アンドゥ 後編
〈公安局本部 地下4階〉
非常用作戦会議室。
それは規則正しく、こちらに近づいて来ている。
そして音が止まると同時に扉がゆっくりと開いた。
彼女は部屋に入ると
「さて
「ボスであるAIプロビデンスは
ここでホログラム映像が空中に表示される。
「そのスパコンの所在地がついさっき判明した。505機関とスミルノフからの情報提供だ。ソールは
ホログラムには武装したブラックレインボー兵の姿が映し出された。
「問題のスパコンは〈アーク5〉を
スーパーコンピュータの一つ〈アーク5〉。このモデルはアメリカ国防総省で採用されており、その作動信頼性は極めて高い。どれほど作動信頼性が高いかというとバンカーバスターによる精密爆撃を二回受けたとしてもその機能は完全に保たれているほど。またプロビデンスによる最新のセキュリティプログラムが組み込まれている。その上スタンドアローンのためにアクセスすること自体が難しい。
「我々はプロビデンスを打ち破るため、二つに班を分けて行動を開始する。第一班はプロビデンスとの直接対決。第二班は〈アーク5〉の破壊。一班と二班の構成は次の通りだ」
〈第一班〉
・伊波零
・井凪一
・滝珠子
・山彦響
・三島ケナン(現場復帰)
〈第二班〉
・菅田直樹
・鶴間由恵
・矢羽田ブライアン
・真川進
・藤崎健
「〈アーク5〉を通常手段で破壊するのは現状不可能だ。そのため、強制初期化
メンテナンス
「このメンテナンス
ただでさえ不可能に近い超長距離狙撃。それに加えて零が第二班にいない以上、この狙撃を成功させるのは
「今一度、零課とは、我々とは何者なのかを確認したいと思う」
「
公正公平公明な、平和とは
絶対正義など存在しない。勝った者が正義。
それがこの世界の
我々は正義の
しかし我々が光に照らされることはない。
死に場所も死に方も選べない。
それでも我々は生きなければならない。
生きていかなければならない。
理想の平和を夢見たいところだが、我々は現実と向き合わなければならない。
国家の
誰にも知られず、誰にも
それが零課だ。
我々が正義だ。
それ以外に何を望もうというのか?
勝利を求めよ!
正義の名の
我々が零課だ!」
〈スイス、ジュネーヴ〉
『市民の
対テロ
「
『ロメオ5、こちらHQ。デモ隊を確認した。警察がマーク中。サイファーの姿は無し』
「ロメオ5、了解」
市民による国連常備軍増強反対デモ行進が見える。これはニンバスも想定通りだ。問題はこのような
国連常備軍AH‐5Cアンドロイド兵のロメオ5はS‐2カービンライフルを構え、指定されている
『こちらマイク3。バルトン公園に不審物との報告有り』
『こちらHQ。警察の危険物処理班を急行させる。付近のユニットは
『HQ、こちらヴィクター7。メリー通りにて不審車両を発見。これより調査を開始する』
次々と入る報告。ロメオ5は通信内容を記憶、
シュッ……
第五世代光学迷彩を起動している何者かがロメオ5を始末し、次のアンドロイド兵を狩りに行った。なお被害に
国連軍総司令官のニンバス・アルヴェーン
「
「ああ。無駄なことは止めだ。
不確定要素が確定要素という、この問題に悩まされるのは無駄でしかなかった。
国連軍本部(国連軍総司令部)はアリアナ公園内に置かれており、そのアリアナ公園では
「こちらシャロン2‐1。スキャナーに感有り。サイファーと思われる」
『シャロン・リーダー了解。全ユニット戦闘に備えよ』
シャロン隊員はオレンジ色レーザーサイトが付いた特徴的なMK‐74Cカービンライフルを持ち、白い強化戦闘スーツ、ボディ・アーマー、コンバットベスト、UCGを着用。スペードやシャドウ・リーパーとは異なり、身辺警護部隊は〝
MK‐74Cを構え、シャロン2‐1はスキャナーの反応を追う。
「
相手は第五世代光学迷彩を使用している。
通常のステルス・スキャナーでは精度が足りず、
