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アンドゥ 前編
戦争は誰が正しいかを決めるのではない。誰が生き残るかを決めるのだ。
‐バートランド・ラッセル
War does not determine who is right - only who is left.
‐Bertrand Russell
世界最大の犯罪シンジケート《ブラックレインボー》
あまりにも巨大で、あまりにも
敵を飲み込み、ひたすら成長し続ける魔物。
鋼鉄の意志を
だが日本に手を伸ばしたところで、歯車は大きく外れていった。
ナノマシン兵器である〝ミスト〟
組織の切り札にして頭脳であるジョーカー(アルベド・マイオス)が死亡。
BCOの
世界企業連盟の闇が暴露され始め、国連常備軍の一部に
これらにより組織の影響力は最盛期の三分の一にまで低下。
戦力も当初の予定の半分しか用意できていない。
そう。
ブラックレインボーは零課によって計画を大きく
中核メンバーを失い、かつての
それでもこの魔物は
〈時刻1725時。日本、広島県〉
戦いの舞台は日本に。ブラックレインボーは
ダイヤのクイーン〈ラーン〉はアンドロイド・アイドルグループ〝シスター・ダイヤモンド〟の中心メンバーであるイリスであり、残る二人のメンバー(アイグレー、スキュラ)もブラックレインボー所属だ。組織における暗殺任務や奇襲任務を担当し、アイドルという立場を利用した要人暗殺も実行している。
ここ
《ラーン》
・強化外骨格WE‐5
ラーン専用強化外骨格。着用することで防御力と機動力を強化することができ、二本の武装アームにより火力も向上している。左右の武装アームにはそれぞれ三本の超高周波回転式爪と内蔵式レーザー発射口がある。この爪の内側にはシールド発生装置が組み込まれ、爪の広がり具合とアームの角度
また背中と足にはフロートシステムを応用したベクトル・ブースターが装着されている。地面より
・EX‐10
ラーン専用|PDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)。装弾数80+1発でフェンダス・フェレック強化合金製の専用弾を使用する。手を使わずともWE‐5
《アイグレー》
・L
実体剣としても使えるが、刃の
《スキュラ》
・B‐7
ブラックレインボーの科学力を結集して開発された高出力
レーザーライフルだが実銃とほとんど使い
「行くよ」
強化外骨格を装着したラーンはステージを
「ファンになった覚えはないぞ」
ラーンの武装アームが
それをバックステップで回避し、CrF‐3100で反撃する一。
「まだまだね」
だがラーンはアンドロイドだ。驚異的な反射神経で難なく銃弾を避け、両手に持っているEX‐10
「くそっ……」
「ずるいなぁ。戦闘スーツ着ているなんて」
一も負けてはいない。ジャケットとズボンの下には簡易戦闘スーツを着用しており、身体能力を大幅に強化してある。そうでなければラーンの攻撃など避けようもない。
「二度とアイドルのコンサートなんて来ねえ」
「そんな心配いらないよ。二度目の機会は無いから」
向かい合う二人。
ラーンのEX‐10
黒ぶち
「あんた達、公安零課っていうんだってね?」
珠子が放ったNXA‐05の銃弾五発を左手のショートブレードで全て切り落とし、アイグレーはブレードを構え直す。そしてプラズマブレードを起動。
「だから何?」
気を抜けない状態が続く。ジョーカーよりは遅いが、それでもアイグレーの速さは
「長い
ブラックレインボーの情報網は国際連合、世界企業連盟、BCO、シスター・ダイヤモンドから構築されている。それゆえその情報収集能力は
「さあ?」
距離を取りながらNXA-05を続けて三発撃つ珠子。
「日本のニンジャは絶滅してなかったということね」
(この
事実、アイグレーの剣術戦闘プログラムはジョーカーの戦闘モーションを参考に作られているだけでなく、ジョーカーによる剣術訓練を受けている。
「少しはやるようね」
「
この言葉にアイグレーは
スキュラから放たれる、B‐7
「アイドルがまさかブラックレインボーとは」
壁に張り付いてこちらを狙うスキュラ。直樹はとっさに観客席の背後でしゃがみ、左手ガントレットの盾状シールドを起動した。シールドといっても射撃しながら上半身だけを防御できるように設計されているため、さほど大きくはない。
「伝説のサイファーに会えて光栄。さっさと死ね!」
戦闘女王スペード・クイーン〈ソール〉による立体機動戦闘訓練を受け、戦闘スキルを
「なんなんだあいつ、壁に立っていやがる」
壁の上を地上と同じようにしゃがんでいるスキュラ。
彼女はフロートシステムが組み込まれた専用の装甲戦闘服を着用している。
「それで隠れたつもり?」
「フロートユニットかよ」
壁を走り、スキュラが距離を
それを銃で
「
フレアグレネードの効果でレーザーの弾道が
このチャンスを逃さず、直樹が移動を開始。NXA-05のマガジンを新しいものに換え、一と向かい合っているラーンへ向けて二発撃ちこんだ。
ラーンは左斜め前方から飛来した二発の弾丸を左アーム・シールドで完全に防御した。しかし、シールドが発生した一瞬の
(私のシールドが
一を逃すまいと右のアームで切り裂こうとするが、あと一歩のところで届かず。
〝Warning(警告)〟
〝Interference(
両手のEX‐10
珠子を襲いかかるアイグレーのL
「ニンジャめ」
珠子はアイグレーによる
「大人しく
零課は対ジョーカー模擬戦闘訓練を零により
(これがサイファー。我々の敵か!)
