、ナイフで首をかき切ろうとした。
(何!?)
驚異的な
「いい反応だ。こうでなくてはつまらない」
ジョーカーは零の反応速度を試しているのか、
「お前、本当に
彼は零の身体能力に興味を持ち始めていた。サイボーグのため会話する
圧倒的な情報処理能力と情報伝達能力を持つサイボーグの肉体はそれだけで生身の人間を
(このまま避け続けるのは難しい)
攻撃され続けていては勝機がない。反撃するチャンスを待つ。
(ここだ!)
ジョーカーの下段回転
「おっと危ない。こいつを食らいな」
軽口を
正確無比な射撃を回避するため、零は対面の壁に右ガントレットの射出器からワイヤーを打ち込み、空を飛ぶように移動する。このわずかな
「へえ、フックショットか。
しかしジョーカーに攻撃は当たっていない。それどころか零の着地地点を予測し、
(くそっ、速い!)
「じゃあな。久しぶりに
ジョーカーは勝利を確信した。
「ちっ! 磁力フィールドか!」
「俺が攻撃を食らうだと? やるな」
「隊長!」
一が零の援護に到着。体勢を立て直そうとしているジョーカーを
「くそっ、あいつ速すぎるだろ」
それでもジョーカーに弾は当たらない。さすがサイボーグといったところか。尋常じゃない反応速度だ。
「
ピピッ
ジョーカーの義眼に映るAR戦術インターフェイスにボスからの連絡が入る。
「はい、ジョーカーです」
銃弾を避けながらすぐに思考通信に出るジョーカー。相手はブラックレインボーの頂点に立つ存在。戦闘中だろうが、通信に出ないわけにはいかない。緊急の呼び出しだ。
『ジョーカー、作戦は中止しろ。事が大きくなる前に引くのだ』
「よろしいので?」
『問題ない。BCOの連中を始末した。それだけでも大きな成果だ。引け』
「分かりました。これより退却します」
思考通信を終えると、ジョーカーは後ろへ大きく跳躍していき、あっという
「隊長、大丈夫か!」
一は周囲を
「ああ。とりあえず
「あいつ、ジョーカーと言っていたな。あれは規格外の特注義体だ。あの様子だとブラックレインボーは他にも規格外サイボーグを保有しているだろう」
零は念のために左右両方のNXA‐05のマガジンを交換した。
「クロウ、周囲に敵はいるか?」
『こちらスフル。周囲はクリアです』
『こちらビル。同じくクリアです。さっきのサイボーグは完全に引き上げたようです』
「そうか……」
「隊長、後処理は他の連中に任せて帰ろう」
「そうだな。帰るとしよう。問題は新しい車をどこから調達するか、ということだな」
『隊長、それなら問題ありません。ブラックレインボーが乗って来た車を
「ふっ、はははっっ!」
「ビル、お前いいセンスだぞ」
ビルの提案にさすがの零も大きく笑ってしまった。合理的な判断をしているのだろうが、一は
「よし、帰るぞ」
誰も死んでいない。これは
『ジョーカー、今回はご苦労であった。鳥かご作戦は失敗したが、我々を追う者達の姿を見ただけでも十分としよう』
とある廃ビルの屋上。ジョーカーは思考通信でボスと連絡をしていた。
「はい。ただし、スペード8は全滅しました。日本の公安
『それは仕方ない。彼らでは手に負えない連中だ。すぐに欠員は補充する。あれが日本最強の組織、公安局六課か。今度相手をする時は全力でやれ、ジョーカー。ちゃんと舞台を
「
『どうした?』
「私が戦ったあの女、どこかで見たような気がします」
『そうか。お前が気になるということは無視できないな。スペードに情報解析をやらせよう。何か出てくるかもしれん』
「もう一つ気がかりなことがあります。日本には六課以外に非公式組織ゼロがあるという
『ああ、その話か。確かに井口の
「なるほど。では気にする必要はないですね」
『井口は苦し
「そうかもしれません。あの井口という男、我々に隠れて中華連とも取引をしていたようですし」
『今後、日本の活動は
「了解しました。それではイランへ向かいます」
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