シャロン2‐1は敵の
「
すぐさま銃の引き金を引き発砲。その一連の動作は一切無駄のない、冷静にして
〝Enemy is an anomaly(敵は理論を
回避行動を実行し、シャロン2‐1は敵の銃撃を回避。ここまでは良かった。問題はその次だ。シャロン2‐1の移動先がなんと落とし穴だったのだ。
「お、落とし穴だと……」
どうにかして身体を動かそうとするが、ますます身体がくっついていき、どうしようもない。
(ふっ、
皮肉なことにシャロン2‐1は人生で初めて笑った。少しだけだが。
7メートル離れた所で銃声が鳴っている。
もうここに敵はいないようだ。
『HQ、こちらシャロン・リーダー。ディメンション・ディフレクターを起動する』
シャロン・リーダーは光学迷彩を使用し、動き回る敵を
『総員、通信障害に備えよ。
ディメンション・ディフレクターが起動。目には見えない
国連本部前にはシャロン隊が集結していた。当然、目的は零課の要撃。彼らは零課のメンバーがここに来ていることも分かっていた。ディメンション・ディフレクターの効果が
銃を構え、侵入者達を狙うシャロン隊。それに
「正面突破だ!」
オレンジ色のレーザーサイトと銃弾が飛び
‐
‐
ディメンション・ディフレクター影響下では銃弾の軌道が
‐新
‐我々こそが世界だ!
プロビデンスによる鉄の
〈国連軍総司令部 一階〉
国連軍本部へ侵入した零達。追撃してくるシャロン隊。
「ダメだ! ここで食い止める!」
「三人は行って!」
アリアナ公園のシャロン隊を食い止めるべく、珠子とケナンの二人で入り口を守る。時間
‐敵を視認した!
‐行け! 前進しろ!
シャロン隊員が左右の通路から現れ、零達を
目の前の中央階段でも敵が銃を構えていた。
それを見通していたかのように零、一、響の三人が
零は前を。一は左。響は右を対処する。
‐回り込め! フォーメーション
しかしここで新たな増援が両翼から展開。CSSの意地と言えるだろう。彼らは死を恐れてはいない。彼らが恐れているのは
「隊長! ここは俺らが
「零、先に行け!」
シャロン隊の
彼らは強い。
一と響は理解していた。このままでは誰も先へ進めないことを。
「勝手に死ぬのは許さんぞ」
零はNXF‐09のマガジンを交換し、総司令官
〈国連軍総司令部 二階〉
大きな中央
なお国連軍本部内には非戦闘員の姿は無く、戦闘員もシャロン隊のみである。
‐敵はすぐそこだ。
六人のシャロン隊員はMK‐74Cを構えたまま動かない。
零はプロビデンスの思考を理解した。プロビデンスは
BXセントリーガンはディメンション・ディフレクター影響下でも自動で弾道補正を行い、高性能ステルス・スキャナーを内蔵。敵味方識別能力も大幅に強化され、高レベル対EMP処理が
対する零は零で新しい戦闘スーツを使用している。ケナンを中心とする零課技術者チームにより開発された《全天候型特殊作戦スーツ・
〝Lock-on〟
零の姿を確認するや
少しタイムタグを
実際はシャロン兵士の銃から一発も弾が放たれておらず、セントリーガンの弾が命中することも無かった。
六人のシャロン兵は全員無力化。死んだ訳ではない。ただ気絶しているだけだ。問題なのが素手によってという点を除けば。その上、ご
「
零は歩を進める。彼女の背後には本体が吹き飛び、自動機銃としての機能を失ったBXセントリーガンが倒れていた。
〈国連軍総司令部 三階(応接用ホール〉
総司令官
「ようこそ。国連軍本部へ」
国連軍総司令官にしてブラックレインボーのボス。彼は人間として振る舞っているが、クイーン達と同じ
「やはり
「人工知能による世界支配。まるでSF映画ね。でも私は
零はNXF‐09を背中にマウントした状態であり、銃を手に持っていなかった。
「なぜ新しい
プロビデンスは両手を広げ、自身の理想を語る。
「これは
お互い一定の距離を取りながら、時計周りに歩き出す。