アイグレーは自分の戦闘スタイルが予習されていることを理解した。
零の恐ろしさは〝無限の選択肢を持ち、どんなに低い確率でも
「
「ふっ。アンドロイドからそれ言われるとね、返す言葉がない」
珠子の左
形勢不利なスキュラの援護をアイグレーが行おうとするが、今度は直樹がVM‐520でそれを邪魔する。
VM‐520は直樹がNXA-05以外で愛用している六発装填の回転式リボルバー。対アンドロイド用.357 Sckマグナム弾を
「いつの
急転回し、アイグレーは飛んで来たマグナム弾を緊急回避。人間ならば確実に命中していたが、やはりアンドロイドの機動力は想像以上だ。
「待て。
直樹の手に握られているのはVM‐520であり、NXA-05ではない。
ラーンの強化外骨格は非常に
どこからともなく飛んで来たNXA‐05を一は左手で
「そんな銃じゃ私に響かないわよ」
「うるせえ」
タイミングと残弾を身体で気にしながら二つの銃を
(3、2、1)
一がNXA-05とCrF‐3100を背後にいる直樹の方へ投げ、それと同じタイミングで直樹が今度はVM‐520を一に投げた。
VM‐520の残弾は三発。
直樹からVM‐520リボルバーを受け取った。
「
リボルバーの引き金を引くと同時に
発射された弾丸は対アンドロイド用.357 Sckマグナム弾ではない。驚くべきことに対車両用.357 Eapマグナム弾だ。
(なにっ!)
回避行動が間に合わないため、とっさに二本のアーム・シールドで防御する。それを見越していた一は続けて残り二発の.357 Eapマグナム弾を放った。
(くそっ!)
シールド限界値にはまだゆとりがある。だがここで思わぬことが起きた。
何とアイグレーのL
まさかのタイミングで。
(これは……耐えられない!)
L
(アイグレーは一体何をっ!)
眼前に
VM‐520を一に投げ渡した直樹は左手のシールドを展開しつつ、珠子と背中合わせへ移行。スキュラは珠子とアイグレーは直樹と
「さて、ここからどうする?」
「それを私に聞く?」
NXA-05を構えながら珠子は言葉を返す。
「まあ、とりあえず?」
「ああ、とりあえず」
直樹が両手を伸ばすとちょうどいい所にNXA-05とCrF‐3100が収まった。
「反撃タイムだ」
スキュラがB‐7
珠子はアイグレーの接近を絶妙な
「これで終わりよ!」
アイグレーのL
その恐ろしい攻撃を珠子は逆に待っていた。
右手の銃でアイグレーの左手を狙い、一発だけ発射。これはL
わざとだ。
本当の狙いはそれではない。
珠子の目的はL
アイグレーは珠子から右腕に
「!」
ここで初めてアイグレーは珠子の考えていることを理解した。確率論でいえばほどんと想定していなかった事。まず人間には不可能だろうと思われた事。それを実現されてしまった。
手元から離れたL
そして当たり前だがラーンのシールドを簡単に貫通した。
新しいマガジンを珠子と同様ユーティリティベルトから取り出した直樹。彼が左手に持っているのはNXA-05で使う標準的なハンドガン弾マガジン。これはCrF‐3100でも使用できる。
右手で落ちてくるCrF‐3100へマガジンを
鬼の
「なんでだ。なんで当たらない!」
スキュラの射撃技術は確かに素晴らしい。それでも直樹へ命中させることはできない。直樹は的確にシールドで防いでいるだけでなく、まるでスキュラの狙いが分かっているかのように避けている。人間にそのような
可能性、無限の可能性。どんなに低い可能性でも、想定しなければならないというのは人工知能にとって大きな負担である。
「俺の番だ」
CrF‐3100から次々と放たれる弾丸。一発一発がスキュラの
直樹の狙いはスキュラではない。
放たれた一つの弾丸がB‐7
「そんな馬鹿な……」
銃自体も大きく損傷し、B‐7
「まだだ!」
左手のリストブレードを伸長し近接格闘戦へ移行。
「
そう言ってスキュラは
「悪いな。俺はここでは死ねない」
CrF‐3100が火を
「ありえない……」
スキュラは崩れるように地面に落ち、そのまま動かなくなった。
L
珠子に二発目の
「お別れね」
珠子がそれを拾い、アイグレーにとどめを刺した。
一は直樹によって投げられた直樹のNXA-05を左手でキャッチ。このNXA-05の弾倉は抜いてあるため
VM‐520に残されている.357 Eapマグナム弾三発をラーンへ向けて発砲。シールドによる防御が発動するが、これは想定の範囲内だ。これで彼女の動きを
ラーンはこちら側にシールドを突破できる装備がないことを知っている。だがラーン達の装備は違う。特にアイグレーのブレードは素晴らしい。シールド突破には理想の武器だ。
L
「これで終わりなのね」
目の前には近寄って来る一の姿。
「一つだけ確認したい。なぜ俺達を呼んだ? ライブ会場でブレインシェイカーを散布する計画じゃなかったのか?」
「なんのこと?」
「なぜ
「……さあね」
ラーンは言葉少なく答え、そのまま機能を停止した。
彼女の機能停止を確認した一は構えていた左手のNXA-05を下ろす。
「こちら井凪。タンゴダウン。ラーンとその側近二体を無力化。これより残党の掃討へ移行する」
ラーン率いるダイヤ部門戦闘員は不思議なことにほとんど抵抗をしてこなかった。正しく言えば銃を撃ってきたり、爆発物引火による妨害を行ってきたりしてきたのだが一般人への身体的被害は一切ない。投降する者も多数いた。
一方、スペード部門は違った。アンドロイド兵や洗脳兵士を
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