「確かに。上に立つ人はどうしようもないクズばかり。十年
一部の国家は人間国会議員の代わりにAI国会議員と呼ばれる制度を導入し、さらに国によっては警察や軍隊にもAIによる組織管理が行われている。AIによる業務の
「人の手で人を運営する時代は終わった。そして、人の手でAIを管理する時代も終わった。これからはAIによって人を運営する時代だ。人が進化するようにAIも進化する。《
「私から言わせればそれは幻想。手にしようとすれば消えてしまう
「人間が崩れぬ平和を
「分からない。でもいつか来る。人間の可能性を私は信じている」
「人類の歴史は戦争への狂気と平和への
プロビデンスは零の顔から目を離さない。逆に零もプロビデンスから目を離さなかった。
「それは無理ね。私がそんなことさせない」
「ならば
二人が歩みを止める。
零が右ホルスターからNXA‐05ハンドガンを引き抜き、プロビデンスも同様に右のホルスターからPD2ハンドガンを引き抜いた。
そして二つの引き金が同時に引かれる。
銃口から最初の弾が飛び出し、その弾はお互い相手へ届くことなく飛んで来た弾と衝突した。運動エネルギーの
二発目も。三発目も。
次々と落ちていく弾。
まるで息を合わせたかのような
しびれを切らしたかのように零とプロビデンスは距離を
それでも二つの弾は吸い寄せられるかのようにぶつかり合う。
互いにその先を
装弾数でいえばPD2の方が一発多い。
弾切れになるタイミングに合わせて、零は身体をプロビデンスの側面に
プロビデンスへ右
「
プロビデンスの立て直しは零の想定よりも速い。
零の
だがそのまま地面に落ちるようなことを零はしない。力の流れに
「ジョーカーより速いわね」
「生身という
「
「人の世に魔女は要らない。そしてこれからの世にも必要ない。
彼の右手には〝A1トンファーバトン〟が握られた。様々な国で採用されているトンファー型警棒で、紫外線と湿気、高温に強い耐性を示すファクーツ・アンツェス合成樹脂製。熟練者が用いれば攻守ともに優れた武具となる。
「
一方、零の右手には〝Z9伸縮式警棒〟が握られていた。零が軽く右斜め下へ振ると警棒が伸長し、その姿が長くなった。強度と耐久性に
「クイーンだけでなく、ジョーカーや私と渡り合える人間などいやしない。人間の存在価値は自己が決めるのではない。他者が決めるのだよ」
二つの警棒が時に強く、時に
「ほんっと……生きづらい世の中ね」
零が少し押され気味だ。バトン同士が交差しつばぜり合いへ。
「
義体から生み出される力は零を上回り、Z9伸縮式警棒が
「死は誰にでも等しく与えられる」
空中で
「っ……」
一気に
「AIのなのに良いことを言うわ。でも……」
零は
「はぁ。はぁ……言葉に重みがない。やっすい宗教の教祖様みたいね」
「……これは効いたぞ」
胸部が大きくへこみ、プロビデンスは機能不全を起こしていた。彼は補助動力による再起動を試すこともできたが、仮に再起動できたとしても、損傷したことには変わりない。零と対等に渡り合うのは不可能だった。
『……ますか? イーグルアイ、こちらアクィラ4』
ソールからの通信だ。通信が届いているということは今、ディメンション・ディフレクターが破壊されたということだろう。
「……イーグルアイだ」
『
義眼にはソールが機能停止したことを表す〝Lost the signal : Spade Queen〟が出てくる。
「まさかあのソールが破れるとは。信じられない……そちらが勝者だ。トドメを刺すがいい」
〈アーク5〉を失った連絡を受け、プロビデンスは自身の敗北を受け入れた。
「言い残すことはあるか?」
零はプロビデンスに尋ねる。
「……
不思議と満足した笑みを浮かべ、彼は静かに瞳を閉じた。
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